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ファンタジーRPGについて少考 その8 武器

その7で書いたように、魔物との戦いではダメージを与える攻撃力が重要です。多くの場合、それは武器を装備するという形でアップグレードしていきます。今回は、そんな武器について書いていこうと思います。

まずは現実における武器ですが、動物を狩る目的と、人を殺す目的で進化してきました。また、近代以降は兵器や拠点を破壊するための武器も発展しています。ファンタジーRPGのほとんどは、人を殺すための武器を魔物相手に使っていますが、これは適切でしょうか。人を殺すための武器とは、人間が持って使い、人体を損傷させることに特化しています。つまり、人を殺すための武器の多くは、武装した人型を相手にして十全な性能を発揮できるようになっているのです。対して、動物を狩るための武器は、素早く逃げる小さな動物、体の大きな力強い動物、こういった獲物を相手取ることが想定されています。

素早く小さな動物、大きな力強い動物、これらを狩るための武器には共通点があります。それは射程が長いということです。小さな動物相手には、気付かれる前に攻撃する、逃げているところを攻撃するというのが重要です。投石や投げ棍棒、弓矢が最適でしょう。特に獲った後に食べたり毛皮を利用したりということを考えると、投石や投げ棍棒は優秀です。投石といっても野球のピッチャーのような強肩は必要ありません。スリングという単純な道具を使えば充分な殺傷力を持つ投擲が可能なのです。紐や布で石を保持して振り回し、遠心力が乗ったところで紐や布の一方を離せば、すごい勢いで飛んでいきます。当てられるかどうかは腕前ですが、威力と飛距離とスピード、そして作成コストに関して非常にお手軽です。次に投げ棍棒ですが、これはいわゆる戻ってこないタイプのブーメランです。ブーメランといえば戻ってくるものと認識されがちですが、戻ってくるタイプは飛ぶ鳥を脅して進路を制限するための囮の道具で、そのものを当てる武器ではないのです。一方で戻ってこないタイプのブーメランは投げ棍棒の名の通り、投げやすく、真っ直ぐブレずに飛ぶ鈍器です。ブーメランはアボリジニの武器ですが、投げ棍棒自体は古い時代には人相手でも世界のあちこちで使われていました。木を削る技術さえあれば作れるのでお手軽で、スリングよりも当てるのが難しくありません。

大きな力強い動物を狩る場合に有効なのは投げ槍と弓矢です。反撃を受ければ人間は死んでしまう可能性が高いため、遠くから攻撃するのが一番なのです。投げ槍をより強く飛ばすためのアトラトル、投槍器という道具もあります。大型動物を狩るのに投げ棍棒より投げ槍が向いているのは突き刺さるからです。体に長い棒が突き刺さっていれば動きにくくなりますし、出血により時間と共に弱っていくことになります。人間は持久力ハンターなので血を流しながら逃げる獲物を長時間追い続けて狩っていました。

弓矢は作成にも使用にも技術が求められます。また、矢も含めた材料というコストもかかります。矢をまっすぐ飛ばすための矢羽をひとつひとつ取り付けていくのは、なかなかの労力でしょう。技術とコストと時間を必要とする弓矢は、それらのデメリットを打ち消すほど強力な武器です。なお、ゲームでは非力なキャラクターが器用さでもって弓を使うことが多いのですが、弓は筋力がとても重要な武器です。引き絞り、狙いを定める間、力を込め続けなければならないのですから、ぐいっと引く力と、引き続ける筋持久力が不可欠なのです。その難しさを解消したのがクロスボウです。引いた弦を引っ掛けて保持するため、狙いを定める間の筋持久力がいりません。また、普通の腕力では引けないような強い弦を、脚力や、てこの原理や、滑車によって引くことができます。弓とは比べ物にならない作成コストや、クロスボウ本体の重量、機構内に納めるための矢の形状に由来する飛距離の減少、および放物線を描く曲射による遠距離射撃に向いていない点など、弓と比べた場合のデメリットが少なくないため、単純な上位互換品とは言えませんが、その威力は折り紙付きです。なんせカトリックの教皇がクロスボウによる戦死者の数を理由に、非人道的な武器として使用を制限しようとしたほどですから。なお、クロスボウはボウガンと呼ばれることがありますが、これは和製英語かつ元々は商品名なので、人口に膾炙したとはいえファンタジーで用いるには抵抗のある単語です。十字弓の他に弩(ど・いしゆみ)という言葉があります。弩は石弓の名の通り石を撃ち出すものもありました。攻城兵器として使うような大型のもの、バリスタやカタパルトのイメージでもある点には注意が必要です。

話を戻しまして、投げ槍や矢には毒を塗ることができます。穂先や鏃に塗布できる毒の量で大型動物を殺すことはまず難しいですが、激痛や軽い痺れで持久力勝負を有利にすることができます。狩りの武器といえば罠も非常に重要ですが、毒と罠に関しては今回は取り上げずに進めようと思います。

魔物には人型をしたものも少なくありません。巨人のような人よりサイズが大きなものを別にすれば、そうした魔物相手に人を殺すための武器を使うことは問題ないでしょう。しかし、例えばドラゴンを相手に通常の武器で渡り合えるかと問われれば、難しいのではないかと思います。ドラゴンとまではいかなくても、ヒグマぐらいのスペックの相手ですら、卓越した戦士でなければ対人白兵武器での対処は容易ではないでしょう。結論から言えば、普通の武器で強力な魔物と戦うことは現実的ではありません。神話を覗いてみても、古い時代の伝説の武器といえば、戻ってくる投げ棍棒や投げ槍です。北欧神話の雷神トールの武器ミョルニルというハンマーや、主神オーディンの槍グングニルが代表例として挙げられるでしょう。やはり、普通の剣や槍で魔物と戦うことにリアリティを求めるのは難しいと思います。

投げ棍棒や投げ槍が手元に戻ってくるというのは、魔法的な武器と言えます。普通の剣や槍でも魔法の武器であれば魔物と渡り合えるかもしれません。羽根のように軽いのに岩をバターのように斬れる長大な剣だとか、強烈な電撃をまとう剣だとか、持つ者の身体能力を超人的なものにするというのもいいかもしれません。こういった魔法の力と、人並み外れた戦士としての才能があってようやく、強力な魔物と対峙できるように思えます。

『モンスターハンター』では魔法の力こそありませんが、長大な武器とそれを軽々扱う超人的な主人公が罠なども併用して怪物を狩っていきます。この例では武器を大きくすることで説得力を出しており、それを扱える主人公の超人性は特筆されていません。大事な要素に狩ったモンスターの素材で武器を改良していくというものがあるのですが、この武器が強くなっていくというのも、よくよく考えればリアリティという意味では不思議な話です。その7で防具の防御力の不自然さに触れましたが、当然それは武器の攻撃力にも言えることです。ゲームという媒体ならではの武器事情と言えます。

このように、ファンタジーRPGの武器についてリアリティを求めると、根底から虚構が必要になります。そういうものという共通認識がプレイヤーに求められるのです。ゲームにまったく触れずに大人になった人物が、ありふれたRPGを初めて遊んだ時、ロングソードからブロードソード、ファルシオン、フランベルジュと武器を持ち替えて攻撃力が上がっていくことに戸惑いを感じるかもしれません。もちろん、武器に疎ければ武器名は記号でしかなく、攻撃力という数値だけで見るため、そういうものと思うだけでしょう。実際に、子供たちはなんの疑問も持たずに武器が強くなっていくことを受け入れます。それの何が問題なのかと言われてしまうと問題無いと答えざるを得ません。普通に暮らしていく上で白兵武器の知識など不要なのですから、ゲームを快適に楽しんでいただければそれでいいのです。問題と言ってよいかはわからないですが、障りがあるとすれば、“そういうもの”を受容していたプレイヤーが創作する側に回った時でしょう。改めて踏み込んだ勉強をしなければ、“そういうもの”しか描けないのです。もちろん、その作品の受け取り手も“そういうもの”と思って受容します。なので問題は生じないということになります。そんな循環が続いた結果、昔と今のファンタジーの乖離があるのだと思います。

さて、それはそうとして、よく使われる武器種を見ていきましょう。投射武器については前半でお話したので割愛して白兵武器に絞ります。

【剣】
剣は武器・兵器としては半端な代物です。間合いは槍と比べれば狭く、破壊力という点で斧や槌に劣ります。また、工具とできる斧や、投げるのにも向いた槍と異なり、対人白兵武器の用途しかありません。その上、作成コストが槍や斧と比べて高く付きます。扱いも難しく、剣術を学ぶ必要があるでしょう。メンテナンスも手間です。利点は、他の武器と比べてかさばらず、携帯しやすく、鞘に納めれば剣呑な雰囲気を大きく軽減できる点にあります。そんな半端な武器ですが、剣は特別な地位を確立しています。それはなぜでしょうか。作成コストが高いということは、所有しているだけでステータスになります。また、剣術に時間を割くことができるという経済的余裕や人脈をも意味します。つまり、高貴な人物の武器というわけです。もちろん剣を持っているからといって地位が高いとは限りませんが、地位の高い人物が剣を携帯している時代と文化圏はとても多いです。戦場でのメインウェポンは長柄武器ですが、平時から武器を持ち歩くとなれば剣が最適なのです。なお、ナイフやダガーといった短い刃物は隠し持てる、投げられるという利点と引き換えに通常使用の射程と殺傷力を犠牲にしているため、ファンタジー作品でのスピードで翻弄するといった使い方はフィクションです。また、レイピアのような細長い剣は、決闘で相手を殺さず負傷させるための武器という側面が強く、魔物と戦うには心許ないと言わざるを得ません。逆に身長ほどもある長大なものは剣のメリットを打ち消します。鞘に納められるサイズならまだ威圧や財力の誇示という点で有効ですが、そうでなければ剣への強いこだわり、戦闘とは無関係な部分に由来することでしょう。いずれにせよ、剣には一種の信仰とも言えるような憧れがつきまといます。聖剣、名剣、宝剣、伝説や価値が権威という力を所有者にもたらすのです。

【槍】
槍という武器は、できる限り敵に近付かないという合理的な必要性の産物です。射程が長いというのはそれだけで強く、また心理的に安全性を感じられます。職業戦士ではない一兵卒にとって、敵に近付くことも人を殺すことも非常に恐ろしく、誰もができることではありません。達人に使わせれば敵を寄せ付けない槍ですが、素人でも両手で持って力一杯突き出すだけで扱えるという容易さが重要な点です。槍が真価を発揮するのは多人数で何本も構えられた時でしょう。戦争の部隊と部隊がぶつかる最前列で、相手方より槍が長ければ先に攻撃を加えることもできます。もちろん、長ければ長いほど扱いやすさは犠牲になりますが、それでも徴兵された一兵卒にとって、敵に肉薄して戦うよりずっと良いはずです。一方、戦いに慣れた猛者にとっても、柄の長い武器というのは最適解のひとつです。グレイヴや薙刀、戟といった武器で一騎当千の活躍をした戦士たちの話は現実でも存在します。馬上で使いやすいというのも重要で、同時にパイクのような騎兵への対抗手段ともなります。このように、槍やそれに類する武器は戦場の花形だったのです。魔物と戦うに際しても、間合いが取れることの利点は言うまでもありません。

【斧】
斧は工具から発展した武器です。軍隊は行軍中に木を切り倒したり、それを加工して砦や橋を建造することが珍しくありません。ローマの軍団の強さの理由には、橋架と野戦築城の巧みさがあったと思います。戦斧は工具としての性能を落としているので先述の工兵の役割と直接関係ありませんが、破壊力という点で最高峰です。盾を弾き飛ばし、鎖帷子を粉砕するのですから、扱えるだけの筋力があるのなら大斧ほど頼りになり恐ろしい武器はありません。魔物と戦うに当たっても、大型の敵に有効打を与えられるでしょう。小型の斧も負けていません。盾を持ちながら片手で扱う武器として非常に強力で、形状によっては投げて使うのにも向いています。ゲルマン人のフランク族は円盾と2丁の斧を持って戦いに臨んだといいます。1丁は腰のベルトに差しておき、敵陣に突撃する際手持ちを投擲、ぶつかるまでに腰から抜いて白兵戦を始めるといった具合です。このフランク族の斧はフランキスカと呼ばれています。余談ですが、中国の青銅器時代には金色に輝く青銅の鉞は王権の象徴だったといいます。

【槌】
棍棒、メイス、ハンマーといった武器は原始的で野蛮なイメージを持たれがちです。剣とは対極にあるように見えますが、棍棒が権力の象徴とされていることから、剣より古い時代からの力のイメージだったことが窺えます。そして、肝心の武器としてのスペックは斧に勝るとも劣りません。刃物と違い手入れが簡単というのも利点です。しかし、鈍器最大のメリットは、質量で殴るという単純な暴力が鎧兜や盾をも凌ぐという事実です。相応の筋力は要求されますが、鉄のハンマーでなぐられたら、手足の骨は折れ継戦能力を失います。兜の上からでも頭部に強い衝撃を受ければ昏倒するでしょう。戦えなくしてしまえば、なにも相手を殺さずとも良いのです。腕力自慢は長柄のハンマーを振り回しているだけで恐怖の存在になれるのです。そんな猛者ではない一兵卒にも遠心力で威力を増加できる鈍器、フレイルという素晴らしい武器があります。柄の短いホースマンズフレイルは熟練の騎兵の武器ですが、柄の長いフットマンズフレイルは槍と同じ利点を持ち、盾を構える敵の頭をかち割ることができます。そんな戦場で猛威を振るう鈍器が魔物に通用するかどうかは、斧が有効なら当然有効でしょう。曲面の甲殻も滑らず打ち据えられますし、岩のような硬さに刃こぼれする心配もありません。鈍器最高、と私情を挟んだところで武器については畳もうと思います。

ゲームにおいて、様々な武器を選べるというのは楽しさに繋がる要素です。新しい武器を手に入れればワクワクします。人を傷付ける恐ろしい道具ではありますが、フィクションの中では存分に振るっていきたいですね。

泉井夏風

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