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カムヒルメ...…製鉄法             カムナガラノミチ 12            【直観物理と相似象 その 30】  


カムヒルメ……熔融理(製鉄法)

 カムナガラノミチ 12 には、製鉄技法に関するものがまとめられています。製鉄は、楢崎皐月の専門分野であり、彼は、満州時代に陸軍の製鉄所の所長をしていた経歴があります。「相似象」第5号では、楢崎独特の観方で、カタカムナにある製鉄法を論じています。また、楢崎自身、彼の製鉄の経験が、カムヒルメの解明に、これほど役立つとは思いもしなかった、と「相似象」誌に以下のように述懐しています。(「相似象」第5号 333ページ。)

 一般に、鉄はシナ、インドから我が国に伝来したと思われているが、これ(註:カタシフキミチという製鉄の技法の一つのこと)はタタラブキ以前の技法である。しかも古事記に見えている「カヌチ」とは鍛工であるが、「カタシフキ」といえば、熔鉱、冶金、精錬を兼ねた技法である。即ち日本には、大陸の銅や鉄が伝はるより先に、独自の鉄文化があった事になる。これは現在の定説には反するが、シナの老子教の古伝にもある事であり、その上、その鉄でつくられた鏡やマガタマ、カタナ等は、現代の技術も及ばぬものがあり、その一つの古鏡はロンドンの大英博物館に在り、半透明な反物質的な特殊な鉄としてドイツの技術者を驚かせ、あるいは日本刀に仕立てられて、折れず錆びず、しかもその切れ味のすばらしさは、後代の技術の遠く及ばぬものがあると訓はれて居る。
 もし火山の溶岩が、森林や砂鉄の上を流れ自然に鉄ができることがあったとしても、それはせいぜいピグの純度の高い程度のものである。ピグを溶かして型に入れれば、所謂鉄鋳物(イモノ)ができるから、その程度のものもあったかもしれない。しかし、ピグを更に溶融し、鍛造して「鋼」をつくりそれをそれをまた精錬する過程に、特殊な触媒や、独特の技法を用ひるのでなければ、前記のような上古代の日本の独自の鉄は出来る筈がない。我々は、今、カムナガラのミチの歌詞によって、その技法をしのぶ事が出来るのである。

「相似象」第5号 319ページ

 尚、ピグとは、銑鉄のことで、鉄鉱石を高温にして還元させることによって得られる炭素の含有量の多い液体状の鉄です。
 さて、上記の、大英博物館に収蔵されている鉄の古鏡については、「相似象」第3号にもう少し詳しく書かれています。

 日本の古鏡は鉄製であった。(カネと言えば鉄を意味し、金ではない。コガネは黄金)、ロンドンの大英博物館には日本の古鏡があり、ある日ドイツの若い科学者がその鏡の前に立って居たとき、折から差し込む日光が、その鏡を透過して、こちらからは見えぬ裏側の紋様が、うしろの壁にうつし出されて居るのを発見した。一般に鉄はさびやすく、又、鉄に光が当れば吸収散乱するのが当然である。このドイツ人が驚いたのもムリがない。これは、当時の新聞に報道され(明治末期)た事実であった。(このことを今なほ記憶して居る者もある。)
 その後軍の情報として知り得たことは、その後ドイツ軍は、ひそかに日本に人を派して古鏡を買ひ集めその製法を調べたが、遂に今日までそのナゾは解けて居ないといふことである。日本古代の製鉄法の流れをくむ多太良タタラ法の優秀さは、今日も認められて居るが、既に、カタカムナの上古代人は、ドイツの科学者をうならせた、錆びない特殊な製鉄の技術をもって居たのである。この事を彼らは<ミトロカヘシ>としてカタカムナのウタに述べて居る。おそらく日本は火山国であったから、上古代人の生活圏内に自然鉄が存在し、それによって彼らの製鋼鍛造等のチエが発生したのであらう。日本の古代には、大陸からの銅文化以前に鉄があって、三種の神器の鏡には、このヤタのカカミの抽象図形が鋳こまれて居たに違ひないと思はれる。なお我国上古代のマガタマも鉄製であり、宝石ではなかった。

「相似象」第3号 41ページ

 ここに書かれている大英博物館塑像所蔵の古鏡について、WEBで調べてみたのですが、古代(といっても、弥生時代以降のもので、カタカムナ文献の年代よりははるかに新しいものですが)の鉄製鏡を見つけることはできませんでした。ただ、古代日本や中国の青銅製の鏡は多く所蔵されていて、古いものは紀元前2世紀ころのものだとのことです。
 光が鏡を透過する事についてですが、中国では古くから「透光鏡とうこうきょう」と呼ばれる魔鏡の存在が知られていました。これは、太陽光を鏡面に当てると裏の紋様が鏡の中に映るというものです。古代の鏡の中には、鑑面に光を当てると、その反射光の中に裏面の鋳造された紋様が浮かび上がる性質を持つものがあると言われていたようです。上述のドイツ人は、この事を聞いて知っていて、大英博物館にてそれを確認したのではないかとも推測されますが、本当のところはわかりません。
 また、この事実について、日本でも2014年に京都国立博物館のスタッフによって追試験されて、話題になりました。(以下の記事参照)。

 また、古代人の製鉄についての関連は、以下の記事でも触れていますので、興味のある方は、そちらも参照してください。

 以下、第81句~第88句において、精錬度の非常に高い、貴重な鉄のつくり方が示されています。
 カタカムナの上古代人は、このような精錬度の高い鉄を使って、彼らのサトリを表す、ヤタノカガミ、マガタマ、ツルギ等の表象物をつくって、子孫に示していました。


第81句 カタシ フキ(鍛冶吹キ)

カムナガラ
 オロシホムロギ カナメヤキ
 ホコネクシカネ タルミタメ
カタシフキミチ カムヒルメ 

概要の意味
 「カムナガラのサトリによるものであるが、山頂から吹き降ろす強い風(オロシ)を利用して、山の斜面に設けた焼物用の炉(ホムロギ)にて、カナメヤキ(金属分を含む鉱石を焼くこと)をする。それは火山から湧出した鉄塊(ホコネクシカネ または オロチホコカネ と謂われる自然の鉄の鉱石)を焼いて、その塊の表面から溶けてタラリタラリと流れ落ちる滴下鉄(タルミ)を溜める方法である。そのことは、天然のヒルメ(熔融理または熔流理)にかなった、鍛冶吹きの技法(カタシフキミチ)である。」

「相似象」第5号 319ページ

 <フキ>とは、炉に風を送って燃焼させ、金属分(カナメ)を吹き分けて採ることで、鍛冶職(カタシフキンド)の重要な仕事でした。現在の鍛冶屋は鍛造(カタシ)のみですが、本来は、フキ(吹き)とカタシ(たたく意、則鍛造に当たる)の作業を兼ねて伝承されたのでした。

 <オロシホムロギ>とは、山の斜面を絶えず山頂から吹き下る風のことです。上古代人は、その山オロシを利用して炉を作りました。

 ▶ 楢崎によると、金鳥山(六甲山系)周辺には、熔融炉の遺跡があり、炉のたき口に、山オロシが入り込むように設計されています。「オロシホムロギ」は、この自然の山風を利用した熔融の技法です。
 後代のいわゆる「登り窯」は、下から上昇する炎を利用するものであり、これは。高温に燃焼させるための強い風を必要とします。「タタラフキ」は、インド伝承と言われていますが、足場を組んでフイゴ(タタラ)という送風機を踏むという方法でした。

 <カナメヤキ>とは、自然鉱石中の、大事なカナメ(要)となる鉄分を熔かし出すために焼くことであり、「金芽焼」とか「要焼」と当てられます。

 <ホコネ タシカネ>の「ホコ」は「火の床」の思念であり、「矛」は火の床(ホコ)で熔けた形状からできた文字です。したがって「ホコネ クシカネ」は「火床根奇石鉄鉱」のことであり、ホコ(矛)やオロチ(大蛇)のような奇しい形のカネ(鉄鉱)の意味だと思われます。
 この技法は、自然の火山の鉄鉱石を焼いて、銑鉄上のカナメから製鉄する技法だったのです。これと対照される後代の「タタラフキ」では、砂鉄を原料にして燃焼し、炉底には炭素埋設を行って、炭素還元と共に、水素還元を図る技法であったと考えられます。

 <タルミ タメ>とは、鉄鉱石の全部は熔けきれず、タルミ(流下鉄)が流れ落ちますが、その流下鉄を流れ落とす方法も、また溜めた団塊もタルミと言いますが、そのタルミを溜めることを言います。


第82句 アカネ ヤキ クロカネ(銑鉄)

カムナガラ
 タルミクロカネ クリケカネ
 ホホコフキタキ アカネヤキ
カタシフキミチ カムヒルメ 

概要の意味
 「カムナガラのサトリによるものであるが、タルミの黒い色の鉄塊(クロカネ)と、栗毛型の針状鉄(クリケカネ)を、火床の焙(ホホコ)の中にて。風を送って焚き焼きを行い、アカネの色(赤橙色)になるまで加熱する。それは、天然(カム)のヒルメ(熔融理)にかなった、鍛冶吹きの技法(カタシフキミチ)である。」

「相似象」第5号 323ページ

 <クリケ カネ>とは、針状の栗毛のような形をした鉄塊を指します。火山現象は天然のヒルメ(熔融理)であり、熔けて流れ出した熔岩流は、ノロ(鉱サイ)に当たる部分が軽石等になり、下にたまるカナメは、土中で冷え固まるために、この歌詞にあるようなクリケカネになったり、あるいは、矛や蛇の形(ホコネ クシカネ)になったりします。(針状の方が純度が高い。)

 <アカネ ヤキ>とは、初期段階の加熱法であり、針状のある黒い鉄塊に対し、過渡的結晶を与える、ナジミヤキ(馴染焼)となります。初期段階に、高温処理を急激に行えば、材質は亀裂を生じやすくなり、鉄塊は脆くなります。

 ▶ 先ず「タルミ」をとり、「クリケ カネ」と共に更に熔融して、「ピグ」に当たる部分から、次第に冶金(鍛造、精錬)の過程に進みます。「タルミ」は。熔けている間は赤いのですが、冷えると黒色の「クロカネ」となります。現代の技術では、熔融促進と大量生産化のために改良していますが、原理的には、上古代の技法と同じです。
 製鉄の原理は、酸化鉄(鉄鉱石)の酸素を除いて鉄に還元し(脱酸)、炭素の多い銑鉄を脱炭し、炭素量を 0.5 ~ 0,02 の粗鋼にもってゆく冶金過程と、さらに、P(燐)S(硫黄)等を除いて純度の高い鋼を作る過程があります。現在では、大規模の高炉で銑鉄をつくり、屑鉄を混ぜて、粗鋼から普通鋼(建築材料等)をつくる平炉、熔けたまま酸素を上吹きして精錬を促進する転炉、処女鋼を優秀な特殊鋼にもっていく電氣炉等の技術があります。しかし、純度の高い鋼をつくる上では、カタカムナ人のヒルメを凌ぐとは言い難いのです。


第83句 シラミソゲ(粗鋼)

カムナガラ
 アカホカゲウチ ホホデヤキ
 クスミクロカネ シラミソゲ
カタシフキミチ カムヒルメ 

概要の意味
 「カムナガラのサトリによるものであるが、アカネヤキした銑鉄状の鉄塊を、赤い焔の火(アカホ)で焼きながら、焔のカゲで金槌で打撃し(カゲウチ)そして更に焔の中で焼く(ホホデ ヤキ)、この加熱法によって、タルミの黒い色の鉄塊(クロカネ)と、栗毛型の針状鉄(クリケカネ)を、火床の焙(ホホコ)の中にて。風を送って焚き焼きを行い、アカネの色(赤橙色)になるまで加熱する。それは、天然(カム)のヒルメ(熔融理)にかなった、鍛冶吹きの技法(カタシフキミチ)である。」

「相似象」第5号 323ページ

 <アカホ カゲ ウチ>
 赤い焔は、還元焔といって、還元が盛んに行われ、酸化鉄から脱酸して炭酸ガスが出る時のものであり、その時に出る高熱の炭酸ガスによって、銑鉄状の鉄塊に対して、炭素量を減らす、脱炭の化学変化を行う処理ができるのです。この時の温度があまり高くならないこと(燃焼温度がより高くなると、鉄鋼が発行を放つ。)が必要で、この時の鉄塊は、酸化物、硫黄、燐等がとれて行く過程の、青みがかった白っぽい色調になります。
 この焼成の仕方は、黒味の銑鉄から白みがかった粗鋼に優進させる、合理的鍛工法であると言えます。

 <クスミ クロカネ>とは、くすんだ渋みのある黒色の鉄という意味で、銑鉄(技術用語で「ピグ」という)に当たります。


第84句 カタミシメ(精錬)

カムナガラ
 ハラヒツチウチ カガビヤキ
 アワセオモツチ カタミシメ
カタシフキミチ カムヒルメ 

概要の意味
 「カムナガラのサトリによるものであるが、粗鋼(シラミ ソゲカネ)に進んだ鉄塊を、カガビ(煌焔コウエン、白色の輝きのある焔)で加熱し、その熱が冷めるまで連続的な打撃(ハラヒ ツチウチ)を行い、それからもう一度。高温で焼成する。そして重い鉄槌(オモツチ)で、調子を合わせながら打撃してカタミ(形身)を締めるのである。この方法は、材質を密着させて塊を縮小させるものであり、天然(カム)のヒルメ(熔融理)に合った、鍛冶吹きの技法(カタシフキミチ)である。」

「相似象」第5号 326ページ

 <ハラヒ ツチウチ>とは、材質の結晶度を高めるため、あらかじめカガビヤキで高温に熱してから、放熱させ、分子が膨張系から収縮系に変化する状態の時に、連続打撃(ハラヒ ツチウチ)を行い、形身(カタミ)を収縮(締め)させるという、合理的な手段です。
 「カタミ」は、現在でも「カタミが狭い」などと使われている思念です。

 <アワセ オモツチ>とは、「ハラヒ ツチウチ」の後に、再度高温に熱してから、今度は調子を合わせて打つことであり、一定のリズムが材質に共振して、結晶がつくられます。
(鍛冶屋の「トンカン」とか、「カチカチカッチン」のような音のイメージで。)


第85句 ハニドロ マブシ(焼純)

カムナガラ
 ハニドロマブシ モドシヤキ
 カカラツチウチ タメナホシ
カタシフキミチ カムヒルメ 

概要の意味
 「カムナガラのサトリによるものであるが、型身を締めた鋼材に、焼いた土の泥(ハニドロ)を塗ってモドシヤキ(焼純)する。そして高い響き音を出させながら(カカラ)、鉄槌で回し打ちをして(ツチウチ)、鋼材の形の歪を矯め直すのである。これは、天然のヒルメ(熔融理)に合った、鍛冶吹きの技法(カタシフキミチ)である。」

「相似象」第5号 327ページ

 <ハニドロ>とは、泥を焼いたものに水をまぜて使うものです。ハニドロを塗った場合には、直火による鋼材の酸化が防がれ、また、火勢も弱まり、焼純(ヤキモドシ)をすることができます。これは、堅くて脆い材質を嬌め直し、加工を容易にするための、合理的な工程です。

 ▶ 日本の古代刀の中には、上古代のものもあるということです。日本の古刀は、青龍刀のように重く厚く大きくて、力で叩き切るものとは違い、細くてすらりとしたそり身をしており、しかも、絶対に折れず、切れ味は極めて良いものです。成分を分析すると、モリブデン、バナジウムなどが含まれていると言われています。そして、その秘密は、「ハニドロ マブシ」にあったと考えられています。

 ▶ 「ドロ」の持つ、不思議な生命力について、第66句にも「ドロクスミ」(泥の持つ薬効分)として記してあります。また、全国的に、ドロカエシの沼とか池とかの名称と共に、神秘的な物語が伝えられています。これもその源流をたどれば、カタカムナのサトリにある、ミトロカエシの技法に行きつきます。
 現代人は泥を不潔なものとして敬遠しますが、それは、衛生上の智識からのことであり、実際は身体のヒーリングなどには非常に有効なものだったのであり、無意識に身体が欲しているものではないかと思われます。現に自分が子供のころは、ドロンコ遊びが大好きだったことを記憶しています。

 <カカラ ツチウチ>
 「カカラ」は、甲高い響きの音を指します(「カンラカラカラ」等)。そして、この音を、焼鈍した材質に響かせ、超音波を伴わせて、結晶密度を増加させます。こうして、矯め直しと共に、材質優進を図った手段です。

 ▶ 直接打っただけでは、振動数の高い超音波を出すことはできません。一方を抑えて固定させ、トントン トントンと調子をとって回りながら叩くと、「カカラウチ」となり、超音波の強制振動によって、鉄の結晶度が、次第に緻密になってくるのです。(第88句参照)


第86句 ニギミ ヤキ(熟成的焼成)

カムナガラ
 ホザシククウチ ニギミヤキ
 サワシユケイレ アブリヤキ
カタシフキミチ カムヒルメ 

概要の意味
 「カムナガラのサトリによるものであるが、嬌め直しをした鋼材を、燃焼している火床に差入れ(ホザシ)、自由に引き出して打撃すること(ククウチ)を繰り返し、材質の熟成的焼成(ニギミヤキ)をする。そしてサワシユケ(熟成湯の池)に入れて、徐々に冷やし、またそれを、アブリヤキ(焙焼)すなわち火床の傍において、徐々に過熱するのである。それは、天然のヒルメ(熔融理)に合った、鍛冶吹きの技法(カタシフキミチ)である。」

「相似象」第5号 329ページ

 <ニギミヤキ>(和味焼)とは、熟成的焼成のことです。
 <サワシユケ>とは、その中で鋼材を徐々に冷やすための、熟成湯の池です。「サワシ」は事前に熟する手段の意であり、湯に入れることで、それが促進されます。
 <アブリヤキ>とは、火床の傍らで徐々に過熱する焼き方のことです。
 以上の手段を使って、段階的に序冷、序熱を施して、焼成した鋼材の焼結度(材質結晶度)を高めるることができ、これは極めて合理的な鍛造の手段となります。


第87句 ナメシ ヤキ(片刃ツケ)

カムナガラ
 クスミホコトコ ナメシヤキ
 ハノビヨセウチ カタハツケ
カタシフキミチ カムヒルメ 

概要の意味
 「カムナガラのサトリによるものであるが、焼結度を高めた鋼材を、火焔の立たない火床(クスミ ホコトコ)にて、引き伸ばし焼き(ナメシヤキ)を行い、鉄板の伸びが一方に片寄るように寄せ打ちを施し(ハノビヨセウチ)、カタハ(片刃)をつけるのである。それは、天然のヒルメ(熔融理)に合った、鍛冶吹きの技法(カタシフキミチ)である。」

「相似象」第5号 330ページ

 <ナメシヤキ>とは、一端から順次に打ってナメシながら送り焼きして、伸長させる「引き伸ばし焼き」の方法です。
 <ハノビヨセウチ>とは、伸長した板の一方の側だけを打撃して、伸びを偏りさせる方法です。
 
 このような方法によって、鋼材質は粘りある強靭性のものとなります。太刀、包丁、鍬等、刃のあるものは、この片刃になる方法で造られたのです。


第88句 スメコ ユケイシ(仕上げうち)

カムナガラ
 カガビホコトコ ホシラヤキ
 スメロユケイレ キヨミウチ
カタシフキミチ カムヒルメ 


概要の意味
 「カムナガラのサトリによるものであるが、片刃の刃物を、煌く火(カガビ)は火床(ホコトコ)で、白色焔の高温にて加熱し(ホシラヤキ)、それをスメロ ユケ(統湯の池)に入れて焼き入れ(ユケイレ)を行う。そして、ハサミにて刃物の上端を押さえ、仕上げ打ち(キヨミウチ)する。そのことは、天然のヒルメ(熔融理)に合った、鍛冶吹きの技法(カタシフキミチ)である。」

「相似象」第5号 332ページ

 <スメロユ>とは、全体を統める仕上げの湯のことで、この中で、白焼きの刃物を急冷させ、ハサミにて上端を押さえつつ<キヨミ>の仕上げ打ちを施すことにより、刃物が強制振動を起こし、結晶が、緻密に移行することになります。
 <スメロ>は統べるの意であり、後にスメラギ(皇尊)の語源となりました。

 ▶ ただ打った場合には固有振動をすることになりますが、一方をハサミで押さえて打つことで、強制振動を起こさせるのが重要なことです。強制振動によって、極めて高振動の超音波を発信し、鉄結晶が緻密化される効果が得られます。

 なお、楢崎は、「タタラフキ」の焼き入れの際の湯に、藁、木灰を入れ、モン(結晶)をうまく現す秘法にも、このような上古代以来の伝統なのかもしれない、と論じています。

 最後に、固有振動と強制振動に関する、楢崎皐月の貴重な論点を紹介します。

 ものにはそれぞれ、固有振動があり、お互ひの間に、共鳴共振を起すもの、起さぬものがあり、その現象は、地震や、釣橋の振動、動物や人間の相性などにもみられる。強制振動は、不自由なものには違ひないが、例へば、ヴイオリンや琴などは、強制によって美しい音色を出させるのであって、天下の名器と雖も、固有振動はありふれたものでしかない。人間の「個性」もいはば固有振動の表はれであり、人格の成長や偏執化の現象も、要するに、強制振動の加え方如何によると言へるであらう。いづれも、強制振動の効果である。

「相似象」第5号 332ページ

 はからずも、アマは、大宇宙の 天然の熔鉱 をやっていたのだ……

「相似象」第5号 333ページ
















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