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甘い静かな時間 5
パーティーから一か月が過ぎた。
その間、お友だちとランチには行っていたが、全くcalmeには行っていなかった。
「そういえば最近、calmeに行ってないんだね」
と、夫に言われた。
「そうかな。お友だちが違うお店も教えてくれたりしてたからかな」
と、少しの噓と本当の話をした。
違うお店に連れて行ってくれたのは友だちと言うのは本当だ。
しかし、calmeをやめて違う店もいいよねっと、促したのは私からだった。
そんなある夏の暑い日だった。
用事を済ませた後帰ろうとした時、夕立がきそうな空だった。
嫌だな、一雨きそう。
私は傘を持っていないことに気づいた。
降り出さないうちに帰らなきゃと足早に駅へと向かった。
やっぱり降ってきた・・
そう呟きながら、小走りしている先に路地が見えた。
そうだあの道、お店の屋根伝いに行けそう
そこは賑わっているお店の裏側で、人通りも少なく屋根も合って動きやすい。
私は、器用にお店からお店に小走りで進んで行った。
少し雨が本降りになり始めた。
その時ちょうど閉まっているお店の軒下に差し掛かったので、
ここなら迷惑かけないで居られそうね。
と思い立ち止まった。
その軒下は屋根が浅いので、ちょっと動くと濡れてしまいそうだったが、このまま駅に行く方がびしょ濡れになる。
それならまた小降りになるまでここに居ようと思ったのだ。
中々止まない雨の空を眺めていると、
「あやさん?」
誰かが私を呼んでいる。
知り合い?気のせい?
と思いながら声のする方を見ると、早坂さんが立っていた。
えーー何で!
絶対会いたくない相手だ。
そして思い出した。
この裏道は、ちょうどcalmeの裏手でもあるのだ。
もう、なんでここで止まったんだろう
とかなり後悔した。
そんなことを考えている間に、彼は私のそばまできていた。
「あやさん、ここで何してるんですか?」
くったくのない笑顔で聞いてくる。
私は、彼の笑顔に弱い。
にっこり微笑むと八重歯が出て可愛いのだ。
それに、パーティーの日のキスが頭から離れないし、目の前にいる彼の顔がまともにみれない。
思い出すだけで心臓の鼓動がまた早くなる。
「急に雨が振り出して・・・雨宿りかな・・」
とたどたどしく言いながら下を向いてしまった。
雨が本格的に降ってきた。
軒下の屋根が浅いから私が濡れると思ったのか、彼は自分の傘の中に私を入れた。
気遣いは嬉しいんだけど、近すぎる
と、心の中で叫んだ。
「今日の天気予報みなかったんですか」
「突然のにわか雨に注意って言ってましたよ笑」
と笑われた。
彼は声を出して笑っても静かだ。
その雰囲気が空気を和ましてくれる。
思わず私も
「そうだっけ?全然見てなかった笑」
と、自然に会話ができるぐらい心が落ち着いた。
そして
「早坂さんこそどうしてここに?」
「休憩なんで、お昼ご飯買いに行ったんです」
と言ってコンビニの袋を見せてきた。
calmeのすぐ横にはコンビニがある。
「いつもそこでお昼買うんですか」
「いえ、何時もは賄いがあります」
そっか、レストランだもんな、賄いあるんだ。
と思いながら
「じゃあどうして今日は?賄いなかったんですか」
私、結構話せるじゃない
この間のことは、なかったことにすれば良いのよ
心臓の鼓動もゆっくり正常に戻り始めていた。
「いえ、ありましたよ。でも、雨だったから」
と言いながら、少し空を見上げてにっこりした。
そんな彼の顔が眩しすぎてドキッとした。
まただ、この顔は罪だ
わたしの心をドキッとさせる
と思い、さっきまで顔を見て話していたのにまた見れなくなって、下を向きながら
「雨だから?雨ならなおさら出たくなかったんじゃないの?」
「なんだかウキウキしませんか?雨の音。」
「だから外に出たくなったんです」と。
やっぱり感性が豊かだな
彼のこういうところ、好きなんだよな
と物思いにふけっていたら
「それに・・出てきてよかった」
「あやさんと会えたし」
といって、下を向いている私の顔を覗き込んでにっこり微笑んだ。
ほんとに重罪だ
そんなこと言われたら、また胸がドキドキしてきたじゃない
それにその笑顔、ダメだって
と思っていると
「この傘、持って行って下さい」と言ってきた。
びっくりした私は
「だめです。そんなの申し訳ないし、早坂さん困るじゃないですか」
「大丈夫ですよ。ほらお店すぐそこですし」
といってお店の方を指さした。
その時、ピカッと空が光り、大きな雷鳴が響いた。
どこかに落ちたのか?ゴロゴロという音ではない。
バリっという何かを耳元で割られたような音だった。
びっくりしたのと、私は雷が大っ嫌いだ。
子どもの頃、家族旅行で突然の雷雨に見舞われ、雨宿りしていた場所の目の前のお寺の木に雷が落ちたのだ。
その時まで雷が落ちるという認識をしていなかった私は、一気に恐怖を感じた。
尋常じゃない光と音に気づいたら彼にしがみついていた。
え?何してるんだ、私、
と、慌てて彼から離れて
「すみません」
と言っている時、また光った。
すると彼が片手で私を引き寄せた。
「大丈夫ですよ。雷、苦手なんですね」
「雷がおさまるまでこのままで居ましょう」
と、私を優しく抱きしめた。
どうしよう
どんどん彼に惹かれてる気持ちが止められない
to be continued・・・
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