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風早ハ兎文一茶両吟/門前やの巻

     10

夢はんし金に成との当違ひ
 たわつけ髪を梳る暁      一茶

初ウ四句、ここにきて暁の情話、恋の句が。

     〇

たわつけ髪 たわは墝、山の鞍部、たおりのことだが、この句では枕などに押されてついた髪の癖のこと。

梳る くしけづる、けづる、すく。朝寝髪を櫛でとかして整える動詞。

暁 ギョウ、あかつき、明け方、夜が明ける頃のこと。(人名用漢字では、さと(る)とも)

     〇

ゆめはんし きんになるとの あてちがひ

 たわつけかみを
 けづるあかつき

夢の句に、<あさきゆめみし>と一夜の夢物語を描いた句を付けていました。初裏入り四句目にして秀歌をひきながらめくるめく情話が展していたのです。

     〇

秀歌に

朝寝髪誰が手枕にたわつけて今朝は形見とふりこして見る  国基(金葉集)

と。

     〇

本歌は万葉

朝寝髪われはけづらじ愛しき君が手枕ふれてしものを    万葉集(2578)
朝宿髪吾者不梳愛君之手枕觸義之鬼尾

後に

黒髪のみだれも知らずうち臥せばまづかきやりし人ぞ恋しき 和泉式部(後拾遺)
かきやりしその黒髪のすぢごとにうち臥すほどは面影ぞ立つ 定家(新古今集)

など、類歌多数。近代の歌には

みだれ髪を京の島田にかへし朝ふしていませの君ゆりおこす 晶子(「みだれ髪」)

アイドルの唄には

Je fonde l'espoir que la robe que j'ai voulue
Et que j'ai cousue
Point par point
Sera chiffonnée
Et les cheveux que j'ai coiffés
Décoiffés 
Par tes mains

Sylvie Vartan ”La plus belle pour aller danser”

     〇

とは云え、歌仙という文藝はおそろしい。

七七の十四文字の情話が、歌仙の運びを一気に恋唄に向かわせていたのですから。さらに、句の付け筋から吟味してみますと、「夢はんし」の前句には、恋の呼び出しともとれる<都都逸>のような慣習句が隠されていたことがわかります。

例えば、

親が止めよと生きてる間 これがせずにはいられよか
破れ褌や将棋の駒よ 角と思えばエー又金が出る
夕べ見た夢唐傘夢よ ハッと広げてエー又さした夢
こうして入れれば破れるもの 知りつ、破いて泣き出され
筏乗り押せば行く行く 押さねば行かぬ 行くも行かぬも竿次第

以下、都都逸数え唄は十番まであるのですがこのあたりで。

     〇

わしとお前は焼山葛 うらは切れても根は切れぬ  高杉晋作

初ウ一句、虎御前
二句、巴御前

いずれも「御前」と呼ばれた貴婦人たちのこと、白拍子の舞や今様の歌で諸国を廻行遊芸した人々があったことを忘れてはいけなかったのですね。

伊予にも、大洲藩領内に「山吹御前」の伝承が残されていました。

3.10.2023.Masafumi.

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