飾る書で暮らしにうるおいを 書道家 城戸智子さん
ただ字を教えるだけではなく、生徒さんと一緒に人生をより豊かにする姿勢で書を伝えられている城戸智子さんにお話しを伺いました。
城戸智子さんプロフィール
出身地: 福岡県みやま市生まれ
活動地域:全国
経歴:大東文化大学文学部卒業 田邉翠香先生(漢字)、慶徳紀子先生(かな)、清水恵先生・宮村玄先生(インテリア書)に師事 1982年毎日展初入選
活動:高等学校書道講師を経て人材派遣会社に入社。スタッフ対象の書道セミナーをはじめ 企業からの筆耕依頼に対応。マナー研修講師その他 社会人・学生対象のキャリアカウンセリング業務等25年にわたり従事。その後独立し書道団体には属さず、実用書・インテリア書の教室を主宰
・2006年よりアクロス福岡にて1月に新春書作展 9月にインテリア書作品展を開催
・婦人画報『キャレモジ公募展』にてベストインテリア賞受賞
・企業での筆ペン・ペン字レッスン開催
・店舗・社名ロゴ・商品パッケージ書・TV番組タイトル書 その他書にまつわる依頼に対応
◆ 文部科学省認定 書道・硬筆 最高位1級取得
◆ 実務書道・ビジネス書道等の資格取得
◆ インテリア書認定講師
◆ かな書道師範
書を通して生活に彩りを
記者:生徒さんの書に一切のジャッジがなく、ちょっとしたコツを教えられるだけで生徒さんの書が見違えるように作品が良くなると伺っています。そんな城戸さんの今の夢について教えてください。
城戸智子さん(以下城戸): 50才まで会社勤めをしていて多忙の日々だったので、これからは癒しを大切にしていきたいですね。自分の好きなことをゆっくり楽しみたいです。そして書を通して生徒さん達の生活に少しでも彩りが増して、日々の生活の瞬間にでも心豊かに過ごしてもらえると嬉しいですね。
記者:城戸さんの作品自体が思わず心が緩んでしまうような、柔らかくて癒される作風です。城戸さんから書を習われる生徒さんはお幸せですね。そもそも今の活動のきっかけは何ですか?
城戸:もともと書道関係の仕事をしたくて大学進学を選びました。師事したかった先生はすでに第一線では引退されていましたが、別の先生を紹介され師範の免許取得のため、2年間の会社勤務を含め6年間東京で過ごしました。
師範の免許取得後、福岡で派遣会社に勤務しまして仕事も楽しかったので、結果的に書道の道に進むことはありませんでした。でも大事な書類や手紙で筆で書くお仕事もありましたし、ビジネス書道の勉強もでき、完全に書道から離れたというわけでもありません。会社員をしていても、いつも書道がありました。
記者:城戸さんと書道、切っても切り離せない関係なんでしょうね。いつから書道をはじめられたのですか?
城戸:小学校1年生のときです。私の家族はいとこ家族と同居13人の大所帯で、そのうち子どもたち7人が書道を習っていました。昔は読み書きそろばんくらいしかお稽古事がなかったものですから。はじめは先生の言われた通りに書いているだけでしたが、小学校5年生のとき、「こんな字を書きたい!」と思い通りの字が書けるようになりました。イメージして、その通りの字を書けたとき本当にうれしかった。その時の事は今でもよく覚えています。
先生の書いたお手本の真似をしても、個性は出ません。お手本を真似したら綺麗できちんとした文字にはなるので、それはそれでいいのですが、みんな同じ字みたいになってしまいます。母は子どもの綺麗できちんとした字を見るたび「お菓子みたいな字ね」と言っていました。今、私は几帳面な字より紙からはみ出そうなほど元気いっぱいな字が好きです。子どもが書くと「こうしよう!」という意識が少ないからか、個性がよく出ます。
記者:先生の教室では生徒さんの個性をよく引き出していると思います。
城戸:ありがとうございます。私自身「うまいね!」よりも「あなたの字が好き!」と言ってもらえるほうが嬉しいんです。お手本は書きますが、その人らしさが出るよう束縛しないようにしています。
生徒さんの作品を私の主催する展覧会に出すときも、せっかくなので、展覧会に出して終わりではなく、家で飾ってほしくて、書く内容・大きさ・額装は本人に決めてもらっています。
母の影響で季節を大切にしたいなという思いがあり、書を通して季節を取り入れ、生活に彩りを加えられたらと思います。
記者:素敵ですね。お母様の影響も大きいんですね。
城戸:そうですね。母は長年俳句を嗜んでいまして、母の句をよくかな作品にしています。昨年、実家近くの画廊喫茶で母と二人展をしました。母の通っている俳句教室の句友の俳句も作品にして喜んでいただきました。作品展は作品をつくっているときもそうですが、準備も含めて楽しいひと時です。
「楽(らく)」と「楽しい」は同じ字
人生を豊かさにするには楽に楽しくやるのが一番
記者:先生が大切にしている価値観はなんでしょうか。
城戸:人の意見をよく聴き学ぶことでしょうか。
書道はスポーツのように数値を測るような基準がありませんから、本来とっても自由なんです。自分では今一つと思った作品でも、人から好きと言ってもらえる事もあります。人の感覚や美意識はそれぞれです。
書道とは一見関係なさそうな夫や子どもからの意見も学びになります。
記者:違いを柔軟に受け入れる事が大切なんですね。
城戸:そうですね。
私が生きていた60年間で世の中はずいぶん変わりました。仕事でもそうですが「私はこれしかやりません!」という人より、柔軟に受け入れられる人の方が素敵です。否定されても「それはそれでいいわね。」と、いいところを見るように心がけていると、私自身が楽になりました。「楽(らく)」と「楽しい」は同じ字ですね。楽に楽しくやるのが一番です。
記者:先生がそう思えるようになったきっかけはなんでしょうか?
城戸:26代後半にフィニッシングスクールに行く機会があり、物の見方を変えることを学んだんです。苦手な人でもいいところを見る。ポジティブに考える。
はじめは意識しないとできません。でも、意識して変えていくようにするとだんだん身につき、意識しなくてもできるようになっていきます。
派遣会社で働いていたとき、新人研修の講師もやりましたが、そのとき受講された方には「毎年ひとつ目標を持ちましょう。」と言っていました。
それは今でも自分でやり続けていることでもあります。私は一年のテーマや目標を筆で書き、好きなフレームに入れて眺めるようにしています。
一年の目標を決めて、それを意識して生きる。
はじめは私も目標を立てることは苦手でしたが、何もないと成長しませんし人間に完璧はありません。
でも、意識していればちょっと理想に近づきます。
人生を豊かにするにはどうしたらいいのか、つねにそのスタンスでいたいですね。
記者:書道を通じて城戸さんの人生が楽しく豊かになり、それを伝播されてる姿勢が本当に美しいと感動しています。本日は貴重なお話を本当にありがとうございました!
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【編集後記】
今回インタビューの記者を担当した岩渕、古川です。書道というと厳しく鍛錬を重ねるイメージがあったのですが、城戸さんの温かく柔らかい在り方で一人一人の個性を大切にされる思いに触れ、インタビューをすすめていくうちに、書とは楽しく自由にクリエイティブな発想で表現できるものなのだと思えた、価値観が変わる時間でした。ありがとうございました。
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この記事はリライズ・ニュースマガジン”美しい時代を創る人達”にも掲載されています。
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