甘い静かな時間 32
きらくんと待ち合わせをしたカフェに着いた。
わたしは、いつものように螺旋階段を昇って行った。
すると、きらくんはもう来ていた。
珍しい、何時もちょうどの時間に来るのに
と思いながらきらくんを、眺めていた。
コーヒーを飲みながら、外の景色を見つめているきらくん。
やはりその横顔は、ミステリアスでとってもきれい。
嫉妬してしまうくらいに。
そんなガン見をしている私に気づいて、少し微笑んで手を振ってきた。
さっきのミステリアスな顔とは真逆で、いとおしくなる笑顔。
相変わらずあざとい八重歯がやっぱりかわいい。
わたしは、きらくんのもとにゆっくり近づき、椅子に座った。
その一つ一つの行動を、確かめるようにきらくんは見てきた。
「こんにちは、今日は早いのね」
そういいながら座る私の顔をじっと見て
「あやさんだ」
と、一言だけ言ってにっこり微笑んだ。
その嬉しそうな顔がたまらなく可愛くて、今すぐにでも抱きしめてしまいそうになる。
だめだめここはお店
と、自分に言い聞かせた。
「いらっしゃいませ」
きらくんと私の空気感を断ち切るように、お店の女の子がやってきた。
「ホットコーヒーお願いします」
「かしこまりました」
その女の子は、注文を聞けたらあとは好きにしてと言わんばかりに、そそくさとテーブルを離れた。
「ごめんなさい、連絡遅くなって」
という私に
「大丈夫!
じゃなかった・・」
と、笑ってはいるけど、顔はとってもさみしそうだった。
遅いといっても一週間だ。
今までだって、もっと長く連絡し合わなかったこともあった。
「あやさんとあの日抱き合った後、満たされた気持ちが溢れれば溢れるほど、一緒に居たい気持ちが先走りそうで・・・
でも、抑えなきゃと思うほど、あやさんからの連絡が遅く感じて、このまま連絡来ないんじゃないかって思ってた」
きらくんは、今まで言いたかったことを、一気に話したようだ。
こんなにもわたしのことをおもってくれてるなんて
と思うと、嬉しい反面、私ってひどいことしてるのかなって、少し自己嫌悪に陥った。
「私だってとっても会いたかったわ
でも、夫がいいきなり海外出張になって、バタバタしていしまって、気づいたら一週間もたっちゃった」
女の子がもってきたコーヒーを飲みながら話した。
「あやさんが会いたいって思ってくれてたってだけで、安心した」
そう言って、カップの中を眺めながら微笑んでいた。
きらくんは今やっとホッとしたって感じの顔だな
と、思いながら見つめていると、アッという顔をして、私の方をじっと見ながら
「朝倉さん海外出張って、まだ帰ってきてないの?」
「そうね、ちょっと長引いているみたい
帰ってくるのは来週かな」
「あやさん・・あの・・」
きらくんは、なぜか急にそわそわしながら言いにくそうにしている。
でも私は、きらくんが何を思ったのか分かった。
言いにくいのは、私をそこまで拘束できるのかって、そして、拒否されたらって思っているんだなと。
そんな彼が私はとってもいとおしくて、気持ちが抑えられなくなっているのは、私も同じだ。
あの日以来、もう迷わないと決めた。
私は、
「きらくん、私はいいわよ、夫が帰るまでにあなたが日にち作れるなら」
と、そっときらくんの手に手を重ねながら話した。
そんな私の言葉に、一気に満面の笑みを浮かべ、
「ちょっと待ってくれる」
と言って、席を立った。
邪魔にならない場所で、誰かに電話をしているようだった。
しばらくして、きらくんは席に戻ってきた。
いつもの自信に満ち溢れたきらくんの顔。
やっぱり不安な顔のきらくんより、ずっといい
と私は思った。
「としふみのホテルの部屋一室予約したよ
俺、次の日は夕方からの仕事だからゆっくりできる
いいよね?あやさん」
私は、黙ってうなずいた。
今度はきらくんと一夜を一緒に過ごすんだ。
と思うと、なんだかそわそわしてきた。
いつものきらくんに戻っているわけだから、私のそわそわしている姿をみのがすわけがない。
「あやさん、俺、この一晩、あやさんを満たしてあげる
覚悟してね」
と、耳元でささやくと同時に、耳に軽くキスをしてきた。
やっぱりきらくんにはかなわない。
体が一気に熱くなる。
胸の鼓動が、周りに聞こえるのではと思うくらいに、高鳴っている。
一晩きらくんと過ごすのか・・・
離れられるだろうか・・・
to be continued・・・