ドイツでのPTA活動の体験談


子供が通っていたインターナショナルスクールのPTAでのことです。そこでは、子供達のために学校を楽しく盛り上げようという目的は忘れ去られ、それぞれの国でグループを作り、役割などを押し付け合っている状態でした。

率先して役員やボランティア活動をしていた国のグループは「もう限界だ。なんで協力してくれないんだ」と訴える一方、逆に他の国のグループの人たちは「本来あるはずの行事がきちんと行われていない。勝手に自分たちの好きなようにやってるんじゃないか。」と不満を口にしていました。それぞれ個人で話すと素敵な人々ばかりだったのに、対話が無いことでそれぞれが不満を募らせ、うまくいっていないことは明らかだったのです。そしてついには、誰も役員の成り手がいなくなる、という事態にまで状況は悪化していきました。

そこで私は誰もなり手のいないPTA役員の会長に立候補して、改革を進めました。改革するにあたって行った行事が3つあります。

(1)誰もが気兼ねなく参加できる楽しい行事を提案・開催

まず、PTAの行事として、パン試食会をするよといろんな人に触れ回りました。ドイツは主食であるパンにとてもこだわりがあり、どの国の人もドイツのパンには興味津々でした。しかし、ほとんどのパンは一つがとても大きいので、いろいろな種類のパンを食べ比べてみる機会というのは多くありません。案の定、沢山の人が興味を示し、それならと、ある人はパンに合うハムの肉屋さんを紹介してくれ、ある人はチーズやバターのお店、またあるひとはジャムの提案をしてくれました。さらに、ある人は、おすすめのパン屋を紹介してくれるだけでなく、そのパン屋のおじさんまで連れてきてくれたのです。みんながちょっとずつ自分の得意なことで協力し助けてくれたことで、試食会を成功させることができました。そして、パンを一緒に食べて、たわいのない会話をすることで、今までお互いにいがみあっていた人たちも、打ち解け、お互いを理解して、楽しめることに気づいてもらえました。そして、役員として協力するよ、と言ってくれる人も何人か出てきてくれるようになったのです。

パンを1つ1つ説明してくれたパン屋のおじさん
パン屋のおじさんと彼を紹介してくれた友達

(2)「新入生歓迎会」を「自分たちを含めたみんなの歓迎会に」

 それまでは、新入生歓迎会と言いながらも、新入生のことは所詮他人事だという認識があったため、ボランティアが集まらず、仕事を押し付け合い、結局形ばかりの寂しい新入生歓迎会が続いていました。そこで私は「これは新入生だけの為じゃない。新しい学年が始まるのをみんなで祝う、自分達を含めたみんなの歓迎パーティーにしよう」と呼びかけました。そしてそれぞれの国の料理やお菓子などを持ってきてもらい、それらを説明するカードも持ってきてもらいました。

自分達も一緒に祝うパーティーなんだという認識が広がり、また、自分のお国の自慢の料理を披露する場ができたと喜んでくれた料理自慢の保護者たちが、率先してその自慢の料理を提供したり説明をしてくれたことで、体育館いっぱいに料理が並べられ、数百人以上が集まる、壮大で楽しいパーティーを開くことができました。

ボランティアで持ち寄ってくれた料理達
体育館にずらっと並ぶ料理達

(3)言語の壁を超えた多国籍グループでの交流

最後に、英語があまりしゃべれなくてシャイだけれども、いろんな国の人と友達になりたい、なんとかみんなの助けになりたいと思っている日本人グループの保護者と一緒に、寿司パーティーを開きました。日本人以外の方は、寿司に興味はあるけれど、自分で作るには、高価でとても難しい料理だと思い込んでいました。そこで私は「手巻き寿司っていう、サンドイッチみたいに、なんでも挟んで食べる寿司があるんだよ。簡単に作れるよ」と呼びかけ、ドイツで手に入る様々な食材を並べ、一緒に手巻き寿司を作って食べる手巻き寿司の会を開催したのです。

これはどの国の人たちも喜んでくれました。うちでもぜひやってみたいと、ご飯の炊き方、すし酢の作り方、載せる具材のコツなどを教えてもらいに、ボランティアで手伝ってくれた日本人の方にたくさんの人が話しかけていました。日本人の皆さんは、片言の英語でも十分通じること、日本の文化に興味を持っている人がこんなにいるんだということに気づき、その後もいろんな行事に参加する人が増え、国際的な友人関係も広がり、PTAはさらに活気づきました。

みんなで手巻き
手際よく料理をする日本人保護者の皆さん
ドイツで調達した手巻き寿司の具材達


最後のこの写真は、私が会長を卒業するときに、PTAのみんながサプライズで開いてくれたパーティーの写真です。崩壊寸前で一人で始めたPTAでしたが、何かできることは無いか、こんなアイデアがあるよ、こんな人を知ってるから紹介するよ、と、参加してくれる人がどんどん増えていき、最終的にはこれほどたくさんの人達が自発的に集まってくれたのです。つい一年前まで「だれも助けてくれない」「ちゃんとした待遇を受けてない」など対立していた人たちばかりだったPTAが、こんなにも変わり、そしてみんな幸せそうにしています。

みんなと

これは他人任せではなく、自分事としてとらえ、どうやったら解決できるかをみんなで一緒に考える方向に向かったからです。サービスを提供する側、受ける側、と別れるのではなく、それぞれができること・得意なことを、できる範囲でできる時に少しずつ協力し、助け合うことで、この目標に向かっていきました。そして、同じ目標に向かっていくという過程で、対話が生まれ、お互いの理解を深め、相手に対する思いやりも生まれました。そして、その思いやりの生まれる場所が、自分たちの居場所となり、この居場所をもっと素敵な場所にしようと、さらにいい方向へと進んでいく流れができ上がっていったのです。

これはドイツでのPTAでの経験ですが、現在の日本の色々な場面でも同じように実現できる流れなのではないかと思っています。もちろん私一人では成し遂げられません。皆さんと一緒に取り組んでいきたいと思っております。どうか皆さんの声を聴かせてください。そして多くの人々が幸せになれる社会を目指して、「心をつなぐ優しい街づくり」を一緒に進めていきましょう。どうぞ宜しくお願い致します。

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