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猫と私のダイアローグ Ⅱ

辰吉「わかった。まず一つ目じゃなあ・・・其方ならわかると想うが、
  『陽が燦々と輝く日は、弾む心に合わせて軽やかにステップを踏ん
   で歓びのなかで歩む。土砂降りの雨の日は、あえて傘をささずに濡
         れ鼠になって頭を掲げて踏みしめて歩む。そして、何れの日も感
          謝して生ききる。』と言う事じゃ。   
         儂も若い頃は、この生の本質的なほんとうの意味がわからずに、
   事在るごとに、卓袱台を ひっくり返してのう・・・何を隠そう卓
        袱台の辰とは、この儂のことじゃ・・・」   
私  のけぞって 「げげ、それではあの伝説の卓袱台をひっくり返す
         事108回、それもわずか1年で・・・とお聞きしております。
   その右肘右手首のぎこちなさは、きっとそのせいなんですね」
辰吉「馬鹿!これは惚れたお純を、恋敵寅吉から奪い取った時の勲章
         よ」  
私     再 び大きくのけぞる
       「ええ!祇園小町と言われた、あのお純姐さんですか?」
辰吉「どうでもいいけど、其方はいやに猫世界のことに詳しいの。
          ほんとうは、猫界の芸能レポーター青猫か?」
私 「めっそうもありませんわ、そうではありあません。そうではなく
    て、私と棲んでいる三毛猫<メリーちゃんの羊>が無類の演劇通
         で、眠れぬ夜に子守唄代わりに聞かせてくれるのです」
辰吉「おいおい、一体どういう仲なんだ・・・まあ、どうでもいいけど
   ・・・」  
     気まずい沈黙がゆっくり解けて 
私 「はい、話を元に戻して、お純姐さんとの間には、確か猫芝居で一
    世を風靡した鶴之丞さんをもうけたのですよね。確か猫川幸尾の
  <鴉よ、俺たちは爪を磨ぐ>で主演を務められて、其の年の演劇祭
        の最優秀主演女優賞を総なめ、猫川は猫田国尾賞を受賞という 
         ・・・」
辰吉「やれやれ、其方にはかなわんのう。その通りじゃ・・・だがな、
   これ以上先回りしてペラペラ話をするなら、もう、しゃべらん
       ぞ!」
私 「すみません。もう話の腰はおりません。何も申しません。
    傾聴に徹します。どうぞ物語ってください」 

          沈黙

辰吉「・・・わかった。だが一度でも腰を折ったら儂は即帰るからな
          あ」    
      平身低頭して
私 「それはもう致しませんので、何卒お願い申し上げます」
辰吉「さて、儂の物語を語ろうか。今の儂の心境は、歌に詠めば
  「日の翳り頬杖ついて時を食むジャリジャリとああ狂おしい
私 「歌を詠まれるのですか? 素晴らしいご縁ですね。私も時折詠み
         ます」
辰吉「そうか、それは縁だな。其方も詠んでみなさい」
私 「逝くは摂理自ずと消える影法師 陽だまり浴びてここに極まる」辰吉「うん、うん、なるほど、しかしそれは儂の心境を想はかっての歌
          かな・・・」
私 「・・・それもなくはありませんが、嘗ての私の日常でもありま  
   す」
辰吉「そうか・・・人生は生きて生、病んで生、老いて生、逝きて生。
   生き切って初めて、人生という自分の自画像を描き切ったと言え
   るのだ。この意味わかるかなあ・・・」   Ⅲに続く


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