【Prologue】私たちの傾聴は『傾いた・聴き方』になってはいないか?

こんにちは。東海大学学生相談室の和泉光則です。
大学で教える“傾聴”の話なので、それなりのエビデンスは必要と思い、相談室で行たミニ講習会で、カール・ロジャーズに絞り込んだActive Listeningの話をしました。

 臨床心理系の理論(だけではなく人文社会科学全般に言えることと思いますが)には、それを提唱した、いわば創始者がいます。そしてそこには、創始者の思想、創始者の魂、さらには創始者の願いが込められていて、これらが“理論”の支えになっています。しかしながら、創始者がこの世を去った後、後継者たちの「私はこう捉えている」によって、ほんの少しずつ、理論はその色合いを変化させていきます。これがまっとうな“進化”なのであれば良いのですが、進化とは言い難い(でも本人たちは進化させたと言っている)ような変化も、残念ではありますが、必ず生じてしまうでしょう。

 ひとつ例を挙げてみます。心理テスト“EGOGRAM”で有名な交流分析(Transactional Analysis)の創始者Eric Berneの言葉に「過去と他人は変えられない」というものがあります。英語でも“You cannnot change past or others”のように、ネット検索するとたくさん出ていました。
 それを10年以上前でしょうか。彼の著作から探してみたことがありますが、どこにも見当たらない。他の資料を見ても、彼がいつどこでこの言葉に触れたのか、どこにも出ていなくて。それでとある研修の際に、この言葉を引用した講師に聞いてみたんです。すると「私も調べたことがあるのですが、実はわからない」と。
 その後、久しぶりにネット検索すると、なんとこの言葉は英語の引用サイトからほぼ完全に姿を消している。名言サイト、引用サイトは、軒並みその言葉の出展などのエビデンスを求めるようになっていまして、どうやらエビデンスが得られなくて除外されたようです。
 でも、日本語のウェブページはというと、今でもたくさんのページで、引用元が示されないまま「アメリカ(カナダ)の精神科医、エリックバーン博士の言葉」として、堂々と紹介されていたりします。

とある(結構有名な)ウェブサイトに掲載された、バーンの言葉とされるものを引用した記事。

 バーンがこの世を去ってから50年以上、ロジャーズがこの世を去ってから40年近く。やっぱり、創始者の心の中にあった思想や魂は、忘れ去られたり、上塗りされたり、歪んでいくものです。

だから、こそ、“傾聴”論の第一人者であったカール・ロジャーズの言葉をそのまま、出展を明記した上で紹介し、味わうこと、、、とっても大切だと思いませんか?

 さぁみなさん、東海大学に入学して、私のミニ講習会に参加しましょう(笑)
じゃなくって、このマガジンで、わたしなりにエビデンスの得られなかった者は除外して、本当の彼の言葉だけを基にして、“傾聴”を、語ってみたいと思います。
 そうすれば、『傾聴』が、どう耳を傾けるものなのかが、イメージとして浮かんでくるでしょう。

 私自身が、知らず知らずのうちに傾聴を傾(いた)聴(き方)と見誤ってしまわないようにしたい。そんな気持ち。創始者の魂、哲学を感じながら、フムフムと頷き、そして首を傾げながら、楽しんでもらえたら、嬉しいです。


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