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甘い静かな時間 31

さとみはカクテルを一口含みゆっくり飲んだ。
喉をゆっくり流れ落ちる感覚を、記憶にとどめながら。

さとみは、あやがなぜ恋に落ちたか、そして今2人が少しづつ見えない絆でしっかり結ばれていっている状況など、丁寧に話した。

「あやさんは、今ここにいきつくまで、苦しかったんですね」
と、瞬時にあやの気持ちを理解した。
そんな気持ちを分かってくれるマスターだからこそ、さとみは話したのだ。

そして、さとみがなぜ心を揺さぶられたのか。

「はじめは、あやちゃんの恋してしまった気持ちと、私を重ねていたのは確かよ。
だからこそ私は、あやちゃんの背中を押したわ」
「そうしている間に、彼、早坂くんの方があやちゃんに夢中になっていてびっくりしたわ」
と、遠くを見ながら、きらの最近の態度を思い出し少し笑った。

「彼、早坂くんですか?今お話聞いている限りでは、自信家のように思えましたが、今はあやさんと深くなるにつれ、不安になっているということですね
若い時にある感情ですね」

マスターの言葉は、さすが的を得てるとさとみは思った。

「それでね、私この間偶然彼に会って、相談を受けたのよ」
「やっとあやちゃんと、念願かなって抱き合えたのに、不安だって
あやちゃんは忙しくて連絡できなかっただけなんだけどね
彼は、その間が不安だったらしいの」

その言葉に、マスターはなるほどっという顔で、ゆっくりうなずいた。

「それに関しては、解決したんだけど・・・」
と、話を止めるさとみに、マスターも手を止め
「彼の色気の毒にやられましたか」
と、言ってきた。

さとみは鋭いマスターに驚かされた。
確かにいつも鋭いけれど、これほどまでとはと。

「そしてさとみさん・・・あやさんではなく、彼がだぶったのですね」
「マスターにはかなわないわね
そうよ
そばにいるだけで、色っぽい空気、時々見せる屈託のない笑顔、でもとっても大人で・・・時に意地悪言ってきて」
という、さとみの言葉をマスターは、ゆっくりうなずき納得しながら聞いていた。

「わかりますよ
わたくしは何年も、さとみさんたち2人を見てきましたから、そしてその時のさとみさんはとっても幸せそうな顔していましたから」

さとみは苦笑いしながら、きらに言われた最後の言葉に一気にその時の自分に、忘れていた、いや忘れようとしていた気持ちを掘り起こさせられた話をした。

「早坂くんがね、私を大人の女って言ったの、いつぶりかな女って言われたのって思うと、ちょっとドキッとして、あせったのよ
そんな私に、
『へーー田中さんもそんなところあるんだ』
『さっき、俺とあやさんの話聞いてた時、顔赤かったですよ
何考えてたんですか』
って、耳元でささやいたのよね」

それを聞いていたマスターは、瞬きが出来ないほど目を大きく開けて聞いていた。
「彼は中々色っぽいですね、きっと彼が知らないところで、どきっとする女性いそうですね」
と、笑いながら言った。

そんなさとみは
「もうマスターまで
でも・・・」
と言いかけた時、マスターがさとみより先に言ってきた。
「さとみさん、横田さんと似てますね・・・彼」
と言った。

横田さん、それはかつてさとみが人生をかけて恋をした相手だ。
「マスターも気づいたのね
そうよ、彼に似てるの」
と言ってまた目が潤んできた。

そんなさとみに、
「これは、私からです」
と言って、カクテルを作ってくれた。
「Don't forget
忘れなくていいんですよ、
あなたの気持ちは押し殺さなくてもいいんです」
と。

その言葉に、さとみは涙が溢れた。

さとみが付き合っていた横田さんは、10歳年上の既婚者だった。
そして、彼は、もうこの世にはいない。
あれから、5年。


「似てるとはいえ、一つ違うところは、彼、早坂くんは生意気な年下ってところね」
と、笑いながら、マスターの作ってくれたDon't forgetのカクテルを飲みほした。

「今日は来てよかったわ、これからも来ていいかしら」
「もちろんですとも」
と、マスターはにこやかに笑った。

to be continued・・・

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