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186 日本の映画界について教えてくれた人。
新宿のTOHOシネマズで。
外国との合作映画での、外国人の監督の通訳を募集していたのは、あるベテランの映画スタッフの方でした。
映画のエンドロールにも名前が載るような、その部門のトップの方。
やはり通訳の募集はすでに締め切られ、採用者は決まってしまっているとのことですが、どうしても仕事をさせてほしいという娘の面接をして、話を聞いてくださるというんです。
待ち合わせは、新宿のTOHOシネマズのビル内のカフェで、もちろん昼間の時間。
いったいなぜ会ってくださるのか、どんなお話が聞けるのか、娘はワクワクしながら面接に臨みました。
下働きから叩き上げられる。
その方は、自分の仕事や映画業界についていろいろと話をしてくださったそうです。
娘が最近見た映画でも仕事をされていて、
「あの現場は本当に大変だった。」
なんていう裏話が聞けたそう。
そして、映画のスタッフとして働くには、やはり1から叩き上げていかないといけないということ。
お弁当の手配をしたり、撮影現場の整備をしたり。
身を粉にして働きながら仕事を覚えていき、何年もかかって少しずつ上へと登っていくことができる。
その覚悟があるかどうか、と問われたそうでした。
現実を教わって。
娘はなんとしてでも制作の仕事がしたかったので、「はい」と答えたそうですが、実際の仕事を聞いて躊躇してしまいました。
その方が「それなら」と提案してくださったのは、コロナ禍の撮影ならではの消毒係。
仕事自体は単純なのですが、勤務場所はロケ地である神奈川県や山梨県で、泊まりではなく、自宅から通うことになると。
勤務時間は丸一日。
始発で行って終電で帰るという状態で、約1ヵ月間だそうなのです。
映画撮影というのは短期集中で行われるので、そういうものなんですね。
映画の現場で仕事ができる。
しかし、通勤時間が4〜5時間で睡眠はほぼ車内?
家で寝る時間は取れるのか・・・?
この猛暑の中、皆さんにご迷惑をかけないだけの体力があるかどうか自信がないと、結局娘はお断りすることになってしまいました。
せっかく娘のために特別に考えてくださったのに。
叩き上げていくには、まず体力。
この働き方について来れないなら、やっていけない。
日本の業界で働いていくのはどれだけ大変なことか、娘は知ることになりました。
それにしても、過酷な長時間労働ですよね。
そのために、映像業界のスタッフをやりたいと思う若者が減っているとも聞きます。
この方が娘に会って仕事を用意してくださったり、お忙しい中こんなふうに映画業界について教えてくださったりしたのも、やる気のある若者を育てたい、というお気持ちだったのかもしれません。
こういう方は他にいらっしゃらなかったので、本当にありがたく、残念なことでした。
というのも、この後娘はとんでもない目に遭うことになったからです。