検察庁法改正案の成立断念で考えるネット世論と“不要不急”の国会審議
黒川弘務・東京高検検事長が賭けマージャン報道を受けて辞任した。検察官の定年延長に、いわゆる“黒川人事”を可能にする特例規定を盛り込んだ検察庁法の改正案は今国会での成立が断念された。
○検察官の定年延長自体は時代の流れ
そもそも検察庁法改正案の原案は去年10月頃に明らかになったが、その際は特に異論が出なかった。ほかの公務員と同様に検察官の定年を段階的に65歳に引き上げるというもので、これ自体は時代の流れであり、検察官だから認められないということはないだろう。
○一斉に反対の声が出た検察庁法案の特例規定
今年1月、黒川検事長の定年延長が閣議決定された。この異例の人事に政府は「余人を持って代えがたい」と説明。そして今国会に提出された法案には、いわゆる“黒川人事”を後付けするような特例規定が加えられていた。つまり63歳で役職定年するが、内閣が「公務の運営に著しい支障が生じる」と認めれば現職にとどまれる。人によっては内閣や法務大臣などの判断で高いポストのままでいられるというものだ。これには元検事総長をはじめ検察OBや全国の弁護士からも反対する声があがる事態となった。
○“コロナ自粛”の中、ネットで民意が爆発
さらに今回はネットで民意が爆発したことが大きい。ツイッターで30代の女性が「#検察庁法案に抗議します」と投稿したことがきっかけに、法案に反対する声はどんどん広がり、大きな反対運動になった。著名人、俳優、歌手なども一斉に反対の声を上げた。外出自粛を余儀なくされる中で人々にとってネットだけが自由に正直な意見を存分に発信できる場となったからだ。ネットによって一大世論が作られ、民意がこれまでにない大きなうねりとなった。それが法案の成立を断念させた最大の要因だ。
○今審議すべき法案だったのか?“不要不急の法案”
そもそも検察庁法改正案は今、審議すべきものだったのか。コロナで世界が混乱し、経済が停滞する中で何が何でも成立させなければいけなかったのか。多くの人たちは「優先順位が違うのではないか」と感じたと思う。“不要不急の法案”と揶揄された検察庁法の改正案。政府・与党は秋に開会が予定されている臨時国会で改めて成立を目指すというが、余波は続くと思われる。
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