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「潮時」は漁師言葉。干満差がある理由を解説。

2018.7.29 22歳

『サピエンス全史』という本が、2016年に出版された。この本は、学問の成り立ちについて語る文章から始まる。

今からおよそ百三五億年前、いわゆる「ビッグバン」によって、物質、エネルギー、時間、空間が誕生した。私たちの宇宙の根本を成すこれらの要素の物語を「物理学」という。

『サピエンス全史』

高校生の頃に机の上で聞いた物理学は、浮世離れした学者の子守唄のように思えたけれど「どうして〜は…なのだろう?」という疑問を突き詰めた先に物理学があるということを、海のそばの暮らしが気づかせてくれた。

というのも自然界は学問の力を借りなければ理解できないことが多すぎる。

今回のテーマは潮流と干満差。

物理学を参考にしながら海水はなぜ動いているのかを解説する。

【海は動いている】

僕が働く海は、同じ日のなかで海水面の高さが平均1.5Mほど上下する。そのためその日・その時間帯によって、同じ岩場でも海中に沈んでいる時と露出している時がある。

これを潮の満ち引きといって、潮干狩りは潮が引いて海水面が低くなった時に露出した浜場で、普段は海の中に暮らす貝類などを拾う。

基本的に1日のあいだに満潮と干潮が2回ずつ訪れる。つまり潮が満ちて引いて、満ちて引く。沿岸から沖合へ、沖合から沿岸へ海水は移動している。

海水が移動することで生じるのが、「潮」の「流」れと書いて潮流だ。

【潮時を読むのが、漁師の腕】

漁師は毎朝、天気予報と一緒に干潮・満潮の時刻を確認する。「潮流」が読めないと、海の上の仕事はできない。

たとえば養殖筏(魚を育てる飼育小屋)を船にくくり「沖合から沿岸へ」移動させるとする。

「沖合から沿岸へ」運ぶ。

この作業は、干潮から満潮へ変わるタイミングを狙って行う。干潮から満潮へ変わる際、沖合から沿岸へ海水が移動するため、その方向に潮流が発生する。その流れに乗せて、筏を運ぶ。自然の力を上手に利用しながら働く。

「そろそろ潮時かな」

日常で使うこともあるけれど、「潮時」という言葉はもともと漁師の間で使われていた言葉。漁師は潮の流れを把握することで1日の仕事のスケジュールを決めていく。

【なぜ海水面は上下するのか】

では「そもそも論」を始めようなぜ「干満差」は生じるのだろう。

結論を言うと、太陽と月の引力によって海水が引っ張られるからである。

ここからは物理学の復習である。

2つ以上のモノが存在している場合、モノとモノの間には引っ張り合う力が生じる。これを「引」き合う「力」と書いて引力という。

月・太陽・地球などの惑星同士も、互いに引っ張り合っている。地球上のあらゆるものには月と太陽の引力がかかっている。

例にもれず、海水にも引力がかかっている。しかし月・太陽との位置関係(距離)が自転や公転などで変化するため、それに応じて引力の強さが変化する。引っ張られる力が強いときは海水面が上昇し、弱いときは逆に海水面が低くなるという仕組みだ。

【引力が海水を引っ張る】

日本で初めて地球が丸いことを理解したのは、織田信長だという話がある。宣教師が持ってきた地球儀がきっかけだった。地球が丸いならば、地球の「下側」にいる人は宇宙に落ちてしまう。今は海水の話をしているので、人ではなく海水ということにして、なぜ海水は宇宙に落ちないのか?

それは月と太陽の引力よりも、距離が近い(というか接している)地球の引力の方がはるかに強いからである。

月・太陽と海水の間で生じる引力。
地球と海水の間で生じる引力。

海水は地球の引力によって宇宙に落下することはないが、月と太陽の引力によって多少伸び縮みする。ここがいちばん重要なポイントである。

【重力と引力と遠心力】

地球が引っ張る力は重力じゃないの?そう思った方のために、引力と重力の違いを説明する。

結論から言うと、重力は引力という大きな枠組みのなかのひとつだ。

海水にかかる力は、月・太陽の引力と地球の引力の引っ張り合い。そしてもうひとつ、遠心力というものがある。

というのも地球は自転していて、その速さは時速約1700KMに及ぶ。

車が急カーブをしたとき、横に振られる力が遠心力だ。地球は車よりはるかに速いスピードで回っているから、海水にかかる「横に振られる力」はとてつもないもの。海水は遠心力によって、宇宙に放り出される。

だから遠心力が強くなればなるほど、海水面は宇宙の方に引っ張られる。結果として、海水面が上昇する。

(地球の引力)−(月・太陽の引力+遠心力)=重力

月・太陽の引力が強くなると、海水面は上昇する。遠心力が強くなると、海水面は上昇する。月・太陽の引力が弱くなると、海水面は低くなる。遠心力が弱くなると、海水面は低くなる。

【干満差の周期】

月・太陽の引力と遠心力の変化について、さらに詳しく説明する。

いったん太陽の引力は忘れる。月の方が地球に近いから、地球にかかる引力の大半は月によるものだからだ。

地球は24時間50分かけて1回自転する。つまり月の方向を向いている面(日本)はより強く月の引力を受けるために海水面が上昇します。逆に、月のある方向と逆の方向を向いている面(ブラジル)は、月の引力が弱いため海水面が低く……ならない!

月から遠いところにあるほど遠心力が強くかかるため、むしろ海水面は上昇する。

月と一番近い面は月の引力によって、月と一番遠い面は遠心力によって、海水面が上昇する。だから1日に2回満潮が生じるということだ。

厳密には24時間50分に1回。

そして満潮と満潮の間、つまり満潮になってから6時間12.5分後が干潮だ。

【満月と新月の日は特別】

地球の自転について理解するだけではいけない。回っているのは地球だけではない。月も地球の周りを1か月かけて回っていて、さらに地球は太陽の周りを1年かけて回っている(公転)。

月と太陽が別々の方向から海水を引っ張るよりも、同じ方向から引っ張った方が海水面は上昇するということ。

別の方向から引っ張り合いをしたら、引力同士で打ち消し合ってしまう。

だから太陽と月が一直線上に並ぶ新月と満月の日は、海水面が最も上昇し、最も低くなる。潮の干満差が激しいので大潮と呼ばれている。逆に太陽と月が直角になる半月の日は、潮の干満差が穏やかなので小潮となる。

【まとめ】

潮流は宇宙によって生じるため、理解しようと思うと大変だ。他にも日本海と太平洋の干満差の違いや、旧暦と月の満ち欠け(潮の満ち引き)の関係など引き合いに出す話は枚挙にいとまがないが、今回はここまで。

要点は、海水は地球の引力で宇宙に落下することはないが、月と太陽の引力によって多少伸び縮みすること。

最後に、ひとつだけ月にまつわるジンクスを紹介させていただく。

【満月と新月の日は出産しやすい】

地球上のあらゆるものには月の引力がかかっていて、それは海水だけでなく、人間の身体も同様。赤ちゃんを身ごもった妊婦は身体のなかに赤ちゃんを育てるための羊水を抱えている。

その羊水が月の引力の影響を受けて、海水と同じように引っ張られる。それゆえ月の引力が強い満月と新月の日は、羊水が身体の外へ引っ張られて出産しやすい。

科学的根拠はない。でも遥か彼方の頭上で輝く月が自分の身体の中の水分を引っ張っていると思うと、(これは僕の哲学だけど)もともと物質はひとつしかなくて、バラバラに散らばったひとつのものがお互いに引き寄せあってるような気がする。宇宙との繋がりを感じて、幸せな気持ちになれる。

そうやって自然との繋がりを感じられることが僕にとって、いや現代人にとってとても価値のあることだと思う。

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橡 峻希 | kunugi shunki
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