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【西条市長選挙2024】Youtubeで流れる「農地・農道を中国に売った!」という情報は事実を歪めたデマ! 地元民が解説します


西条市長選挙が迫る中、現職や自民党籍の候補予定者に関する批判動画がYoutubeに上がっています。この中には、私が1年以上調べてきた西条市丹原町にある「イーキウイ」という農業法人についての偽情報(デマ)が含まれ、それを元に前述の候補予定者を不当に貶めようとしています。
候補者予定者だけがデマの矢面に立つだけならまだしも、このデマの行き着く先は、農業法人で働く日本人スタッフや粛々と法に従い仕事をこなした市職員、審議した農業委員(地元農家)への誹謗中傷と市への風評被害、地元住民の断絶という二次情報災害です。

このようなデマは許しがたいです。
そのため、私が知る範囲でこのデマを払拭する客観的事実に基づく情報を発信していきます。これは、批判される候補予定者を擁護したいのではなく、「有権者がデマ情報を信じた状態で投票先を決める」という、民主主義社会においてあってはならない悲劇を防ぎたいという気持ちからです。

以前書いたマガジン記事を読みやすいよう抜粋したものですので、詳細はマガジンをご一読ください。

また、このデマの内容に関する市民からの問い合わせに対する、市からの公式回答を、抜粋してまとめてますのでこちらも参考に。

「白いネットで隠されている!中で何をしているかわからない!」

-ニュージーランド方式のキウイフルーツ果樹園です。ちゃんと栽培しており公開もされています。

デマの内容によっては「自衛隊松山駐屯地に近いから(中国軍が攻めてきたときに前線基地になるんじゃないかと)心配」という、事実を知っている私からすると呆れるようなものもありました。

2023年10月には、県内のマスコミも取材に来た農園のオープンイベントがあり、近隣の農家・住民が中を見学することが出来ています。
また2024年春、西条市農業委員会も現状確認に視察したらしく(農業委員会だより2024年3月号vol.2)、行政による現場確認は十分できているようです。
ここまで情報公開させていて、なぜこのような不安を煽るデマが今日まで続いているのか不思議でなりません。

テレビ愛媛のニュース映像にあるように、社長は恰幅の良い西洋人男性であり、決して中国人ではありません。
このJan Benes社長の会社「JACE Group」と「マイキウイ&イーキウイ」の会社サイトのリンクを載せておきます。

ニュース中では触れられていませんが、この企業と関係が決裂したと記事に書かれたJA東予園芸の組合長ら職員も招かれており「資材販売・情報交換は継続。必要な情報を組合員にお知らせする」とスピーチしていると農業委員会議事録に記録があります。これを見ると関係は記事ほど悪くなく、蜜月ではないもののそれなりに安定した距離感に思えますが、あくまで当事者同士の問題です。

ちなみに、農園のネットに囲まれていないところに地元住民がお詣りする小さなお堂があるのですが、工事中は安全のため行きにくかったですが、現在は(スタッフに一言声をかければ)誰でも行けるようです。
私も最近見に行きましたが、周囲が果樹園とは思えないほど侘び寂び感のある森が残っていました。

地元住民しか知らないお堂


「西条市は中国資本に農地や農道を売った!」

-「中国資本」はデマです。

デマ発信者は「中国資本が云々」と言いますが、しかし、中国の会社の名前や、その社長の名前が何なのか今まで一切説明せず、動画に五星紅旗などを使用して不安を煽ってきました。
本当にそんな中国人資本の会社が存在しているのでしょうか。

下の図は、私が日本の会社登記簿、香港の法人登記データ、ニュージーランドの法人登記データを、合法的に取得・閲覧した結果をもとに作成した会社の関係図です(2023年時点)。

筆者作成

まず、農地の所有者は外国資本ではなく、日本で登記簿登録されている日本企業の株式会社イーキウイなので、そもそも外国に売ってなどいません。農地所有適格法人になるために、議決権は日本人側が過半数になっています。外国企業側に黄金株があるけれども、農水省に確認したところ「農業関係者以外の者が拒否権付種類株式を保有していたとしても、議決権要件を欠くものとはいえない」との返答があり、農水省は違法とは考えていないということです。
イーキウイに49%出資した会社は香港で登記されていますが、その香港企業の株を100%持つ親会社はニュージーランドにあり、イーキウイの社長本人が株主・代表者です。一連の会社は、ニュージーランドのキウイ生産農業法人「JACE」のグループ企業です。したがって、会社の議決権に関わる資本金には中国人の資本は1元たりとも入っていないと断言できます。
なぜ香港で登記したかというと、それはニュージーランド人の社長のみ出せる答えですが、推測するに香港が法人税率の低いため日本を含む世界の多くの企業が香港に子会社を登記していることが理由のひとつではないでしょうか。

各国の法人税率
 ニュージーランド 28%(jetro.go.jp)
 香港 16.5%(jetro.go.jp)

追記(2024年11月25日)

愛媛2区選出の白石洋一議員が、2024年6月改正の農地法について、イーキウイ社に関する重要な点を農水省に確認してくれている。
ようは拒否権付種類株式については農業関係者も過半数という条件が追加されたということで、交付日から1年以内の施行日までに条件を整うようにせよとのこと。イーキウイ社はその日までに株式について条件に沿うよう変更すれば、なんら問題ないということだ。
このような法改正があるということは、法改正以前の条文に照らし合わせるとイーキウイは違法ではないことの証である。以前の条文のままでも違法と認められるなら、そもそもこの部分を改正する必要がないからだ。


イーキウイ株式49% → Endeavour Fresh Japan Ltd

イーキウイの公式サイトより引用
イーキウイの公式サイトより引用(Google翻訳済)

Endeavour Fresh Japan Ltd株式100% → The Orient Landing Ltd

以下は筆者が香港の企業情報報告書検索サイトhkg.databasesets.comにて取得した報告書(PDF)からの引用です。

表紙(会社名)
Shareholderは「株主」 Directorは「取締役」の意
株主についての情報 発行済10,000株を全て保持しているので、NZ企業が100%の株主

The Orient Landing Ltd株式100% → 2人のニュージーランド人

以下は海外の法人登記検索サイトopencorporatesで検索した、ニュージーランドの親会社の株主情報です。
イーキウイの社長ら2人のニュージランド人の名前が確認できます。

opencorporatesより引用

以上の流れから、イーキウイに投資しているのは完全にニュージーランド資本であることが証明できます。農林水産省の発表で「中国(香港)の企業」とされているのは、ニュージーランド企業が子会社を香港で登記しているだけという、単純な理由です。
なお、日本人農業者株主に宮崎県の方が入っていますが、宮崎県には西条市と同じくJan Benes社長の関連企業「株式会社マイキウイ」があるため、その関係者と推測されます。

また2023年3月には、ある市民団体がイーキウイ社に問い合わせ「中国資本ではない」ことなどを確認しています。当時同社について「農地や水源が中国資本に買われている」と主張していた政党に対し説明要求をしましたが、回答が返ってこなかったとの記事が愛媛新聞に載っています。

参政党愛媛支部・県議は「説明要求」から逃げずに、堂々と「応答」を! ―参政党が主張する「愛媛県下の土地買収」について説明を求める会― 【参政党の主張は本当なのか?】...

Posted by 高井弘之 on Saturday, March 11, 2023


「市有地を市民に無断で売った!」

-正式な手続きをとっており、デマです。

まず基本情報として、市有地と言われますが普通の市道ではなく農道です。農道や農業用水路は「法定外公共物」という扱いで、基本的に農家が自らが所有する農地に往来したり水田に水を張るために使うものです。
決して一般市民が抜け道・近道として使ったり、ましてや「外国資本の農業法人がなにか悪さをしてないか監視する」ことを目的にあるのではありません。
そもそも舗装してない農道を一般車両が通ったりすると、轍が深く大きくなるなど悪化し農家も困るので、正当な理由なく通行するのは好ましくないです。せめて農家さんに使わせてもらっているという謙虚な気持ちを持っていただきたい。

今回、イーキウイ社は耕作放棄地を含む細切れの農地を集積し、ひと続きの大型果樹園地として基盤整備するために、農地所有者一軒一軒と交渉し農地を買い受けました。そうして農道に隣接する農地の権利が全てイーキウイに移転したので、農地への往来のための農道は「公共の用に供さなくなった(1軒の農地所有者以外に、農道を通る正当な理由のある者がいなくなった)」ことにより、市から農道の売払を受けることが可能になりました。

政治団体「日本第一党愛媛県本部」松木崇氏が情報公開請求し公開した書類
政治団体「日本第一党愛媛県本部」松木崇氏が情報公開請求し公開した書類

こちらの画像は、市民からの情報公開請求を受けて西条市が開示したイーキウイへの農道の売払に関する書類の一部です。
農道に隣接する農地所有者すべてからの承諾を得、さらに土地改良区(地元農家が会員の、農業用の公共施設・水路管理団体)からも同意を得ています。農地所有者でない一般の市民は、本来農道を往来する合理的理由がないため同意を必要としません。
ですので市民に無断でというのは事実に反します

非農家の方で近所に田圃を何筆も地上げして大型商業施設や大型物流センターが出来たという方がいたら、市や事業者から「ここの農道を売ることに同意しますか?」などと説明を受けたことはありますか? そこの農地所有者でない限り、そのようなことは今までないと思います。
イーキウイの件でも、市はそれと同じことをしたに過ぎません。
なお、このイーキウイの件を最初に問題化した人物は、農地のある丹原町長野から7km以上離れた壬生川地区の住人の方だそうです。当然、この場所の農地を所有していない限り、農道の売払についてこの人物に説明する義務は市や業者側にはありません。

下図は、イーキウイによる農地の集約・整備前の状況です。白い線は売払対象の農道とされています。

農林水産省 eMAFF農地ナビより引用(加筆済)

そして次の図は、整備後の同じ農地の状況です(2024年現在)。区画整理がなされ、効率的な大規模農業に適した農地になっています。白い着色部分はネットを貼っている範囲です。

農林水産省 eMAFF農地ナビより引用(加筆済)
Goggle mapsに株式会社イーキウイが投稿した空撮写真


「30万円を超える市財産(農道)を、競争入札でなく随意契約で売ったのは違法!」

-隣接する農地と一体化した土地利用のため、地方自治法に従い随意契約で売却することは合法です。なにも問題ありません。

前出の情報公開請求にはイーキウイ社の契約書類だけでなく、西条市合併後の2005年から2022年までの18年間で、農道など法定外公共物を随意契約売却した全206件の書類が含まれていたので、筆者がエクセルで整理しました。

筆者作成

これによると総面積2万425㎡(2.04ヘクタール分)の法定外公共物としての土地が、用途廃止の手続きを経て市から民間に売り払われています。
金額にして総額約1億1,110万円です。
そして206件のうち実に97件(47%)が売却額30万円超の案件です。
これが市所有の単なる「宅地」などであれば、30万円を超える場合は一般競争入札になります。しかし用途廃止した法定外公共物に関しては地方自治法施行令第167条の2第1項第6号(競争入札に付することが不利と認められるとき)の規定に基づき、随時契約で売却しても構わないのです。

一例として農道の売却書類を2件紹介します。

政治団体「日本第一党愛媛県本部」松木崇氏が情報公開請求し公開した書類

左の書類は48万円で30万円超なので「地方自治法施行令第167条の2第1項第6号」による随意契約ですが、右の書類は17万円で30万円以下なので普通に随意契約でも構わないのですが、理由は同じく「地方自治法施行令第167条の2第1項第6号」となっています。
つまり、市の行政実務では、売却額の30万円超か以下かを問わず、このように用途廃止の法定外公共物の売却は地方自治法施行令第167条の2第1項第6号による随意契約としているわけです。
そもそも、用途廃止の農道なんて土地の一体化利用以外の目的がなく最初から競争入札に適さないのです。こんなこと他所の自治体でも同じで、指摘するほうがおかしいのです(とは、市の職員は思ってても言えないんでしょうが…)。
それに随意契約でスムーズに売却し市民・民間にただちに有効利用してもらうことで、健全な都市形成が迅速にすすむほうが自治体にとってもメリットがあります。もし競争入札にして万一周辺の土地所有者以外の他者が農道の土地を(異常に価格を釣り上げてでも)落札すれば、土地の一体利用が不可能となり、所有者が事業撤退すれば最悪広大な空き地が残るだけとなってしまう可能性もあります。これは市にとって大きなデメリットになります。
それが、市にとって「競争入札に付することが不利と認められるとき」の意味なのです。


「玉井市長が中国資本を誘致した!」

中国資本でないのは先に説明しましたね。

-本当に誘致に貢献したのは、ニュージーランド視察団団長の愛媛県議会・明比昭治議員です。

そもそも、西条市の丹原町地区になぜ外国資本の企業が出資するキウイ生産の農業法人が作られたか、その経緯を理解しなければなりません。

丹原地区は昭和40年代からキウイ栽培が始まり、2000年代初頭に、JA東予園芸キウイフルーツ部会がニュージーランド・ゼスプリ社と契約栽培に着手しました。ニュージーランドとの縁は既にこのころからあるのです。
その後、高齢化による離農などで栽培面積が減り、増える耕作放棄地問題の解決も含めて、JA東予園芸が本場ニュージーランドの農業法人の誘致を検討します。
2017年にJA東予園芸の幹部・生産農家と愛媛県職員が、先進地視察として宮崎県の株式会社マイキウイを訪れています。愛媛県内のキウイ栽培農家の一戸あたりの栽培面積は平均して30〜50アール協同組合研究第41巻第1号 間々田氏)に対し、1農場で数ヘクタール規模と10倍以上の大きな果樹園による高効率・大規模栽培を見学し、一同はどのような衝撃を受けたか想像に難くないでしょう。

イーキウイの企業サイトから引用

このように西条市丹原町に外資が来たのは「いきなり」でもなんでもなく、地元農家との縁があったからです。地元キウイ農家が視察に赴き、地域に根付いたJA組織が動いていたのですから「地元に説明もなく」というのはお門違いではないでしょうか。

ただ、こうした事情は地元の農家ならなんとなく知っていますが、農業と関わりのない人や、西条市内でも丹原以外の住民は全く関心がないでしょう。この「外国資本の企業」を最初に問題視し、某政党による反対運動を招いた人物は壬生川地区の方だと聞きますが、小学校校区で3校区も隔てた地区の方です。そんな人からすれば「説明はなかった」んでしょうが、同じ市内でも影響のない場所の開発の説明会をするような自治体はまず無いと思います。

さて話を「誰が誘致したか」に戻しますが、玉井市長が自ら「外国資本を誘致する」という公式の発言等が、市議会議事録等を調査しても見当たりません。
市議会議事録では、西条自民クラブ会派の佐伯利彦議員がイーキウイについて言及しています。佐伯氏は旧丹原町出身の農家でもあり、以前にもキウイフルーツかいよう病の被害による農家の負担軽減になる支援を市議会で訴えるなど、農家視点で議員活動しています。

そして2018年に、愛媛県議会はニュージーランドに議員団を視察に向かわせますが、団長は旧西条市出身の明比昭治議員です。

平成29年度愛媛県議会海外派遣(ニュージーランド)結果報告書より引用
平成29年度愛媛県議会海外派遣(ニュージーランド)結果報告書より引用

市議会議事録・県議会資料などの公的記録に基づけば、このニュージーランド資本の誘致に関わりのあったと推測される政治家の名前は、この2名です。もっとも、これらの政治家も結局は、地元有権者と誘致先企業との橋渡しのお手伝いをしただけのようなものだと思います。

もちろん、誘致の過程で行政職員がやらなければならない業務は山のようにあり、市長が決済することもあったでしょう。しかしながら、そもそもはJA東予園芸という農家組合員の組織が問題解決を政治家にお願いし、その流れで市を巻き込んでこうなったわけで。
究極的に、誘致を願ったのは地元の農家の人々であり市民の代表である市長はその願いの実現に動いた、と言えるのではないかと私個人は思います。


このページは定期的にアップデートします

私はあくまで、このイーキウイの件くらいしかファクトチェックできませんが、これでわかるように、批判動画の発信者の情報はそもそも信用に値しません。要注意ください。

さらに動画で新たなデマが出てきましたら、引き続き反論を書いていきたいと思います。