電波戦隊スイハンジャー#32
第三章・電波さんがゆく、グリーン正嗣の踏絵
弘法大師の大秘術2
こんちきちき、こんちきち
こんちきちき、こんちきち…
「祭囃子が聴こえるわ!」ホワイトが演奏を止めて呟いた。
(きららはん、集中して!)
(はい!)
ぴーひゃーぴーひゃー、ぴーひゃらりー
ぴーひゃらぴーひゃらぴーひゃひゃらりー
他の3人のメンバーにも聴こえた。
「ブルーさん、この音聴き覚えあるべ…たぶんテレビかなんかで」
「レッドくん、有名すぎる音だよ。ぼくは高校生の頃、家族と現地で聴いたよ…
これは、京都祇園祭りのお囃子だよ!」
スイハンジャー4人周囲だけでなく、菊池市、山鹿市全体に祇園祭りの宵山の祭囃子が鳴り響くという怪異が起こっていた。
空海の4弟子たちが、祇園祭りの音霊をそのままそっくり転送してきたのだ!
菊池、山鹿にいた人々全員が、夜道で立ち止まり、あるいは自宅、職場で怪訝そうに辺りを見回した。
「今夜は祭りの予定はないのに…!?」と誰もが思った。
正嗣の父親で泰安寺住職、七條正義は、京都市内の寺で生まれて育った。
聴こえる…物心ついた時から毎年聴いてきた、魂に、肉体に染みついてきた宵山の祭り囃子が!!
これは、弘法大師の御業や!!都から息子に手助けしてくれとるのや!
「正嗣、無事に帰ってきてくれ!!」珍しく息子のを本名を呼び、正義はむせび泣いた。
正嗣の教え子、安藤裕美は、手下扱いしているクラスメイト、林芽衣子と平井みちると自室のベッドの上でline通信していた。
芽衣子
明日、職員会議だよ!狩野またチクリやがったよ。
みちる
級長ミッツもじゃね?マサは他のセンコーと違う。あたしら、やっつけられるよ!
裕美
カンケーねえし。高木みたくやめさせりゃいいんじゃね?
みちる
多分ユスリした事バレてるよ!ねえ、警察沙汰になるのかな。怖いよ。
芽衣子
ユミの議員のパパに泣きつきゃいいんじゃ?県議の権力ハンパねえし。
裕美
マサにセクハラされたってネタ、パパに吹き込んでやる。一発でクビー。
lineに集中していて裕美は祭囃子に気づかなかった。
ぱしっ!!右手のスマホに電流みたいなしびれが走り、裕美は驚いて機体を放り出した。
スマホは触れない程の熱を持って壊れていた。
「んだよ、この機種使えねー…またママに買ってもらわなきゃ」
こんちきちき、こんちきち…
何?この音…天井を見上げた裕美の化粧を落とした顔は、15という年齢の割には眼は小さく幼く、怯えていた…
こんちきちき、こんちきち
こんちきちき、こんちきち…
ぴーひゃーぴーひゃー、ぴーひゃらりー
ぴーひゃらぴーひゃらぴーひゃひゃらりー
7月16日。京都祇園祭りの前祭クライマックス「宵山」。
32其の山鉾の駒形提灯に灯がともされ、鉾町の男子が山鉾に上り、笛、鉦、太鼓で「こんちきち」の祇園囃子を奏で続ける。
下京区四条通東洞院西入ル長刀鉾町。
翌日の山鉾巡幸の先頭を行く長刀鉾。鉾頭は、疫病邪悪を祓う大長刀。
その屋根に、二人の見えない僧侶が乗っていた。
横笛を吹き続ける弘法大師空海と、鉦を鳴らす伝教大師最澄である。
「まったくあんたの大風呂敷には、呆れ果てるわ」
見た目50代の最澄が、演奏の合間に毒づいた。
「最澄はんも、んな事言って。毎年ノリノリで祭りに参加してるくせに。
お国の有事の時には宗派の垣根越えて力合わせてきたやないか…
(ぼそっ)戦国の信長の時にも」
「わー!その事は二人だけの秘密やで。本能寺の事は!」
「まさか比叡山焼打ちにされた報復の『仏罰』に、明智はんの夢枕に立つとは…
最澄はんもなかなかの奸物っぷりよ」
「明智はもう決心しとったわ。あのままじゃ織田はお上を弑すと危惧しておった。
あとは、檄を飛ばしただけよ」
「いつやるの?今でしょ!」
空海は某予備校講師の顔真似をした。そして笛を休めてくすくす笑った。
なんやそれ?という顔をした最澄に、空海は答えた。
「今のはやり言葉ですよ。あんたはんが夢枕でそう言ったから、明智はんは『時はいま』なんて句を残したんですから」
「歴史に残ってもうたわ…カーッとなって現世に介入してもうた…」
「まさに『黒歴史』やねー」
「あんたがそれゆーな!わしの何倍も現世に介入しとるくせに!」最澄のぶっとい眉が興奮して吊り上がる。
「怒ると血圧上がりますよ。ほらほら、音霊転送に集中集中!!」
まさか、祇園祭りの音霊の強大なエネルギーを、まるっと熊本のヒーロー戦隊の元に転送して、敵の魔性を弱らせるなんて…
この男の智慧は…いつもわしの予想のななめ上をゆく!!
こんちきちき、こんちきち
一方、中京区室町通三条上ル役行者町。
役行者山のてっぺんに、行者姿の長身の男がいる。人には見えない本物の役行者、小角。
通称オッチーさんが太鼓を叩いていた。
真魚に無理矢理呼び出されたけど、後で柴垣さんに怒られるだろーなー…
スケールのでかい計略の最中にこの男の心配事は、スケールが小さい。
「私より遥かに強いエネルギーが!?音楽ごときに…まさかっ、まさかああぁっ!結界が破れるっ」
穴の入口を塞いでいた結界にひびが入り、割れ目が広がった。
白い月の光が、サキュパスの顔にかかる。厳格な声が、サキュパスの脳内に響いてきた。
|外国(とつくに)より来る小賢しき魔性よ。
京は千年の都。祇園祭りは千年の祭り。
祭りは、祀り。
祈りは、意乗りや。
今宵疫病邪悪を祓うために
八坂神社の産土神
私や伝教大師最澄どのを始めとするあまたの聖たち
安倍晴明をはじめとする陰陽師たち
雅楽師、舞手が集っておるのだぞ
そして今宵
私たちの祈りの力とこの祭りの
祈りの力が合わさるのだ
弱者の精神を喰らい、殺してきたお前に告げる
日の本の祈りの力を、なめるなっ!!!
ぴいいいいーーーっ!じゃんっ!どんっ!
空海、最澄、小角が、同時に思いっきり音をたてた。
強大な衝撃波が穴の結界を木端微塵に打ち砕いた。
「極東のこの島の、伝説の僧…マスタークーカイ?」
殺すべき二人の戦士の存在も、人質たちの存在も忘れ、サキュパスは破られた結界の先にある、月を眺めた…。
「見ろっ、あそこの山から光が!」
視力3.5のイエローが、敵の所在地を目ざとく見つけた。
「急ぐべ!」
レッドの号令と共に、4人の戦士たちが急いで山の頂上から穴に飛び込む。
「グリーンさん、シルバーさんがいた!良かった、無事だった…」
ホワイトが涙声になっていた。
「お疲れさん、シルバーさん、初めまして、かな?」
ブルーがシルバーに軽く敬礼した。
「よう、おまえがすかしたブルーか」
シルバーの不遜な第一声に、ブルーはこいつとは合わないかもしれない、と思った。
そして後に予感は当たるのである。
「二人とも休憩して後はおらたちに任せろ!」
レッドが武器の鎌を取り出して言った。
「そうさせていただきます…」
初めてグリーンとシルバーは、一息ついたのだ。
「さあ、ひと暴れいきますか?」イエローが業物の同田貫をずらり、と抜いた。
6色の輝くヒーロー戦隊が、夢狩りの妖魔サキュパスを囲んで地上2メートルほど中空に浮いている。
ヒーロー戦隊全員集合か…か、かっけぇぇぇっっ!!
人質の立場にも関わらず、光彦はバリアーの中からスイハンジャーの雄姿に見惚れた。
「コシヒカリレッド」
「ササニシキブルー」
「ヒノヒカリイエロー」
「きららホワイト」
「そして、七城米グリーン」
「withシルバー!!」
シルバー、がんがん来るなぁ…
フィーチャリングなんとかみたいな自己紹介すんなよ。とグリーンを除く4人は思った。まあとにかく、だ。
「スイハンジャー、推参、参る!!」