言語を考えるー「ポライトネスによる会話の長文化」②
コミュニケーションスキルの一つに「アサーション」というものがある。「相手の立場を尊重したうえで自己の考えを主張する」というもので、その大きな特徴は「提案」と「対案」である。(平木典子,2009)相手に対して自分の考え方を一方的に押し付けるのではなく、「こういうのはどうだろうか」と提案する。そして相手が拒否した場合のことも考えて、「もしだめなら、こういうものもある」という対案も同時に示すのである。この「アサーション」が良好な人間関係を築くことに役立つということで、最近では認知行動療法の方法論を取り入れた「アサーション・トレーニング」によって自分の意見を相手に受け入れてもらうために円滑に伝えるための研修を受ける人が増えている。
ポライトネスでも「アサーション」と同じ考え方ができるのではないだろうか。「見てください」や「見てもらえますか」では提案とは言えない。「見てもらえませんでしょうか」になると提案の意味合いが出てくる。さらに「見てもらえませんでしょうか。もし難しいなら…」というような流れになれば、まさしく「提案」と「対案」である。このように相手に対する「配慮」の気持ちを示す要素を加えていくことで、文章は長くなっていくと考えられる。日常会話では「見てもらっていただくことは可能だったりしますか」などという言い方が実際にある。ここには「いただく」という謙譲語と「だったり」という可能性もあるのかどうかを尋ねる控えめな提示表現が加わることで長文化していることが分かる。(続く)