電波戦隊スイハンジャー#92
第5章・豊葦原瑞穂国、ヒーローだって慰安旅行
惑星調査員ウリエルの現地報告3
人の子よ
これから私が話す事は荒唐無稽なお伽ばなしと聞き流してよい
もう3000年以上も前の事だから
「高天原族はこの地球から3億光年離れた銀河、NASAがArp 273と呼ぶ地点からこの国に飛来した一族…私が知る限り宇宙最強の戦闘民族である。
最盛期には30星系を支配下に治めた。知力、文明、ヒトとしての進化の最終形を極めた。
恐るべきはその戦闘能力、琢磨よ、お前の直系先祖にあたる右騎将軍、アメノタヂカラオは手刀一振りで小惑星10個は破壊する膂力の持ち主であったぞ」
え…母親からの言い伝えでは岩じゃなかったっけ。小惑星!?
琢磨は食後のあんみつの椀を思わず落っことしそーになった。
「ウリエルさん、ご先祖様は星ぶっ壊して『なんて美しい花火なんでしょう!』なーんて言ってませんよね?」
「こらこら、○リーザ様ではないのだから…
平気でご先祖イジリをする不逞さ、猪突猛進型の性格、顔つきもよく似ているのは不思議といえば不思議だな」
きららがタヂカラオというキーワードを元にスマホでネット検索してアップした画像のタヂカラオを琢磨の顔と見比べた。
「えー!?ぜんぜん似てません~!こーんななんかでっかい岩持った、ムサいヒゲのおっさんと琢磨さんがぁ?」
「はは、伝承による事実の曲解とは恐ろしいものだな。それはカメラも無い時代のイメージ画であるぞ、まあ今の時代のマスコミも本質はそう変わらぬか…」
きららはずっと仏頂面だったウリエルがくすり、と笑うのを初めて見て驚いた。この天使さん、笑えるんだ…
「僕と弟は、母からいつも口伝で聞かされていた。なんで僕達は生まれつき高い身体能力を持つのか、
忍びとして死ぬほどの鍛錬を受けなきゃいけなかったのか?
母は古事記を紐解いて『神の子孫だから人とは違う力を持つ』と高天原族の伝承を教えられたんだ。僕達豊葦原族の力の理由が宇宙人DNAならすごく納得がいきます…」
「如何にも」
ウリエルは追加注文したオムライスを完食してからやっと空腹が満たされたようである。
「だけど、僕達はその異星人高天原族と地球人との間に生まれた子孫…3000年も代を重ねて当時の力は弱まり、身体能力もせいぜい五輪選手を超える程度になってしまった…」
五輪選手超えは、それはそれでスゴいと思うんですけど。
ときららは言いたかったが、怖いくらいに真剣な琢磨の顔を前に、唇を引き結んで我慢した。
「きららさん、3000年前の神話の時代、日本は豊葦原国と呼ばれた。
異星人高天原族と、地球人との間に生まれた子供、つまり神と人間のハーフの子孫が僕達豊葦原族、そして…銀髪銀目の怪力の異星人そのものを、高天原族というんです。
混血種と純血種、力の差は歴然だ。
ねえウリエルさん、どうして野上先生は地球人の両親を持つのに高天原族に変身できるのかなあ?
なぜ純血種がいきなり出現した?何もかも知ってるんでしょう」
「言わぬ」
食後のオレンジジュースをストローでちゅこ~っと吸い上げてしまったウリエルはすっかり元の仏頂面に戻ってしまった。まるで任務終了、と言うように。
「ずるいよ、話を振ったのは貴方なのに」
あまり期待はしてなかったけど。やっぱり肩すかしを喰らってしまい少しがっかりしている自分に琢磨は気づいた。
…まあいい、一気に神話の秘密を全て知ってしまうのは、面白くないではないか。
忍びの祖、役小角も、秘密結社「隠」の仲間たちも天津神と呼ばれた異星人の力を受け継いでいる、という事実は若者を高揚させた。
まずは、共に技を競い合った双子の弟及磨には伝えなければ!と琢磨は思った。僕だけが知っているのはフェアではない。
「ねえ、きららさん」
ウリエルとウカノミタマ夫妻が去った後の個室で琢磨は半分独り言のようにきららに心情を漏らした。
「本当に世界は、平穏とは逆の方向に流れているんでしょうね。現にこうして『真実』の方から僕達に姿を現してくれる…え?僕、恐い顔してたって?」
いけないいけない、今日は束の間の平和を享受する貴重な日だ。
会計の時にマスター真済が
「支払いはウリエルはんが済ませて下さいましたよ、ブラックカードでね。
あの見かけだからゴールドカードってイメージなんやけどねー」
とどーでもいい感想を付け加えながら教えてくれた。
「か、勝沼さんと同じ色のカード持ってるー!」
ブラックカード、それはクレジットカードの最高峰と呼ばれ、年収や条件の高い一 部の人に対して優遇された特典を与える…
「彼は超危険手当で高給取りなんでしょうねー、星ぶっ壊す土木作業員ですから」
嗚呼きららさん、僕は相当出世しないとブラックカードは持てそうにありません…
男子力って、やっぱり甲斐性ですか?
琢磨はその日後半はセンチメンタルな気持ちに心覆われながらも、メインアトラクション、そして夜の「エレクトリカル大名行列」まで折れずにきららをエスコートし切った。
そして…
「琢磨さん、あっち人が少なくていいですよ!」ときららさんが…自然に僕と手を繋いでくれたんです!
汗ばんでて、とても柔らかかったです…ウカ様ウリ様、御先祖様。
そして神様あーりがとぅー!!!とライブ中の堀内孝雄口調で内心、琢磨は雄叫びを上げた。
ライトアップされた聚楽第の背後で夏の花火が、盛大に上がり手を繋ぐ二人を照らした。
「と、いう訳でこの度は妻に帯を買っていただき、誠にありがとうございます」
部下のウリエルに頭を下げられた天使長ミカエルは、しまった先手を打たれた…と内心がっかりした。
本当はこの常識しらずの部下に
「報告より先に僕に言うべきじゃないかなあ?『この度は妻に帯を買っていただき、誠にありがとうございます』、はいリピート・アフター・ミー」
とイジってやるつもりだったのに。面白くない。
「いや、お中元だと思って貰っといてくれたまえ。偵察と報告ご苦労」
「…それだけですか?」「何だよ?」
部下の訝しむような眼差しにミカエルは思春期の少年そのものな不貞腐れた返事をした。
「ミカエル、あなたが天使長の座に就いたのはその数万年先の未来まで見通せる能力のため。
あなたの計画どおりに天使たちが動き宇宙は運行しておりますが
…今回の都城琢磨への秘密漏洩は私の独断。お叱りになりませぬのか?」
「よい、それも予定通り」ミカエルは鷹揚に頷いた。早く仕事を終えてFFXの続きをやりたかった。
もうすぐラスボス戦なのに。
「解せませぬ」
「は?」
「真っ先に力の秘密、出生のルーツを教えてあげるべき男と5年も同居しているのに、先に琢磨に教えるのは解せぬ。と申しているのです」
「聡介のことか。それを教えるのは、我々の役目ではないからだ」
では同じ能力を持った祖父の鉄太郎か?もう泉下(あの世)の住人なのに。
「急な任務ご苦労。下がってよい」
ミカエルは革張りの椅子にもたれて斜に構えながら、左手をひらひらさせた。
もうこの動作をされたら何を聞いても無駄だ。
ミカエル、お子ちゃまだけど底の知れぬ奴…
はっ、と畏まってウリエルはミカエルの前を辞する直前余計な事を言った。
「ラスボス戦前に、リュックに『薬の知識』を覚えさせる事ですぞ。召喚獣は全てオーバーキル状態で」
いけないいけない、また私は上司を逆ギレさせてしまったか?
「…いや、攻略のアドバイスありがとう」
ミカエル、FFXのラスボス「ブラスカの究極召喚」に2連敗中。
プレステの電源を入れる前にミカエルはデスクの上に4Dホログラム映像を浮かべた。
横1.5メートル、縦90センチ程の黒い雲の中に浮かぶ渦巻き状の雲は、夥しい数の銀河…地球儀ならぬ「宇宙儀」である。
よし、特に目立った歪みは無し、と。
人の子よ。宇宙の運行をお主らは「運命」と呼ぶが…それはお主らの行動の結果だ。
真相の一端を知った都城琢磨。そして身の内に「秘密」を抱える野上聡介よ。
お主らの行動如何が、宇宙の運行を少しずつ変えていくのだ。
「if」はいつも、人類の手の中に…