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小説「ご用聞き」
私が子供の頃は、
まだ、酒屋さんが家までご用聞きに来ていた。
山奥だったしコンビニも無い時代だったし、醤油とか味醂とかは酒屋さんが家に直接持ってきてくれていたのだ。
「この次のご用はどうします?」
と、酒屋さんが聞くのが私は好きだった。酒屋さんは時々おまけで私にガムをくれたりした。それも嬉しかった。大きくなっなら私もご用聞きになりたいと思っていた。
夢は叶うもので。
時代が今ご用聞きを必要としている。山奥は私が子供のだった頃より更に山に飲まれている。そんな山にほとんど食い尽くされている集落に、
老人がぽつんぽつんと一人で暮らしている。
私は萎びたスーパーの店員なのだが、集客を見込めなくなったので店側から客にご用聞きを出すようになったのだ。
そうして私はご用聞きになった。
ワゴン車を運転して山の上の方に住んでいるおじいさんたちに野菜やお米を配達している、
冬場になってくると灯油を届けたりもしている。
私は自分の仕事を気に入ってきた。商品を届けたあとで次の配達物を確認する間、
いつ果てるともない無駄話に耳を傾けながらさっき配達してきた最中をおやつにもらったりしていた。
私は、
暑くなってきたから夏がけを新しくしたい、と言う要求を一応タブレットに書き込む。
私が子供の頃は酒屋さんにそんな無茶は言わなかったなあ。
私たちは大切な役目も持っていて、独り暮らしの老人の健康状態や食生活について保健所から聞き取りがくるようにもなった。
だから
職場に市から補助金も出るようになったし萎びたスーパーはなかなか安定した運営が出来るようになってきている。
でも、
こうして私が何くれと世話をやいてやるから、
老人はじぶんで何かを働くことをやめて怠け者になってしまって、
やがて筋力が衰えいずれ寝たきりになってしまう。
これは私のせいなのか。
いや違う、そうではない。きっとそうではない。