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歌ヲ聞キ乍樗堂一茶両吟/降雪にの巻
En écoutant la chanson......
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ほんのりと此頃になき薄月夜
尾花にひゞく餅の音かな 樗堂
名オ十二句、何故に、このような付け句を ?
〇
尾花に をばな・に、芒、薄。
ひゞく 響く、共鳴し合う。
餅の もち・の、餅は晴れの日の食物。
音かな おと・かな、臼に杵、その賑わいの余韻。「哉」は、係助詞「か」の文末用法+終助詞「な」で、感動・詠嘆を表す。
〇
ほんのりと/ このごろになきうすつきよ
をばなに ひびく もちの おとかな
月に尾花(花札)、月に餅搗(童謡)。並の俳諧なら、おそらく、これで吉としていたのかも知れないのですが、名残り表の懐紙を〆る句に、何故、このような句を ? と、考えさせようとしたのが、二畳庵亭主の目論見だったのです。
〇
詞の裏に隠された、本当の姿を見て欲しかったのです。
歌に
さ牡鹿の入野の薄初尾花いつしか妹が手枕にせむ 人麻呂(新古今集)
初尾花誰が手枕に夕霧の籬も近く鶉鳴くなり 後鳥羽院(玉葉集)
俳諧の連句に
紙燭けしては鶉啼也 信徳
あゝ誰じや下女が枕の初尾花 桃青
百にぎらせてたはぶれの秋 千春
「忘れ草」の巻、初オ六句、初ウ一、二句。
〇
俳諧に
郭公招くか麦のむら尾花 芭蕉
むら尾花夕こえ行けば人呼ばふ 暁台
旅笠をつひのやどりやかれ尾花 成美
など。(暁台は樗堂の師、成美は一茶の兄貴分)
〇
「降雪に」の巻、名残り表の〆の句は<人を乞うる>哀切の歌だった、と思っているのです。
降雪にの巻 名オ七句~十二句
夏 款冬の五月さびしくかき曇 茶
雑 把ぐわらわら洗ふ昏がた 堂
雑 寄合てきのふの仲を直しける ゝ
秋 秋を見にたつ庭の正面 茶
月 秋 ほんのりと此頃になき薄月夜 ゝ
秋 尾花にひゞく餅の音かな 堂
2.11.2023.Masafumi.