小説「武光と懐良(たけみつとかねなが)敗れざる者」57
第十二章 落日
二、
太宰府の武光(四二)の館を美夜受(みよず・四一)が訪ねてきた。
「和尚が亡くなったと?」
尼僧姿の美夜受が形見として常用していた酒の椀を差し出した。
その椀を手に取り、武光は大方元恢(たいほうげんかい)の死を思った。
大酒を食らい、酒で事は足りると豪語し、飯を食わず、眠らずに座禅をしていた。
頑丈な体のわりに頭は白くなり、長くは生きまいという予感はあった。
「遺言がござります」
美夜受は、大方元恢の臨済宗の僧としての遺偈を武光に伝えたと思われるが、