![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/32046068/rectangle_large_type_2_5a1d981d0d60bd6618ab929957f7e94b.jpg?width=1200)
踊り、躍る その弐 <長唄「藤娘」を題材にした『Wisteria』>
最近は、もうすぐはじまるドラマ「おじさんはカワイイものがお好き。」の放送を心待ちにしています。
こんにちは、日本舞踊家の花ノ本以津輝(はなのもと いづき)です。
今回は、今まで創作した舞踊の中から
長唄『藤娘』を題材とした作品『Wistreria』についてお届けします!
藤娘を再解釈してみた
(写真は私が舞台で藤娘を踊った時のものです)
『藤娘』という舞踊はかなりポピュラーな演目で、例えるならタッキー&翼でいうところの「夢物語」のような立ち位置でしょうか。なぜここでタキツバなのかという問いは置いておくとして。
(ここで「あっ」と気づいた方はたぶん同じ沼の住人ですね。オンライン飲み会しましょう。)
この有名な古典演目である『藤娘』、
私も幼少の頃から幾度も目にし、お稽古もしてきていたのですが、
舞台公演で踊ることになった時に歌詞の解釈や振付の解釈などを改めて調べなおしていたところ、
「おや?ひょっとして、この藤の精って地雷女なのでは?」
という妄想がとまらなくなってしまったことから創作がスタートしたのでした。
まずは、「Wisteria」のダイジェストバージョンをご覧ください。
そもそも藤娘ってどんな演目?
なんで上記のようなクレイジーとも言える演目が創られたのかをお話する前に、現在踊られている「長唄 藤娘」がどんな構成になっているのか?というのをお話します!
【ストーリー】
藤の絡んだ松の大木は、松が男を、藤が女を象徴している。
筋は、藤の絡んだ松の大木の前に藤の枝を手にした藤の精が、意のままにならない男心を切々と嘆きつつ踊る。
やがて酒に酔い興にのって踊るうちに遠寺の鐘が鳴り夕暮れを告げると、娘も夕暮れとともに姿を消す、というもの。
出典 Wikipedia
【構成】
① 置き
踊り手が登場する前のイントロ部分。藤娘の置き唄は唄い手の個性が際立って、何度聞いてもゾクゾクします。大好き。
② 出端
オープニング「♪人目せき笠〜」大きな藤の枝を持って可憐に踊ります。
③ くどき1「♪鏡山〜」
④ くどき2「♪男心の〜」
くどき、とは女性の嫉妬などの心情を訴えながら口説く、しっとりと艶っぽいシーンのこと。藤娘では笠や手ぬぐいを用いて、その心を表現しています。
⑤ 藤音頭 or 潮来出島 (このどちらかがこのシーンに入ります)
藤音頭:これは元々単体の別の曲だったそう。 今では「藤娘の中の一節」という認識のほうが強いので、単体であったことはちょっとビックリでした。
この藤音頭、私が藤娘の中で最も好きなシーンです。
2番構成になっていて、1番と2番が同じ振付ですが、2番ではほんのり酔っている様を踊るという趣向がなんともお洒落だなあと思います。
また、同じ振付で違う表現をしなければならないということから、踊り手の力量が問われる難しいシーンでもあります。
潮来出島:元々は潮来(茨城県潮来市)の様子をうたった端唄。
こちらも藤音頭と同様、元は別の曲。
ですが、こちらは現在でもよく単体で踊られていて、5月頃(潮来の見所であるあやめの咲く時期)になると芸者さんがお座敷で踊ったりもします。
5月頃にお座敷遊びする機会がありましたら「潮来出島踊って!」と芸者さんにぜひ言ってみてください(笑)
⑤ 踊り地「♪松を植よなら〜」
アップテンポのリズム、軽快な鳴物でなんだか心がウキウキしてくる踊り地。つい口ずさみたくなるのは私だけでしょうか?
⑥ 散らし
藤の枝を再び掲げ、夕焼けに佇む、少し切なげでもある美しいラストシーンで幕が閉じます。
「藤娘」は、はっきりとしたストーリー性があるようでないのですが、
踊りの作品として起承転結が鮮やかに描かれており、
"藤の精"が"娘の恋心"というテーマに沿って
それぞれのパートごとに曲調、踊り、衣装や髪飾りや小道具の変化があり、
実に華やかで鮮やかな舞踊作品となっています。
また、可憐な娘ものでありながら色っぽい要素もふんだんにあることも
この舞踊の魅力かな、と思ってます。
ちなみに現在踊られている藤娘の演出は、
1937年に舞踊の名手として超有名な歌舞伎役者 六代目 尾上菊五郎が、
それまで五変化舞踊の一つだった藤娘を独立させたもの。
ちなみに、この人物、
今でも「六代目の踊りが〜」というと、
人物名を言わずとも"六代目尾上菊五郎"のことを指すくらい
ものすごい歌舞伎役者なのです。(語彙力がなくてすごさが伝わりきらず面目無い)
現在の歌舞伎役者で六代目の血筋を継いでいるのは、
中村勘九郎さん・七之助さんの家系
そして、尾上右近さんの家系となります。
どちらも現代における素晴らしい役者さん方ですよね!!
藤娘を基に創作舞踊作品「Wisteria」を創る
上記でも述べましたように、
ストーリーとしては一貫性があるようでないような作りのため
いくらでもこの「藤の精」という登場人物のキャラクターについては
いかようにも想像の余地があるんです。
※今からお話するのは公式の解釈ではなく、あくまでも個人的な妄想による解釈です。あしからず。
まず、1くさり(現代風に言うと"1シーン"とか"1幕"というところを「くさり」といいます)ごとの感情の移り変わり、性格の振り幅がすごい!
オープニングで可憐で無垢な恋心を踊っていたと思いきや
(藤の花を愛しい人に例えて抱きしめたりしてる)
次には色っぽく口説きをはじめ、
よその人にも気があるらしい好きな人に恨みつらみを言ったりし
(実際の振りでも恋する人を叩いたりしてる)
しまいには酔っ払って乱れ始め(たぶん絡み酒でめっちゃ人にも飲ましてるし、めっちゃ惚気まくってる)※藤音頭の場合
次の瞬間には何事もなかったかのように明るく踊り
(寝が足らんとか藤に巻かれて寝たいとかたぶん枕を共にしたいとかそういう色っぽいことなのに、底抜けに明るい曲調で底抜けに明るく踊る)
で、最後は夕日に佇んで鳥を見つめて終わる
(何があってそんな切ない感じになった!)
非常に感情のアップダウンが激しいんですよね。この方。
そこで思い描いた人物像が、
「逢ったこともない人に恋してしまった娘が、妄想によって狂っていく」という設定。
最初はただ好きなだけだったのに、
そのうちに恋に狂って妄想が過ぎてしまって、
自分で自分を追い詰めていってしまった結果、
その人を実際に追いかけていって、
最後は恋するあまり、その人に手にかけてしまうという。
ホラーかよ。
だから、口説いたりとか恨みつらみを言ったりとか惚気たりとかも
全ては彼女の妄想の世界での出来事であり、
彼女は現実の世界と妄想の世界を行ったり来たりしているという解釈です。
『Wisteria』から独立して、破天航路の定番曲となった"藤娘 -Wis3-"
一番その現実と妄想の行ったりきたりが短いタームでわかりやすいのが、
破天航路のライブでも定番曲となった「藤娘 -Wis3-」。
(ちなみになんでWis3かというと、このWisteria作品の中での3くさり目だからです!単純!)
この曲は、前半部分と後半部分では曲調もキャラも違うのが
わかりやすいかなと思います。
気になった方は、破天航路ストアで音楽と動画がストリーミング購入できるのでチェックしてみてください!(ちゃっかり宣伝)
[藤娘 -Wis3-] 収録アルバム
CD「破 -HA-」はこちら!
ストリーミング⏩ https://hatenkohrostore.com/store/16
CD⏩ http://hatenkohrostore.com/store/89
その他、Spotify・Apple Musicなどでもご視聴いただけます!ぜひ!
[藤娘 -Wis3-] 収録動画
⏩ 【破天航路オンラインライブvol.1 ムービー】
鬼才・SADAによるアレンジ、強力なミュージシャン、クリエーターと共に『Wisteria』映像作品が完成
当然、私一人ではこの作品は創れませんでした。
まず、私の想像した世界を具現化するために音楽家で破天航路リーダーでもあるSADA氏に曲のアレンジをお願いしました。
歌詞は元のまま、そしてメロディーもなるべく元のままで上記のようなストーリーを表現したいという想いがありましたが、
その意図を汲んでいただき、且つ、相当変態的でプログレッシブなアレンジは私の想像を遥かに凌駕したものでした。
最初にこのアレンジを聴いた時の衝撃は忘れません。
衝撃っていうか爆撃?
最も驚いたのが、Wis3のギターソロ部分が、ほぼ長唄の合方を完コピだったこと。(ちなみに弾いてるのは破天航路のギター坂田善也氏です)
よくよく聞くと完コピなのに、原曲が思い出せなくなるくらいの変わり様で。この記事を書くにあたって改めて原曲を聴いてみましたが、メロディーが一緒なのにリズムの取り方とかが裏表逆になっていたりするので、
すっごく不思議な気分になります。
ちょっと皆さんにも原曲との聴き比べしてほしい!ほんとに!
(お三味線頑張って練習して「原曲弾いてみた」をやってみますね)
また、長唄の唄い手として大活躍中である真鍋希帆さんを始め、
素晴らしいミュージシャン、映像監督、ヘアメイク、照明の方々にも
ご協力いただき、この作品が形となりました。
改めて感謝でいっぱいです!!
この記事をお読みいただいて「Wisteria」という作品がどんなものか
怖いもの見たさで気になった方は
是非ともフルバージョンもご覧ください!
長編の舞踊作品を創ったのはこれが初めてだったのですが、
古典作品をリスペクトした上で二次創作的に自分なりに解釈したものを創るという過程は、改めて古典の演目を見つめ直し勉強しなおすきっかけにもなりました!
こちらの作品は5年前に創ったのですが、
また演出とか衣装とか練り直して上演できたら、と思ってます。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました!!