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小説「レンチン」

電子レンジを発明したのはどこのくそやろうだろうか。それに乗っかった多くのくそやろうどもは何を考えていただろうか。と、同時に電子レンジのおかげで親に見捨てられた何人の子どもが生き延びただろうか。と、同時に親に見捨てられた何人の子ども達から何人やるせない犯罪者が出ただろうか。と、私はレンジが焼そばを暖めてくれるどいんどいんしたのを待ちながら、悪いのは全部自分だと思う。思う事にする。それが一番楽だし、楽だから、辛くない。救いようのない阿呆によってずれにずれ込んだ予定がやっと終わって帰ってきたら未明を過ぎていて、夫はこたつに当たってマンガを読んでいた。こたつにも、ダイニングテーブルにも、水場にも何かを食べた形跡はなく、彼が何時間も石の様にマンガを読んでいたのは顕かだった。冷蔵庫の中にはチンすれば食べられるものがつまっていて、だからこそ、『チンしたくない』彼の気持ちが押し寄せて私は泣こうかと思った。レンジでチンと言う単純作業も自分でしたくない。レンジでチンという単純作業も『私にしてほしい』彼の、為す術のない孤独が建て売り住宅をびちゃびちゃにしていた。この世にレンジが無ければ。私も夫も、まだもう少しましな生き方をしていたのではあるまいか。

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