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泉井夏風
2021年12月26日 02:36
空の果て、世界の真ん中幕間1立ち込めるのはふたつの煙。肉を焼く煙にいぶされながら安酒をあおり、議論しながら紫煙をくゆらせる人々。ここはシティ中層のありふれたパブ。喧騒が煙と共に充満している。今この空間ではとある探空士たちについて酔客連中が喧々諤々言い争いをしている。「だぁから! カロンはもっとこう、細やかなんだよ!」怒気を含めて吠える男。「いーや、“殺しても死
2021年12月23日 12:42
空の果て、世界の真ん中第1話、始まりの船9ブーン兄弟の顔に疲労の色が浮かんできた。もうどのぐらい語っているだろう。店も本来なら閉店時間を過ぎている。だが、店主も店員もそんな事を気にしてはいない。客たちも同じだ。翌日も仕事だというのに。だが、ここまで聞いたからには終わりまで聞かなければ後悔する。もう少しのはずだ。兄弟の手元の台本を見ればわかる。残っていたエールを
2021年12月23日 12:37
空の果て、世界の真ん中第1話、始まりの船8ジーノが語りを切り、エールをゴクリ。マリオもおかわりを受け取る。するってぇとアレかい?大昔の船を手に入れたってのか?例の凄い速い船みたいなトンデモ性能の船だったってのか?さあ、どうでしょうと言ってジーノは小腹が空いたのか腸詰めをつまんで口へ運ぶ。ジーノ、あんたすげえよ。藪から棒に誰かが言う。頭のイカれたホラ話をこんな
2021年12月20日 02:43
空の果て、世界の真ん中第1話、始まりの船7ブーン兄弟が喉を潤す間、客たちは先の予測を始めた。無人塔に遭難したらどうなる?救助を待って餓死が普通だな。誰も近寄らない塔ならまず死ぬ。魔の三角空域を抜けられる奴がそんな立て続けに出ると思うか?まさか凄い速い船を強奪したか?いや、そんなものドックに来たらあっという間に噂になるだろ。わいわいと盛り上がる店内。みんなが物語に
2021年12月19日 20:35
空の果て、世界の真ん中第1話、始まりの船6ジーノはじらすように言葉を切り、エールを飲んで喉を休める。客のひとりがガタッと立ち上がり、無事だったのかとたまらず尋ねる。落ち着けよ、帰ってきた連中の話だ、無事に決まってるだろうに。他の客に指摘され、照れ臭そうに座り直す。良い反応だ。熱中して聞いている証拠だ。ジーノは嬉しそうに兄を見る。兄もニッと笑ってウインクで応えた
2021年12月18日 19:42
空の果て、世界の真ん中第1話、始まりの船5ジーノの脚本家としての評判は悪い。ありきたりの展開、人気作の焼き直し、驚きなど無い、いつものジーノ。だから、今語られている話は少なくともジーノが作った物語ではない、それは間違いないだろう。ジーノの得意とするところは話を膨らませて脚色することだ。つまり話してるそのままが真実ではないと思われる。だからといって、誰が思いつくだ
2021年12月16日 15:25
空の果て、世界の真ん中第1話、始まりの船4魔の三角空域の中心に晴天?巨大な竜巻の中に未知の塔?呆れた視線がジーノに突き刺さる。吹くならもう少しマシなホラがあるだろ。客たちの目はそう言っている。どうする?マリオから弟への目配せ。大丈夫だ兄貴。この話は絶対にウケる。頷きあう兄弟。言いたいことはわかりますよ皆さん。まあ、続きを聞いてくださいな。別段、金を払って聞
2021年12月16日 15:20
空の果て、世界の真ん中第1話、始まりの船3魔の三角空域の空図だぁ?とんだ与太話じゃねえか、盛りすぎだろ。でも、妙なフローレスが現れたってのは聞いたぜ。ギルドにいた連中、しばらくその話で持ち切りだったんだ。マリオとジーノはエールを飲んで軽い休憩。その間に客たちはあれこれ想像を巡らす。その連中、帰ってきたんだろ?魔の三角空域ってのはホラ吹いてるんじゃねえか?でも行きとは
2021年12月16日 15:13
空の果て、世界の真ん中第1話、始まりの船2空の果てだってよ、とんだ命知らずだ。聴衆はげらげらと笑っている。マリオはエールを一気に飲み干し、酷使した喉を潤わせる。女子供しか出てこないから喉が疲れるぜ。そう、こぼすなり誰かが追加のジョッキを渡す。それでそいつら、すぐ飛んでったのかい?客の疑問にジーノがニヤリと笑う。それが傑作でね、船はあるが金は無い、とんだ無計画な船長だ
空の果て、世界の真ん中第1話、始まりの船1立ち込めるのはふたつの煙。肉を焼く煙にいぶされながら安酒をあおり、談笑しながら紫煙をくゆらせる人々。ここはシティ中層のありふれたパブ。喧騒が煙と共に充満している。そんな空間に新鮮な空気が吹き込んだ。新しい客の来店だ。入口付近の者たちが目を向け、おおっとどよめきの声を上げる。何事かと店中の客が開いた扉に視線を注ぐ。そこには
2021年12月16日 15:12
はじめに本作はテーブルトークロールプレイングゲーム(以下TRPG)、「歯車の塔の探空士」のリプレイ小説です。一度限りのシナリオのためネタバレを心配する必要はありません。本作は「著:中西詠介」「冒険企画局」「KADOKAWA」が権利を有する「蒸気と冒険の飛空艇TRPG 歯車の塔の探空士/黒煙の軌跡」の二次創作物です。(C)中西詠介(C)Adventure Plannning Servic