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9.決断
ずっと迷っていた事。
ここに留まるか、地元へ帰るか。
ちょうど失恋もしたことだし、地元へ帰る選択をした。
というか、30過ぎてからの大きな失恋で、1人で立っている事ができないと思った。仕事も辞めて、全てを精算して地元へ帰るつもりでいた。
でも、それは不安で。というか、ここから新しい挑戦をする気力はなかった。そのため、異動させてもらう事にした。仕事へのモチベーションなんて下がりきっているから、でも就職活動をするのも面倒で、挑戦する事から逃げた。
いまどき、都会から地元に帰ってきただけで「都落ち」なんて誰も言わないと思っていたけど、自分が一番そう思っていた。失恋して、傷ついて、仕事へのモチベーションも保てなくて、ただ地元に帰りたかった。なので、他人がどう思ったって私は完全に、「都落ち」で間違いなかった。
私が地元へ戻る決断をしたのは、亮じゃなくって、別のオトコの存在があったから。地元に出張していた間に、友人の紹介で知り合ってから、ずっと連絡を取り合っていた彼(レン)。亮よりもさらに年上の人。
知り合ってから私が地元に帰る決意をするまで、実際に会ったのは1度だけ。メールのやりとりだけでそんなに関係が続くとは思ってなかったけど、案外続いた。
レンとやり取りをするのはなんだかとても心地良くって。なんとなく、都会のせかせかした雰囲気とは真逆の彼が、とても魅力的に感じていた。だから、彼をきっかけに地元へ戻ろうと決めた。
地元に帰りたいマインドになっているところに、彼との出会いがあって、連絡も取りあっていて。だからってそれから付き合うかどうかなんてまだ分からなかったけど。その可能性に賭けてみたかった。
狙い通り?レンとは地元に帰ってすぐ付き合う事になった。
長年過ごした愛着のある場所を離れる不安と、異動とはいえ今までとは全く働く環境が変わってしまう不安。その2つで押し潰されそうだった心に、いつもレンが寄り添ってくれた
多分、レンにはそんなつもりはなかったと思うけど、私はいつもレンの存在に支えられていた。
レンは趣味で、バーを経営していて。仕事帰りはいつも、そこへ立ち寄りレンと過ごして帰るようになっていた。
地元に戻ったことで、同級生ともたまに会っていたけど、なんだか話しが合わなくなっていて、一緒に居てもそんなに楽しめなくなっていた。
それもあって地元の同級生とは自然と距離を取るようになり、いつも仕事が忙しい亮への想いも次第に薄れていった。
よって、その頃の私には、レンとの時間だけが支えとなっていた。
レンは私が連絡すればすぐにリアクションしてくれたし、「会いたい」と言えば会ってくれていた。話したいと言えば電話もしてくれた。そんな彼に、私は依存していたのかもしれない。
彼には肝心な、結婚願望がなくて。いつだったか、ハッキリと言われたのを覚えてる。
「俺は誰とも結婚しないから、俺なんかと居たら婚期逃しちゃうよ。」
って。
そんな事言われてももう遅い、彼の事をどんどん好きになっていたから。でも、この恋のタイムリミットはもうすぐそこなんじゃないかって、そんな風にも思っていた。
バツイチ子持ちの亮と、結婚願望のないレン。
このタイミングで気持ちは、完全にレンに傾いていた。