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我愛你無問題。


思ったより手の掛からない呪霊の巣を祓った後、約束の時間より早く帷の外に出る為に障壁を蹴破ろうとしたのだ。
同時に強く腕を引かれ、「素行が悪い」とかそんな理由で咎められるのかと振り返ると、スーツの胸に抱きすくめられたせいで何も見えない。
ただ、箱庭がどうのと呟く低音が恐ろしく近くて見上げると暗い夜空に一閃流れる煌めきが在ったと思うのだが、定かでは無い。
耳鳴りの後すぐに、全く見覚えの無い場所に降り立ってしまったからだ。


「攻撃を受けた訳では無いので問題ありません。ええ、何とか凌ぎますのでよろしくお願いします。」

伊地知さんと連絡が取れたという事は帷の外には出たのだろう。通話を終えた肩が大きく息を吐き振り返る。

「ゴメン俺、何かいらん事して…」
「たまにあるんです。呪力が結界に思わぬ効果を持たせる事が。君に関しては未知数ですし、もしかすると五条さんの亜空間移動に近い大技を無意識に繰り出した可能性も」
「待って!嘘、ソレ再現出来たら」
「ドラえ、儲けもんですね。」
「…どうやったっけ。えー…勿体ねぇえ」

早く帰れると思ったのに!と頭を抱えても何ひとつキッカケになりそうな挙動が浮かばない。
そうだ、何か言いかけませんでしたか?と対峙して少し顎を上げた。
向き合う相手のサングラス越しに視線が絡むのだが、嗜めるように名前を呼ばれハッとする。
「無事で何より」と大きな手が額をノックした。


降り出した雨に打たれ、やっと見つけた灯りは薄桃色の不自然さで二人を手招いた。

「…ナナミン、此処ってさぁ」
「屋根があるだけ有難い。この際、仕方ありません。」

パンッと空気を裂いて一気に雨粒を払ったジャケットが突然頭上から覆い被さって湿度の高い香りに包まれる。

「!?」

静かにとジェスチャーで伝えて来る人が顎で指す方向に監視カメラを見つけ、何となく、制服姿で連れ立つ自分に居た堪れなくなった。
念の為です。と呟いて躊躇なく建物に侵入して行く大人を慌てて追いかけると、電光掲示のパネルの羅列を前に一歩譲られる。

「好きに選んで下さい。」
「え!何、分からん!システムが分からんて!」

初心者に難しい事をさせないで下さいと縋りつくのを情けなく思いながら必死に辞退すると、慣れた仕草で最上段の角が押され、何処から出現したのか謎なカードキーを手品の素早さでポケットに消した手はもう濡れた前髪を掻き上げていた。

人目も無いが恥じらいも無い。そんな光量の下で踏み込むには勇気のいる場所に来てしまった現実がじわじわと青い羞恥を掻き立てる。

「、ッス!勉強になります!」

両頬を挟む掌で気合い注入。
上手く辿り着ければ、明日の朝には迎えが来るらしい。それまでココで汗を流し、デカいベッドでのんびり待てば良い。たぶんエッチな映像も見放題だし、ピンチがチャンスだ!やったなユウジ!

「虎杖くん?」

広いワイシャツの背中に衝突して、一緒に居る人を改めて視界に捉えた。

「何してるんですか。入って」

怪訝な顔でもう一度、入りなさい。と口にして
手を引いた。


どうしよう────
俺、ナナミンとラブホに泊まる。





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