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甘い静かな時間 28

話を聞こうじゃないの!

と、さとみは思ったが、拍子抜けするくらいきらは、覇気がなかった。

「田中さんは、あやさんと最近会いましたか」
と、コーヒーカップをみつめながら言ってきた。

「昨日会ったわよ」
「えーー、昨日!会ったんですか!」
と、いきなりこっちを見て言ってきた。

「びっくりするじゃない、会ったといっても正確には、私が朝倉コーポレーションに行ったのよ」
というと、
「すみません、つい、会ったっていうから・・・」
「そうですか、田中さんからですか」
と、つぶやくように言ってから、また急に
「え!そんな、会社とか行けるんですか」

いちいち驚きすぎだな
とさとみは思いながら
「さっきも少しだけ言ったけど、朝倉コーポレーションと、私が働いている会社は関連があって、よく行くのよ」
「昨日は仕事ではなく、あやちゃんの顔見に行ったんだけどね」
というと、私の顔をじっと見てきた。

「ちょっと、なによ」
「いや、田中さんとあやさんて、歳も離れてますよね、どういう関係なのかなって」

歳のことを言うな
と思いながら
「元々、私は今の会社で朝倉コーポレーションの担当だったの、今もだけど。
そうしている時に、あやちゃんが朝倉コーポレーションに入社してきたの」

「あ、それ、前も聞いた気がします
そこであやさんと仲良くなったって」

「そうよ、入社した時のあやちゃん可愛かったな、いきなり社長秘書で、何にも分からないからって、私にすごく頼ってきて、ほっとけなかったな」
「それ、分かります!あやさんってほってけないんですよね」
と、少し笑顔が戻った。

「それで、ご飯食べに行ったりお茶してたりしたら、いつの間にか仲良くなってた、ほら、私こんな性格だから、中々波長会う人いないのよね、でもあやちゃんとはすごく波長が合ったから」
「ですよね、田中さんと合う人、そうそういないと思いますよ」
と、悪気無くストレートに言ってきた。

「ちょっと、そこは気を遣うところでしょ」
というと、ちょっと照れたように笑った。

それを見てさとみは
よかった、少しは元気出てきたみたい
とほっとした。

そしてきらが本題の相談をし始めた。
「俺、あれから、あやさんから全然連絡なくて、もう1週間経ってて、不安で・・・」
と、またふさぎ込んだ。

そういうことか
あやちゃんとは対照的過ぎて気づかなかった
とさとみは思った。

「そういうことね、そんなに不安なの?」
と聞いてみた。

「はい、不安です」
「あの日ほんとにあやさんと抱き合えてすごくうれしかった」

なんてストレートな
とさとみは思いながら、きらがまだ話したそうにしていたから、黙っていた。

「あやさんは、優しくて、温かくて、なんかすごく包まれてるって感じで・・」
「こんなこと言うのもなんですけど、俺、結構何人かつきあってるんですよね」
と、さらっと言った。

若いってすごいな、あやちゃんのことだけでも、ドキドキしてくるのに、さらになんてことを
と、さとみは息をのんだ。

そんなさとみの様子を見て、きらは
「田中さん大丈夫ですか?なんか変なこと言いました?」
と不思議そうに言ってきた。

「いや、大丈夫だけど、早坂くんがあやちゃんとのこと話すから、ちょっとドキッとしたのよね、しかもさらに、そんな・・付き合った人多いのか・・と」
というと、きらは我に返って
「そうですよね、何言ってんだろ」
と動揺していた。

「大丈夫だから続けて」
さとみはここまで話したんだから、最後まで話しなさいよ
と思った。

「あ、はい、
今まで付き合っ人たちも、もちろん真剣に付き合ってましたよ。
でも、あやさんと、あの抱き合った感覚は初めてだったんですよ」
「もう、好きすぎて離れたくなくなって・・・
ほんとは、あの日も帰したくなかった・・・
でも、連絡するって帰っていったあやさん、連絡してくれないし、かといってあやさんがするって言ったのに、俺からしたら嫌われるんじゃないかって思って、そんなこと考えてたらどうしていいか分からなくなって・・・」
「そしたら、ちょうど田中さんみつけて、気づいたら声かけてました」

きらは、いっきに話した。

さとみは、きらの気迫に圧倒された。
相当あやちゃんのこと好きなんだ、ていうかこの2人、逆転してるな
あんなに自信満々で、あやちゃんのこと手のひらで転がしているようだったのに
恋って恐ろしい
と、さとみは思った。

「田中さん、俺どうしたらいいんですかね・・
あやさんはどんな感じでしたか?」
今にも泣きそうな顔で、さとみに詰め寄ってきた。

「ちょ、ちょっと落ち着きなさい、一つずつ話すから」
といって、さとみもコーヒーを一口飲んだ。

その姿にきらは、とりあえず座りなおして、深呼吸していた。

「まずは、今のあやちゃんはとっても幸せそうだったわよ」
というと、ふせていた顔を上げて、さとみの顔を真剣に見てきた。

「あやちゃんはあなたと、あの・・そうなったことを幸せに思っているって、もう迷うものはないんだって」
「それに・・」
「なんですか!それになんですか!」
と、きらは身を乗り出していた。

「それに、ちょっとでもあなたの名前が出ると、顔がほころんで赤くなってた」
というと、きらは一気に力が抜けたように、前を向いてため息をついた。
「おれって、やっぱり子どもなんですね・・・」
と、嬉しそうというより、自信なさげな顔だった。

これは私ではだめね
あやちゃんでないとこの子の元気は取り戻せないようだわ
と、さとみは思い
「あのさ、これ見る?とっさに撮っておいてよかった、ほんとにあなたに見せるとはね」
と言って、昨日撮ったあやの写真を見せた。

それをみた彼は、時が止まったような顔をして、かなり長い間その写真を見ていた。
その間、瞬きもしていなかったんではないだろうか。

「あの、そろそろ携帯返してくれる?」
というと、
「あ、すみません、あまりにも可愛くて見惚れてました」
「あいかわらずストレートね」
と、さとみは噴出した。
「この写真はね、あなたの名前が出た時に見せた笑顔よ」
「その時こうも言っていたわ
あなたに会いたくなってきたって」
というと
「ほんとですか!」
といって、うつむいた。

さとみは
大丈夫?まだ落ち込んでるの?
と思って、そっとのぞき込むと
「だめです!田中さんのぞき込んだら」
といって、顔赤くしてにやにや笑っていた。

さとみはあきれて
全く、こどもか
と思った。
でも、すこしは元気が出てよかったと思った。

そしてきらは
「田中さん、この写真送ってくれませんか」
と言ってきた。

びっくりしたさとみは
私はいいけどあやちゃんに許可とらないとな、それにどうやって送るの?私が彼とアドレス交換?そんなややこしい
と思った。

さとみはしばらく考えて、そうだ!と思い
「早坂くん、でるわよ」
と言って、急いでパソコンをかたずけて荷物を持って、店を出た。
「ちょっと、田中さん、待ってください」
と、きらは何が何だかわからず、さとみのあとを追った。

お店を出たさとみは、携帯で誰かに電話をかけようとしていた。
「ちょっと田中さん、おれの話聞いてました?写真・・」
と言いかけると、さとみが人差し指で、しーっという仕草をした。
きらはそのしぐさに黙った。

「もしもし、あやちゃん?私」
「あのね、実は今早坂くんといるの」
その言葉にきらは、嘘だろ!という顔をした。

そんなきらの顔を見ながら、そして少し笑いながら、偶然会ったことを話した。
「それでね、昨日あやちゃんの写真撮ったでしょ?あれを見せたら欲しいっていうから、私が送るわけにいかないと思って、今からあやちゃんに送るからあやちゃんから彼に送ってあげて」
と、さとみがいった。

なにか長く話している。
さとみは、うんうん、そうね、としか言わない。
きらは不安になってきていた。

すると、いきなり
「はい、あやちゃんが変わってほしいって」
とさとみが携帯を渡してきた。

不安そうにその携帯を手にして、きらは恐る恐る小さな声で
「もしもし」と言った。

「もしもし?きらくん?」
というあやの声に、きらは一気に顔がほころんで
「あやさん、おれ」
と言ったきらは、緊張していたであろう体の力が抜けていくように、満面の笑みになっていた。

あんなに不安そうな顔をしていた彼が、あやちゃんの一言の声だけでこんなにも変わるのね
まるで氷が一気に解けていくように

さすがあやちゃんだなと、さとみは思った。

to be continued・・・

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