H.B.P伝説
己の贖罪が何であったか
それすら忘れた。
世にゆうヴィランであった我が身を忌々しくも「罰した」正義の存在など、四五百年経つ間に泡のように消し飛んだと見える。掛けられた呪いに綻びが生じて月夜に望めば人の姿に戻れるのだ。
所詮、日が昇るまでの僅かな釈放ではあるが幸先が良い。
永久に繋がれた鎖の先で少しずつ
人としての自我を失う事が出来たなら…
と、ひとしきり嘆くのにも飽きた頃から二つの姿で生きる事に適応し始め、幾つかの時代を渡って近頃腰を据えたのが「競走馬としての人生」だ。
「体高は見ての通り、大型のサラブレッドだがな雰囲気がほれ、フリージアンホース並の唯ならぬ妖気を放って居られるまぁ気位の高い先生でな。え?ああ駄目だ!駄目だ!気安く名前なんて呼ぼうもんなら、お前ぇさん飼い葉桶喰らわされるぞ…あの見目だ、SSの血脈に違えねぇとは言われるが実のところ謎が多くてよく分からん。元野良馬だと卑下する連中も居るが恐ろしく強い。お陰で『日曜日の毒蛇』だ『一掃呪文』『黒き鞭』だの二つ名なら山とあるんだが、絶対本人、いや本馬の前で口に出すなよ?めちゃくちゃ機嫌が悪くなるからな。理解しちまうんだアノ御方は。
何、コッチが教わる事が多いもんでよ下々の者は皆センセイて崇めとるんだわ。大きな声では言えねぇが確かに気性難だ。それも有るがちぃと良くねぇ噂も広まっちまってなぁ。」
名だたる騎手や厩舎が「彼」の奪取に血眼になる時期があったのだが、関わった者が次々と精神を病み、レースに支障をきたすようになると、験を担ぐ世界では今や凶兆と見なされる。
それでも欲しいと手を伸ばすのが、近頃デビューしたての新人騎手なのだが、厩務員から兎に角渋られ実力行使に出た。