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かにのおもいで
秋。食欲の秋である。なれば旬のものを食べたくなるのは仕方がない。
毎年この時期になると、中華街では『上海蟹フェア』なるものを開催中である。ならば食べるしかない。という感じで、カニを食べにいくのもほぼ恒例行事となっている。
はじめて上海蟹を食べたときのことは今でもそこそこ覚えている。
そのときに行った店は、技の効いた逸品が堪能できる香港路の店で、カニ以外にも海鮮茶碗蒸しやスペアリブなど絶妙の味が絶妙だったなあ。
その後、しばらく常連となった上海路の店は甕出し紹興酒の美味しいこじんまりとした店で、ここでは毎回蒸し蟹や酔払い蟹をたらふく堪能した。
上海蟹の感想だが、一言で言って「美味い!」
はじめは小ぶりのくせにお高(価)くとまってんじゃねーよ。みたいに思っていたのだけれど、本当すんませんでした。
ケガニの倍以上のお値段もむべなるかなって感じでしたよ。ミソの濃厚な味わいと殻ごとバリバリしゃぶりつくたびに口中に広がる力強いカニ肉の風味ってヤツがね。
その結果、毎年食べにいくことになったわけで、ようするに沼に落ちたってことなのだろうなあ。
さて、ここからが本題の「カニの想い出ばなし」。
香港での想い出
上海蟹初体験は中華街だったわけだが、本当はもっと前出会いのチャンスはあった。香港に一週間旅行に行ったときがそれだ。
行ったのは10月だったのだが、どうやらその時期がちょうど上海蟹のシーズンだった。
上海料理の店へ行ったのは小龍包のバカ食いのためだったが、他のテーブルは当然のようにカニが並んでいた。となるとこっちも意識してしまうわけで、ためしに値段を聞いてみる。
ナマクラ広東語とカニの形態模写を駆使して知り得た値段は二千円ほどだそうで、その当時、日本では最低でも四千円は覚悟しなければいけなかった上海蟹。確かに安い。
が、店に行ったタイミングが香港滞在4、5日目。香港での物価に慣れてしまった頃である。金銭感覚がね。ズレてしまっているわけだ。なにしろ、ちょっと気のきいたディナーが二千円で食べられる街…
金を惜しんでみすみす上海蟹を体験する機会を逸してしまった。我ながら情けない。
境港での想い出
境港に出張に行ったときの話。早朝、散歩がてらに港を散策する。
時期はちょうど冬。
そう蟹のシーズンだった。港の市場では紅ズワイガニがこれでもかというくらいに水揚げされていた。トロ箱に詰め込まれたカニには一杯五百円と書かれたタグがつけられている。
これって安いのか? 安いよな。
が、その日は、午前中からがっつり予定が入っている。カニを買っている場合ではないのだった。
あくまでも散歩途中で見かけた街の風景。いつかまた来よう。カニをしこたま食べるために。そう心に誓いながらその場から立ち去る自分であった。
なお、その次に境港に訪れたときは5月で紅ズワイのシーズンオフ。間が悪いことこの上ない。
釧路での想い出
釧路に旅行に行った。みやげは市場で仕入れることにした。
市場の主役は当然のようにカニだった。
よくTVの旅行番組などで、試食といってはでかいカニ爪を差し出すシーンがあるけれど、あれってやっぱ芸能人だから、TVだから、だよなぁ… と思っていた。
これが大違い。本当に試食させてくれる。そうかあ、そういうことかあ… 釧路、侮りがたし。
売られているのは主にズワイガニ。確かにうまい。
が、それ以上に美味いカニに出会ったのだ。その名は花咲ガニ。
それまで聞いたことがなかった。なんでもアシが早くて、東京の市場に出すのが難しいとのこと。
本当かな? 美味いからは北海道で独り占めしてるんじゃないの? と、そんな疑心暗鬼になるほどに美味しかった。はい、これも試食させていただいた。
とにかく味が濃い。しかも身もしまっていて水っぽさがない。もちろんお買い上げした。
ちなみに、その店ではもうひとつ隠し玉があって、脱皮したばかりのズワイガニがそれ。なんでも売りものにならないから試食用に使ってるそうだが、もちろん味には関係なし。むしろ甲羅ごと食べることができて面白かった。貴重な経験をさせていただいた。
これから冬を迎える。カニの旬、本番である。今年はどんな美味なるカニに出会うことになるだろうか。実に楽しみだ。
初出タイトル「角刀牛虫」99年11月7日 初出
24年11月15日 改稿