いつも雨。
「おぃ。そこの!」
振り返るとアストンマーチン。
ハンドルより手綱の方が似合いそうな人の
違和感がひどい。
「…免許、持ってるんですね。」
「悠長に立ち話か、濡れ鼠め。」
音も無く滑り出す高級車が真横に止まり
苛立つ運転手が乗車を促して助手席を顎でさす。
「汚しちゃうから良いですよ。傘持ってるし、」
手荷物が多いだけで雨具はあるのだ。
何より、遠慮の方が強いけど。
言い終わらないうちに獣の咆哮みたいな空吹かしに脅された。こうなると…
逆らわない方が身の為だ。
急かされるまま右側のドアを開ける。
「ご親切にどうも。」
ぎこちない定型文みたいな挨拶をして座る僕を
射殺すみたいな視線を横から感じるのでもう少し
ガラスの向こうに波立つ景色を眺めておこう。
雨と革張りのシートの匂い。
二人分、車内の空気が緩い。
小さく舌打ちする音。
腕時計を確認する気配も全部、僕の知らない貴方です。
もう随分、知ってるつもりだったのに
隣に居るヒトは大人のひとだった。
気づいたら急に…
窓の外の雨が救い。