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キリンジ『エイリアンズ』ー夜の情事とアンヴィバレントな異星人の愛

こんばんわんこそば!一杯目

突然ですが、「エロ」足りてますか?
わたしは「エロ」が大好き。
語弊などありません。
エロを求めて日々生きています。
そんな中で、エロな楽曲に魅入ることが多々あります。

文学研究の授業の一環で歌詞を分析しようのコーナーがあって面白いなあと思ったので、今回はエロマンス曲、キリンジ『エイリアンズ』を分析していくょ❕

暑すぎて、夏。
暑すぎて、キリンジ。

さあ、ドロドロ溶けるような暑い夏に聴きたくなる名曲「エイリアンズ」を詩的技法や芸術的な価値に基づき分析してイくょ!この「エイリアンズ」は、汗に濡れて二人とも顔がテカっているジャケットカバーが印象的で有名なイメージ。デビュー時からのプロデューサーである冨田恵一と作り上げられたサードアルバム「3」に収録されているキリンジの代表曲!腕利きのサポートミュージシャンを起用し、緻密に作り込んだ楽曲と文学的かつシニカルな視点から生み出される歌詞のコンビネーションは、彼らが多大な影響を受けたスティーリー・ダンのマナーを踏襲。現代の日本で発展したソングライティングの独創性が光っている。

時間ないから1番の歌詞だけおいしく味わっていくことにするか


「エイリアンズ」は以下の歌詞から始まる。

遥か空に旅客機(Boeing)音もなく
公団の屋根の上 どこへ行く

あの旅客機はどこに行くのだろうか。昼なのか夜なのか、空にはゆっくりと飛行機が進んでいる。昼間にもそれをよく見ているから、彼はゆっくりと空を横切るあの赤い点滅が「ボーイング」だとすぐにわかったのだろう。「公団」という言葉で、彼がここをよく知ってることがわかる。子供の頃から、公団住宅の上を飛行機がゆっくり飛んでいる。つまり、ここがそのような田舎だということがわかる。
曲調もゆったりしていてリンクする。

誰かの不機嫌も 寝静まる夜さ

近所ではいつも喧嘩している声が聞こえるのだろう。だが今は夜だから、みんな寝静まって、そんな声も聞こえない。
また、昼に溢れた不都合な真実も、夜には秘密裏に隠れ打ち消される、とも捉えられる。

バイパスの澄んだ空気と僕の町

季節は秋や冬だろうか。夕方の「バイパス」が想像できる。キリンジは埼玉県坂戸市、およそ人口10万人という小さな郊外出身だ。

「バイパスの澄んだ空気」こんな感じらしい(http://blog.livedoor.jp/neophilia/archives/2252287.htmlより引用)


泣かないでくれダーリン ほら月明かりが
長い夜に寝付けない二人の頬を撫でて


出た、ダーリン。なんと彼は女を「ダーリン」と呼んでいる。なんともクセがすごく気持ち悪い。おそらく、二人の関係は上手くいっていないのだろう。「長い夜」という言葉から、秋や冬の季節を感じさせる。「寝付けない」、つまり夜の情事は既に一発終わっていることが予想される。透明な窓から差し込む「月明かり」が二人を照らしている。時刻は真夜中の3時くらいだろうか。「二人の頬」という言葉から、彼らは自分たちを俯瞰で見ていることがわかる。

まるで僕らはエイリアンズ

まるで僕らは宇宙人や異邦人、あるいは余所者のようだという意味だろうか。この世で"異様なもの"としてこんな真夜中に性行為なんかしちゃったりして、この狭い町の中で普通の人間からははぐれている存在。それなのに昼は普通の顔をして生きているのだから、まるで僕らはエイリアンズだ。

禁断の実ほおばっては
月の裏を夢見て

「禁断の実」とはご存知、聖書のアダムとイブから連想される、"リンゴ".のことだろう。赤くて丸いリンゴ。僕らはセックス、やってはいけないことをやっている。「月の裏」は地球からは見えない。月の公転速度と自転速度が同一だからだ。それを夢見るということは、恋人に対して幻想を抱いていることのメタファーだろう。(草原様のnoteより引用)そして、人間の生活の裏、不倫なども連想する。またこの曲がB♭というコードで構成されていることで、メジャーであるCの明るさとは真逆のキーで構成されているということからも「裏」を感じる。

キミが好きだよエイリアン
この星のこの僻地で
魔法をかけてみせるさ
いいかい

自分たちは「エイリアンズ」だが、彼からすると相手もエイリアンであり、自分と同じ疎遠な存在である。「この星」は月と同じ丸い球体とその外に広がる世界というイメージだろうか。「この僻地」つまりこの田舎という一部の小さな点のような所で「魔法」という名の性行為に及んで一つになっているという暗示だとも取れる。
そしてここで、いきなり「キミが好き」などというストレートな言葉を当てている。わかりあえないことに目を瞑り、わかりあえないことを所与としつつ、それでも「キミが好き」と言い放つ支離滅裂さの中に存在するアンヴィバレントを感じる。
「魔法をかけてみせるさいいかい」という言い方に、彼女をダーリンと呼びエイリアンと呼ぶ。気持ち悪さのハッピーセットだ。
ここで注目すべきなのは、好きな人に「エイリアン」という異星人の意を込めて呼びながらストレートに愛を伝えていることだ。分かり合えないという一種の諦めと恋愛感情が綯交ぜになったまま、この曲の後半にいくにつれて、より強く深いものになっていく。

タイトルの意味って何?

「エイリアンズ」は前提としてラブソングである。エイリアン、つまり宇宙人や異邦人、余所者という意味としても捉えられる。曲中では意図的に「エイリアン」と「エイリアンズ」が使い分けられている。「まるで僕らはエイリアンズ」という複数形の表現によって、二重の意味が持たされている。
一つ目は、社会から疎外感を感じながら、寄り添う二人という意味である。二つ目は、その二人もまたチグハグであり、分かり合えていないというある種の残酷さを伴ったニュアンスである。(草原 2019)
なるほど、そのようなわかりあえなさと恋愛(エロ)が共存しているアンヴィバレントな人間の生々しさがこの曲の1番の美味しい蜜、たっぷり味わえて幸せだ。

人間っていいな

この楽曲は、アイロニーとロマンスが共存する素晴らしく最高にエロな楽曲だ。わかりあえないという事実と恋愛感情の相反する感情がシニカルな視点で描かれている。わかりあえなくても、だからといって人を好きにならないわけにはいかない。人を愛さないわけにはいかない。時折それは哀しく滑稽なものであるが、、、人間とはそういうものである。
人は誰しも、疎外された孤独な存在だ。お互いの全てをわかりあうことはできない。しかし、それを理解しながらも他者と共存したいと願い、愛し合うことは求めるのだ。

みんな、エイリアンズ。

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