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甘い静かな時間 25

時が止まってくれればいいとさえ思った。
きらくんとの甘い静かな時間

「じゃあ帰るね
また、連絡するわ」

と言って私は部屋を出た。

ロビーに行くととしふみさんがいた。

「今日はありがとうございました
お部屋代、いくらですか」
と聞くと

「いいですよ
ここは俺が」
というとしふみさんに

「だめです
お料理代も出してもらってるのに」

「俺とあいつの仲なんで気にしないでください」

私だってきらくんにお祝いしたい
と思って

「そういうわけにはいかないわ
今日はきらくんの合格祝いだから、私にも出させて」

と手を合わせながら、少し詰め寄ってしまった。

「えっ、あ、はい
じゃあ、お部屋代だけいただきます」

と言って、伝票を作ってくれた。

なんであんなにびっくりしたのかな
払うの当たり前だし
ちょっと、詰め寄りすぎたのかな

と思いながら、支払いをして、私は会釈してホテルを後にした。


としふみはきらが気になり部屋へ行った。

「おい!大丈夫か」
部屋に入ると、窓の外を眺めているきらがいた。
今までに見たことのないうつろな目だったから、心配になったのだ。

その声に、きらは外を眺めたまま
「大丈夫だよ」
と言った。

としふみはきらのそばにいって
「あやさん帰ったぞ
部屋代払っていった」

っていうと、初めは
「あー、そうなんだ」
と言ってしばらくして

「えー!!
てかあやさんって呼ぶなよ
で、お前払わしたのかよ」

と、さっきまでうつろだった目がいきなり正気に戻り、今度は攻撃的な目になった。

いきなり変わったきらに驚いて
「おいおい、落ち着けよ
いや、俺もいらないって言ったんだけど、彼女がお前の合格祝いなんだから、私にも払わせてって、お願いされて」

「だからって、いつもお前強気なのに、その強気さで断ってくれればよかったのに」
と言ってきたから、ついその時の状況を言ってしまった。

「お前そういうけど、彼女があんな顔で詰め寄ってきたら・・どきっとして言えないぞ
あっ、」
と、としふみはしまったという顔で手で口をふさいだ。

きらはその姿を見て

「お前、なに?まさか、あやさんのこと・・」
と怖い顔でにらみつけてきた。

こいつ、あやさんのことになったら怖すぎる
と思ったとしふみは

「誤解するなよ
落ち着けって
確かにお願いしてきた時の彼女の顔は、その、色っぽいというか、かわいいというか・・
そんな顔でむっちゃ詰め寄られて・・・
あれはお前が一目ぼれしたのわかるなって、ちょっとドキッとしたんだよ
ちょっとだけだぞ、ちょっとだけな」

それを聞いたきらは、椅子に座りなおして大きなため息をついた。

「そこなんだよ
あやさん、おれによく罪だっていうけど、あやさんこそ卑怯だ
心臓が出そうなくらい切なくてそれでいて柔らかくて、マリア様みたいな顔するんだ」

「あーわかるわかる!」
と、としふみはきらの向かい側に座って、あやのしぐさや顔を思い出しながら、うなずいていた。

そんなとしふみを見てきらは

「お前、変な気起こすなよな
もし・・あやさんに手を出したら殺すぞ」
と、としふみをにらみつけた。

「そんなことしねえよ
おれ、年上興味ないし
ていうか、お前、あやさんのこと信じてないのかよ」

というとしふみに、きらがはっとした
そして「あーーーー」と言って、頭を抱えた。

「お前さーあのあやさんはおれがいや俺だけじゃない、誰がアプローチしても無理だ
あの人は、お前のことほんとに好きだとおもうぜ」

ととしふみにいわれて、頭を抱えたまま
「わかってるよ、でもおれやっぱり不安なんだよ」

いつも自信たっぷりのきらが泣き言を言っていると、としふみはびっくりした。

こんなきら初めてだ
これは相当重症だな
ととしふみは思った。

「きら、彼女と今日こそは・・だろ?」
とベッドに目をやった。

としふみは、前回来た時の2人の出来事を知っている。
その時きらがこの世の終わりみたいな顔をしていたことも。

「あー、もうおれだめだわ」
とまたふさぎ込んだ。

としふみはさっぱりわからないという顔で

「なに悩んでるんだよ
良い時間だったんじゃないのか?
帰っていく彼女見ておれはそう思ったんだけど」

「良い時間だったよ
あやさん、すごく優しくて、おれあんな気持ち初めてだった」

「それなら何の問題もないじゃないか」

「だから余計にやばいんだよ
おれ、やばいくらいあやさんが好きなんだ
離れたくないんだよ」

とまたふさぎ込んだ。

やっぱり相当重症だ
と、としふみは思い

「お前、乗り込むなよ
朝倉さんだったっけ?
冷静になれよ
でないと、悲しむのは彼女だぞ」

このままではきらは何するか分からないと、としふみはくぎを刺した。

その言葉に顔を上げて
「大丈夫だよ
冷静だよ、そんなことはしないよ
としふみ、ありがとな」

と笑って見せた。

その顔に、ちょっと落ち着いたかな
ととしふみはほっとした。

「それにしてもお前がここまでのめり込むとは笑」
と言って、笑い出した。

「うるさいよ
好きなんだから仕方ねーだろ」
と、すねた。

「でもさ、どうなるか先は分からないぞ
きっと、彼女も同じ気持ちだと思うぜ
お前、ちゃんと安心させてやれよ」

と、としふみが真剣な顔で言ってきた。

おれだってわかっている
このままこの関係が続くかは不安だ
でも今は考えたくない
ときらは心の中で思った。

「ありがとな、としふみ
おれ、あやさんが不安にならないように守るよ」

そういうきらの目は、真剣そのものだった。
としふみは、
「ま、何かあったら俺がいるじゃん、おれを利用しろよ」
と、胸を張った。

「お前の胸じゃ頼りねえー笑」
と、吹き出した。

でもきらは心の中で、としふみと友だちでよかったと思った。

to be continued・・・




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