キメカムナ...…木理 カムナガラノミチ 11 【直観物理と相似象 その 29】
キメカムナ……木理
第73~80句は、キメカムナ(木理)についての記述です。
「キメ」とは、立樹のモクメのことです。これは、木の成長に関連した言葉ですが、木の横断面に生じる年輪(マキワ)のことではなく、縦方向に伸びたものが「キメ」と呼ばれます。一本の木でも、成長の具合によって、材質が異なる部分があり、使われ方も異なっています。
樹木によっても成長過程に差が出てくることから木理は大きく異なり味わいが変わり、また切断する部分によっても異なる模様が現れるため、同じ樹木であっても、同じ木理は現れることがありません。切断面によって違いがあることから、板を切り出しても表裏で見た場合にも異なった模様が現れるのが普通です。したがって、現代でも木材を使用する場所によって使い分けする必要があるのです。樹皮に近い部分の辺材は白く現れやすく、心材になると色が濃くなるのが普通です。これも成長の違いと言えるため、どこを採るのかということで価値も変わってくるのです。
以下は、「相似象」第5号にある、該当部分の解説から、ほぼそのままの意味を反映させた記述となっています。挿絵も同書からそのままのものを掲載しています。
第73句 タクミ ツキミチ(立樹判別)
<モモチ>とは、百千、すなわちたくさんの種類の意味です。
<アシミキ>とは、立樹の幹の意です。<アシ>は、芦や足に例えて、「上下に縦に立ち上がる」こと。カタカムナでは、木を見る時に、樹の成長のままの立樹で見る所であり、横に切り倒したものは、もはや「アシ」ではないのです。(「横に拡がる」のは、黴に例えて、<カビ>と言います。)
<マキワ クラ>とは、「年輪の座」のことです。横断面のみならず、縦方向にもマキワが現れ、それを板にすれば、キメが出てくるということです。
<チヨカ>は、図のような、気の皮を削る道具で、昔は「チョッカ」と発音され、「チョンガー」の語源となったらしいのですが、この道具は今は使われてはいません。
<ツキツム>は、突き削る、すなわち、樹皮をチヨカの刃で打って、軽く傷をつけると言う意味です。
<サエビ ワケ>は、チヨカで傷つけられた立樹の皮の裂けるヒビキを聴き分けるの意。立樹のサエビの音によって、その材質がわかる、という意味です。
<タクミ ツキ>において、「ツキ」は「キツキ」の意味であり、「ツキ」が付いていて、タカツキ、築く、等の語が派生します。「タクミ」は、そのわざに得手な人、上手、の意です。タクミツキとは大工のことになります。
立樹のキメは外観に現れませんが、しかし、そのキメの様子を、チヨカ(削斧)で、樹の皮を突き破る方法によって、判断ができることを示したのがこの句です。立樹のサエビ(振動音)によって、立樹の部分的位置の材質を知る方法があることを述べたものです。
第74句 ツヌ コリメ(イヤスガ タカビ)
<ツヌ コリメ>とは、個々(ツ)のない凝り目のことです。ここでの「ツ」は、枝分かれした後の節目の意味です。また、<コリメ>とは、緻密な充実した材質のキメを言います。
<イヤスガ タカビ>とは、「大きくカン高く冴えたサエビ」の意味ですが、具体的にどんな音なのかは、今となっては再現しようがありません。
このように、立木を無駄なく、労力少なくして調査し、利用途に応じて材質を選ぶ技法は、現代まで、宮大工の代々の秘密の家伝になっているとのことです。
第75句 タマ ヨリメ(アハケ フトハビ)
<タマヨリメ>とは、板にした場合、球状のキメが、均整的に配列されていて、歪(クルヒ)の来ない材質のことです。
<アハケ フトハビ>、すなわち「淡く太い、破裂音」とは、楢崎氏がある宮大工に尋ねたところ、「クォン クォン」と聞こえる音の意味であるという返答だったとのことです。
第76句 アヤ タミメ(チビキ ソレハビ)
以上のように、チヨカで突いて、サエビを聴き分けて、用途によって用材を決めておけば、一々切り倒して調べなくてもよい、というもので、タクミのわざは、木理(キメ)によって木の性質を見極めて、山から「木出し」することが先決とされたのでした。このように、タクミになるためには、最高度の直観の研ぎ澄ましが必要とされていたようです。
第77句 カチ ウヅメ(アラホ コモリビ)
<カチ ウヅメ>とは、「勝ち渦理」、すなわちウヅメの込み合っている意で、板木理の場合は以下の図の如くです。
第78句 サカ ヲサメ(サザミ ニニケビ)
<ホコスミ>:「スミ」といえば、木炭を連想しますが、古くは、燃えて黒くなるものはすべてスミと称したとのことです。
<サカ ヲサメ>とは、逆さに向き合っている長いキメの意で、板木理の場合は以下の図の如くです。
第79句 マガ ヨネメ(オオウラ ヤレビ)
<マガヨネメ>:マガヨネメ材は、雨水の浸食に対して耐久性があると言われます。
現用語の「土台地廻り」はウケタツキ(受築台)に当たり、これに柱のホゾを作って、立木を立てます。現在では、アガリカマチ(玄関の飾枠)床カマチ(床間の飾枠)等に、マガヨネメの捻じれた形が、美的要素として多く使われています。
第80句 オヒ ソヘメ(スガル ウツロビ)
<オヒ ソヘメ>とは、木理が解理して互いに添い合っている状態の「老化木理」のことです。虫が付いたり、水が入ったりして立樹が部分的に枯れ、キメがはがれている状態の、いわゆる腐の入った材質のことを指します。
このような木は、樹全体が枯れているわけではなくても、建築用材には適さないから、自然の土にかえせ、と教えている句です。
以上から、後代の日本人の、石や木に関する独特な、高度の技術と芸術的感覚の起源も、この「カムナガラ」のミチのサトリに基づくものであることが明らかになってきたのです。