スターログ1981年2月号 SW極秘草稿
映画第2作目「エピソード5 帝国の逆襲」が日米で公開された翌1981年のお正月に出版された「月刊スターログ日本版 No.28」の記事「SW極秘草稿入手 全9作完訳掲載」を紹介しつつその中身を分析したいと思います。
最初に注意しておきますが、ここで紹介する記事はフェイク(捏造)です。
企画には伊藤典夫氏、井口健二氏、鏡明氏、川又千秋氏、白川星紀氏、横田順彌氏、森まさあき氏らが参加しています。20世紀FOX極東とルーカスフィルムへの謝辞記載もあるので一応公認のジョーク企画だったのではないかと思います。
この当時既にジョージ・ルーカスの9部作構想が公になっており、フェイク企画にインスピレーションを与えたと考えられます。
ファンの間ではこの記事で作られた、特にプリクエル(エピソード1〜3)の内容について1999年〜2005年にかけて公開された実際の映画の内容と符合する部分があるため、予言的な記事として取り沙汰される事があります。
ところがエピソード6と7〜9の物語についてはかなり的外れな内容になっていて、このことから参考にしたであろう「1980年の段階でジョージ・ルーカスが既にインタビューや関連書(「The Art of Star Wars」)で公にしていた主にプリクエルに関する設定」と「当時のファンが期待していたプリクエル/シークエル像」が読み取れるのです。
記事の内容をざっくりまとめてみました。
物語はパルパティーンが皇帝宣言するところからジェダイ大粛清が実行されるまでという、実際の映画では3作かけて語られた内容を一気に消化しています。
ちなみにヨーダは評議会にはおらず、行方が解らなくなっています。
大筋は「エピソード4新たなる希望」の小説版のプロローグにある内容ほぼそのままなのです。プロローグの文末には「ウィルズ銀河史 ファースト・サーガより」とあり、これはいわゆる新三部作全体を指しているのですが、エピソード1と勘違いしたと思われます。(野田昌宏訳版では「英雄伝説 第一章より」と翻訳。)
面白いのは「エピソード4新たなる希望」のオビ=ワンの台詞こそ真実として「エピソード5帝国の逆襲」での告白をミスリードと取ったのか、あるいは認めがたかったのか「ダース・ベイダー」とルークの父親は別の人物とされています。
ルークの父親の名前「アナキン」は1983年公開の「ジェダイの帰還」まで不明でしたので、ジョーハンという名前を作り出したようです。ただ、ルーカスは草稿の段階でルークの前身キャラとしてアニキン・スカイウォーカーという名前を出していました。ちなみにこのアニキン/アナキンという名前はシュメール文明の神アヌンナキが由来であるという説があります。
また現在ではフォースの暗黒面の信奉者として知られる「シス」は当時まだそれが何を指すのか不明だったためここでは惑星と解釈されていて、ジェダイと相対する派閥があるというところまでは考えが及ばなかったようです。
パルパティーンについては原作小説のプロローグでも現在の設定とは微妙に差異があり、大統領に選出された男が周囲の影響で悪魔のような独裁者に変わるような表現のため、この記事では後述のエピソード2の展開のために大魔術師というキャラクターを作り出したようです。
エピソード2はベイダー率いる「帝国軍」対 残存ジェダイを含む「旧共和国軍」という形でクローン戦争へ。ソーサラーがパルパティーンを殺害し、皇帝の座につきます。
タイトルに「帰還」を持って来たのはニアピン賞です。ルーカスが「指輪物語」の影響を受けている所から推測したのかもしれません。
1980年にはエピソード6のタイトルが「Revenge of the Jedi」(ジェダイの復讐)であることが公表済みで、この企画のエピソード6もそのタイトルを用いていました。「ジェダイの帰還」に変更となったのは1983年(公開年)の1月で、日本では変更が間に合わず「ジェダイの復讐」のまま上映となりました。
↓1980年の英BBCの番組内でマーク・ハミルが次作タイトルとして発言。
実際の作品と同じようにクローン兵が登場し、ソーサラーの工場で生産されて帝国の単純な消耗戦力として旧共和国軍と戦います。「エピソード4新たなる希望」の映画や小説では「クローン戦争」がどういう戦争なのはまったく不明でした。「スター・ウォーズ」の世界でクローン技術が初めて登場したのは1991年のスピンオフコミック「ダーク・エンパイア」だと思います。また、クローン技術が一般的に知られるようになったのはクローン羊ドリーが話題になった90年代末のことです。私は子供の頃はクローンという惑星か星系を舞台にした大戦争だと思っていて、クローン技術を初めて知ったのは「地球防衛軍テラホークス」(日本の放送は1985年)という特撮人形劇でした。
しかしここは企画に参加した著名なSF作家陣が見事に「クローン兵による戦争」を的中。
そしてルークの父であるジョーハンとリーマは実際の作品のアナキンとパドメのように結婚式をします。しかしジョーハンはベイダーに殺されてしまいます。
エピソード3では帝国軍の総攻撃で旧共和国軍は離散、ジェダイは全滅しオビ=ワンただ一人となります。火山の惑星で一騎打ちを演じ、ベイダーが溶岩に転落。しかしベイダーは皇帝に救われて漆黒のスーツで蘇り、オビ=ワンはルークとレイアを連れてタトゥイーンに隠れます。そしてデス・スターの建造開始となります。
このあらすじの大部分は、後の「エピソード6ジェダイの帰還」とその小説版で明かされる内容です。雑誌の出版時期はまだ映画の第1稿の検討に入る前でした。
しかし、火山での決闘については1977年にルーカスがローリング・ストーン誌のインタビューで語っていて、1981年には広く知られた話であったと考えられます。
皇帝は魔術師的な側面が強く、奇しくも「最後のジェダイ」のように遠隔攻撃や幻術でジェダイを苦しめたり、テレポーテーションの技も使って何でもありです。
余談ですが、三部作構成や主人公の父親が火山での決闘を演じるのは1988年のゲームソフト「ドラゴンクエスト3」にも影響を与えた部分だと思います。「ファイナル・ファンタジー」シリーズでも脇役キャラにウェッジとビッグスが登場。他にもアニメや漫画・特撮など「スター・ウォーズ」は当時のサブカルチャーに多大な影響を与えました。
今回の目的は、フェイク企画から1981年当時に既に公になっていた「スター・ウォーズ」の(特にプリクエルにまつわる)設定を推察する事でしたが、ジョージ・ルーカスが公表していた大まかな情報をベースに日本が誇る優れたSF作家陣が検討したとはいえ、作る人によってはここまで別物になってしまうという良い見本でもあると思いました。ルーカスの戦争や社会、宇宙を支配する力にまつわる哲学があってこその「スター・ウォーズ」です。
なお、同フェイク企画においてほぼ独自に考えたと思われるエピソード6以降の詳細な内容紹介は省きます。
軽くさわりだけ紹介すると、エピソード6ではソロを取り戻すため再びタトゥイーンが舞台になりボバ・フェットが倒されることが一致していますが、そこは展開上予想できた部分ではあったと思います。後半は海の惑星ウータパウ(惑星名はルーカスの第1作草稿には既に登場していた)に舞台を移して帝国軍と大規模な戦闘が繰り広げられ、ルークとベイダーの決闘の最中にレイアが命を落とすという感じです。ヨーダは死にません。更に、エピソード7以降は謎の少女がカギとなり、宇宙全体を巻き込む映画よりも遙かにスケールの大きな(しかしスター・ウォーズの世界観を激しく逸脱した)結末を迎えます。
毎度ファンの期待が大きすぎるあまり、新作のたびに論争が起きる「スター・ウォーズ」ですが、同誌のコーナー「帝国通信」では第1作「スター・ウォーズ」と「帝国の逆襲」の2つの映画作品についてファン間での論争が早くも巻き起こっています。この頃から歴史は繰り返し続けていますね。シークエルにせよドラマシリーズにせよジョージ・ルーカス本人が作ったとしてもきっと都度大論争にはなっていたことでしょう。
もし興味があればぜひ古書ストアなどで購入してみてはいかがでしょうか。