「テイルズ・オブ・ジェダイ」アソーカ編の見所紹介
2022年秋にディズニープラスで配信されたスターウォーズ シリーズのアニメ作品『テイルズ・オブ・ジェダイ』を、主に視聴済みの方やスター・ウォーズ初心者に向けて私なりの見所や楽しみ方と合わせて紹介したいと思います。
本作は2012年に引退した原作者ジョージ・ルーカスがデイブ・フィローニとともに製作した傑作アニメシリーズ「クローン・ウォーズ」と、2002年に公開された映画作品「エピソード2 クローンの攻撃」を補完する作品です。
記事は視聴済みの方に向けた内容となっています。またドラマの性質上、映画作品のエピソード1〜3 とアニメシリーズ「クローン・ウォーズ」と「反乱者たち」、ドラマ作品の「マンダロリアン」と「ボバ・フェット」の視聴済前提(一部要素のネタバレを含む)にもなっています。
あらすじは「さわりだけ」を意識してなるべくサプライズ要素や結末は書かないよう心がけていますが、完全なネタバレ回避にはなっていませんので映画作品も含めて、未視聴の方はくれぐれもご注意下さい。
各エピソードの時系列
本作は「クローン・ウォーズ」以降のスピンオフ映像作品における重要キャラクターであるアソーカ・タノを主人公とした短編と、「エピソード2 クローンの攻撃(2002)」のヴィランとして登場したドゥークー伯爵のジェダイ時代を描く短編のオムニバスとなっており、エピソード順は時系列順ではなく上図のように様々な時代を往来しています。スター・ウォーズ作品の特徴的なスタイルです。
アソーカ編は前日譚3部作の前・中・後にわたって描かれます。
第1話「生と死と」
第1話で描かれたのはアソーカの誕生と1歳の頃の出来事でした。
アソーカが所属する集落は狩猟採集民(そして男女の役割に格差が無い)のようでパヴ=ティがアソーカを連れて狩りへ向かいます。彼女のセリフでは森を訪れて精霊/先祖の声を聞く事が彼らの重要な慣習であるという事のようでした。
森には生命が満ちています。「クローン・ウォーズ」での描写や原作者ジョージ・ルーカスによればスター・ウォーズの世界では死を迎えた者の魂=生命のフォースは宇宙のフォースと一体となります。宇宙のフォースは時に自然を通して人間に働きかけますが、その媒介となるものが共生微生物(微生物叢)「ミディ=クロリアン」であり、それらは宇宙のあらゆる生命の中にあります。
森を訪れることは宇宙のフォース=精霊/先祖との交信のため、狩りは自然の循環と仕留めた獲物の生命のフォースが宇宙のフォースに還ることを学ぶためであると考えます。これまでの作品で描かれてきたジェダイの体系的なアプローチではなく、トグルータ種族の死生観と儀礼を通して「宇宙の理」と「フォースと人の関わり」が描かれます。少しネイティブアメリカンの精神文化との類似を感じます。
「キャシアン・アンドー」振り返りでも触れましたが、昨今の作品では「ミディ=クロリアン」の設定を用いられる事は無く、代わりにカイバー・クリスタルがフォースと人の媒介を担う場面が多くなりました。(本エピソードでもガンティカがそれらしいものを所持)
それでもこうした間接的な表現によってジョージ・ルーカスの生んだフォースと人の関わりに関する設定(それ自体が自然崇拝・自然信仰・生命科学から影響を受けて作られたものだとは思うのですが)は今も踏襲されているように思います。
その後に起きた事件と顛末は「アソーカ自らの力によるもの」というよりは「アソーカが宇宙のフォースと繋がった」ことが示されたようで、彼女もまたオビ=ワン・ケノービやヨーダ、クワイ=ガン・ジンのように希望を繋ぐ者として選ばれ、生かされる存在であるということを描いているのではないでしょうか。
第5話「継続は力なり」
舞台はアニメシリーズ「クローン・ウォーズ」の時代へ。「クローン・ウォーズ」ファンに向けたエピソードです。シリーズを観ていた人にとってはご褒美的なミッシングリンク、知られざる感動の物語となっています。「クローン・ウォーズ」視聴済みが前提のエピソードであることと、シリーズ最終話に関わるので具体的な内容の紹介は省略します。「クローン・ウォーズ」未視聴の方でこのエピソードが良く解らなかったというはぜひシリーズを見終えてから(長いですが・・・)改めてこのエピソードを見てみてください。
最初にアソーカを気絶させた人物には思わず声を出して笑ってしまいました。
ただ、それ以外の場面は全編涙無しには観れないものでした。
第6話「決意」
「クローン・ウォーズ」最終話と映画「エピソード3シスの復讐」エピローグがクロスオーバーし、前日譚3部作の世界/時代におけるアソーカ&レックスの存在感の補強となるお話がまた一つ加わりました。
アソーカが反乱者として決意を固める経緯の一端が語られます。こちらは「反乱者たち」へのミッシングリンクになっています。
アソーカもまたオビ=ワン・ケノービや続3部作時代のルークのように失望し、変わってしまった世の中との関わりを絶って隠遁者に。
個人的にアソーカはアナキンから分離して生み出されたキャラクター/暗黒面に堕ちなかったIFのアナキンの形だと思っています。アソーカとかつてのアナキンの行動原理はよく似ており、戦士としても優れ、それでいて執着する対象と弱みが無いので先の二人のように苦悩や迷いなく再起するのはシンプルに良かったです。
このエピソードで久々にその台詞を聞きましたが、こんなにゾッとする「フォースと共にあらんことを」は初めてでした。
このエピソードについては2017年に正史としてリリースされている小説との差異が指摘されています。(2023年に翻訳版が出版されました!)
似たような出来事が描かれながら細部が異なるため、デイブ・フィローニが独自解釈で改変したという指摘が見られましたが、個人的には架空の歴史設定に忠実であるかや矛盾があるかどうかよりも、ドラマとして面白ければそれで良いと思っているのと、何よりアソーカの生みの親はデイブ・フィローニ(とジョージ・ルーカス)ですから私はこのエピソードを支持したいと思います。
アソーカ・タノの誕生と成長の歴史
メタな視点でアソーカの成長を追います。
2003年に「スター・ウォーズ」アニメ製作のためにルーカスフィルム・アニメーションが設立され、2年後に公開を控えた「〜シスの復讐」の連動企画としてカートゥーン作品「クローン大戦」が制作・公開されました。監督は「デクスターズラボ」や「サムライジャック」のゲンディ・タルタコフスキーで、映画の製作で忙しかったと思われるルーカスは原案提供のみに留まっています。
この段階ではアソーカはまだ存在していませんでした。
ちなみに「テイルズ・オブ・ジェダイ」第1話でパヴ=ティが狩りで仕留めた動物のカイバックはこの「クローン大戦」に初登場したクリーチャーです。シーンを深読みすると「クローン大戦」が「クローン・ウォーズ」の糧になったという意味にも。実際に「クローン・ウォーズ」には「クローン大戦」由来と思われるストーリーアークや設定・キャラクターがあります。
「〜シスの復讐」公開後に後のSWシーンの最重要人物となるデイブ・フィローニがスカウトされます。(その経緯は「マンダロリアン」のメイキング「ギャラリー」で!)おそらくこの頃から「クローン・ウォーズ」シリーズの構想が練られ、デイブ・フィローニはルーカスからスター・ウォーズ世界の基本概念を叩き込まれていたのではと想像。そして主役となるアナキンのパダワン「アソーカ」が生み出されます。当時映画の宣伝の場では宮崎駿の熱烈なファンであるフィローニ自身が「もののけ姫」にインスパイアされたと語っています。
そのコミカルで可愛らしいキャラクター像は「クローン大戦」の反省=必然的に暗い結末に向かって展開する物語とのバランスを考慮して生み出されたと思われるのですが、悲劇で終幕した前日譚3部作とのギャップであったり、前日譚3部作自体への批判が続いていたことや、以降の映像作品展開がアニメになることに対する不満など依然として牙をむく一部のファンのバッシングの標的に。誕生から波乱の状況だったと記憶しています。
自身もファンであるデイブ・フィローニにとって味方であるはずのファンからの激しいバッシングに曝されながらのシリーズ継続は非常に辛い期間だったと想像します。一方でこの頃の、彼を支えるクリエイター陣と切磋琢磨した日々が後の躍進に役立ったのではないかとも。
それでも「スター・ウォーズ」自体がファン離れと人気低迷に陥り、シーズン4放送中にルーカスが引退を宣言。社はディズニー傘下となり新たな時代へ。当時進行していたプロジェクトは多くが立ち消えとなり、閉鎖された部門もありました。
アソーカ誕生にも関わり、長年に渡りルーカスと共に「クローン・ウォーズ」を創ってきたデイブ・フィローニらルーカスフィルム・アニメーションのクリエイターは師ルーカス不在ながらもシリーズの再興を決意し「反乱者たち」を製作。アソーカ・タノを復活させ、重要なキャラクターとして成長させます。
2019年にはお蔵入りだった「クローン・ウォーズ」シーズン7が製作・公開。
アソーカの視点で「〜シスの復讐」のタイムラインが描かれ、サーガとの結びつきを強固なものにして完結。同年の「マンダロリアン」ではついにデイブ・フィローニが実写作品に参加。ロザリオ・ドーソン演じるアソーカ登場に至り、現在は単独ドラマシリーズの製作が進められています。
・・・この一連の経緯、特にアソーカ誕生から「反乱者たち」までのデイブ・フィローニが送った日々は今回紹介した「テイルズ・オブ・ジェダイ」のアソーカ編と重なるようにも感じるのですが気のせいでしょうか。。。
ドラマ「アソーカ」に向けて
原作者ジョージ・ルーカスが創った最後の主役キャラクターであり、デイブ・フィローニが育ててきたアソーカ・タノは、2022年現在のスター・ウォーズシーンにおいては最も超人的で「英雄」としての素質と物語を備えているように感じます。初の実写化となった「マンダロリアン」でも神がかった存在感を見せていました。
2023年に予定されている単独ドラマシリーズは全編主役の初のシリーズとなります。どんな活躍を見せるのか、どんな物語が用意されているのか。いまから非常に楽しみでなりません。
そして多分このオムニバスのメインはこっちなのではないか、という「ドゥークー編」の見所紹介に続きます。