第14回「ワーケーションって、どうなのよ?(後編~デザイン思考)」
ワーケーションを進めるにあたって、もっとも大きな問題点は、どうやってワーケーションの参加者を下田に呼び寄せるかということだった。何もワーケーションするのに、下田でなくてもいいからだ。「なぜ下田なのか」といった強力な吸引力が必要なのである。
そこで考えたのが、各種イベントの開催だ。魅力的なイベントを開催することで、首都圏から人を呼び込むのである。一時代前に考えられた観光的祭りイベントに似ていなくもない。
そんな中、ワーケーション事業をすすめる「Living anywhere」と、参加企業の「ランサーズ」社内にある「働き方改革Lab」が企画したのが、「個人の力を合わせて地域の課題を解決しよう~伊豆下田ワーケーション」というワークショップである。
日本はいまや経済先進国でなく、課題先進国である。しかも地方はそのトップランナーで、人口減に、少子高齢化、経済の衰退、移動の不自由、空き家の激増など抱える課題は山ほどもある。
一地方の課題を解決できれば、それが他地域にも応用でき、やがて日本と同様な課題を抱えるであろう中国や韓国などのアジア諸国、ひいては世界でも、お手本となるべき事例を生み出すかもしれない。
ついこの前まで、前時代性が強調されてきた中国やインドでは、いまやキャッシュレスサービスは、世界のトップクラスの先進性を持ち合わせている。それは、個人の商店でも手数料があまりかからない、ペイペイなどのスマホ決済システムを構築したからで、現金に頼らなくなったおかげで、その分手間が省けて、売上が向上、人々の生活も豊かになった。
中国やインドはそれほど個人商店が多く、クレジットカードの世界では世界金融から取り残されていたのが、スマホ決済が進むことで、キャッシュレス革命が起きたのである。
つまり個人商店の売上増という課題を、スマホ決済がかなえてくれたのだ。
まずは課題を明確にする。課題を解決することで、未来が生まれる。
最近は下田でもスマホ決済が進み、キャッシュレス化がようやく始まった。無人バスの試験運転も行われ、高齢者や公共交通サービスのない地域の買い物難民対策も動き出している。無人バスが動けば、高齢者や買い物難民だけでなく、観光客も同乗できる。福祉と観光の融合政策が実施できるのだ。観光地下田ならではの政策となることも可能だ。
課題の宝庫である地方では、このように、中国やインドにならって、最新のテクノロジーを活用して、独自に課題を克服していく。これからの地方都市のあり方だろう。
同時に、課題克服に参加できれば手応えがあり、面白い。未来に向かって歩んでいく実感も得られる。
地方に暮らすということは、最近では、こうした喜びも伴ってきている。
話がそれてしまったが、ワークショップのことである。
その日は、十数人のワーケーション参加者があった。流行りの「デザイン思考」で下田の課題を見つけて解決する糸口を探ろうとするものだ。僕も含めて地元の3名が登壇して、課題を語る。
地元食品販売会社クックマムの会長である遠藤一郎さんはこんな事を言った。
「ふるさと納税用に、撮影スタジオを探してもないんですよ。必要な業種が、この町には少なすぎます。そのせいで、よりレベルの高い販売展開ができないのが悩みです」
過疎が進んでいくと、不都合が増すのであった。
次に参加者全員で街の中心地を練り歩く。案内は下田市の職員だ。
「シャッター商店街ですね!」
参加者のひとりが目を輝かせて言った。
「この町には、課題がたっぷりありそうですね!」
そういう点では、たしかに魅力的な町である。
「のんびりしてるし、空気もいいし……」
もちろんである。海もきれいだし、山もきれいだ。
町を小一時間ほど歩いた後は、会場に戻ってワークショップだ。班に分かれて言いたいことを、無責任に言い合い、ポスト・イットに書いては貼っていく。その様子は、まるでアジアの安宿で、暇にあかせて旅行者たちが、日がな一日グダグダと話すのに似ていた。違うのが、徐々に話が課題解決に向かって収れんされていくことだった。
これがデザイン思考なのである。
まずは楽しく面白く、幅広く議論すること。「No」と「Bat」は禁句だ。この延長上にフェスブックの「いいね!」もあるように思えた。
この日出された課題克服策の一つとして、「市長のぼやきツイッター」というのがあった。市長がぼやきツイッターを発信することで、この町を助けてやろうと思う仲間を増やすのである。仲間が増えれば、町への関心も高まり、交流人口も増えるに違いない。一種の人口減対策になる。
僕と市職員のH君は膝を打った。
そして二人で密かに企み、それぞれが市長に直談判してみたが、残念ながら結果はボツだった。あくまで真面目な市長なのである。
ところが、それから3ヶ月後、遠藤会長の会社で、この日ワーケーションに参加していたイラストレーターの作品が採用されることが決まった。
思わぬところで、思わぬ結果が出たものである。