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風早ハ兎文一茶両吟/門前やの巻

     06

二ツ三ツ銭さし捻る朝の月
 熱目の遅き柿の配分      兎文

初オ六句、柿熟れる頃の句に、こもごもの思いが。

     〇

熱目の 目の奥が熱い、眼病。

遅き 少しばかり手遅れ。(それ故に心待ちにしていたのです)

柿の 柿が熟れるのを ね。

配分 ようやく分け前にありつけました、有難やありがたや。

     〇

ふたつみつ ぜにさしひねる あさのつき

 あつめの
     おそき
        かきの
           はいぶん

眼病祈願に穴あき石や穴あき銭を供える民間信仰がありました。さらに「柿医者いらず」とか「柿が熟れれば医者が青くなる」という諺もありました。そんな民俗がこの句を支えていたのです。

     〇

とは云え、「柿の配分」と云い添えた俳諧、兎文は一体何を言いたかったのでしょうか。

ひとつは柿は重宝ということ。どの家にも柿の木があった時代のことです。まず青柿から渋を取り、黄色くなれば皮を剥き保存食にしていました。さらに、熟し柿は皆が待っていましたので市に出荷していたのです。そのようにして、僅かに残った柿の実が、ようやく病人や子どもや老人の口に届いていたのです。

さらに深読みすれば、「柿は医者いらず」とは云え病には勝てません。なけなしの錢から、医者なり薬代に充てることも必要だったのです。「薬くそばい、オイラ死んだってあんなもの飲まない」などと、強情を張っていたのは落語の世界なのかも知れません。藪もいただろうし、毒にも薬にもならない丸薬もあった。それでも、すがる思いで医療に頼ろうとした人々がいた。これが真の人々の思いでありつましい暮らしの一端だったのではないでしょうか。

     〇

俳諧に

里古りて柿の木持たぬ家もなし     芭蕉
そくさいの数にとはれむ嵯峨の柿    去来

句に

柿くへば鐘がなるなり法隆寺      子規
柿の芽を霜が食ひしと山語り      青畦

     〇

門前やの巻    初~六句

初オ    相見して
   春 門前や何万石の遠かすミ   一茶
   春  野梅に留ん其轡面     兎文
   春 乙鳥の休む時にハふくらミて  仝
   雜  土人形の土かわく見ゆ    茶
 月 秋 二ツ三ツ銭さし捻る朝の月   仝
   秋  熱目の遅き柿の配分     文

29.9.2023.Masafumi.

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