好きな人はわたしを辛くさせる
さて今日は9連勤最終日。
おかげさまでお正月太りどころか、
むしろ痩せてきていて、
ここ数日はずっと46キロ台だ。
バイト前後はガッツリ食べているのに。
最後に好きな人に会うことはできるだろうか。
相変わらずハラハラしている。
これで毎朝のようにお腹を下していたから痩せたのかもしれない。
たぶん1日空いたらまた、
好きな人はカッコよすぎて眩しくて大変なのだ。
わたしは週に5回好きな人に会ってそれを学んだ。
もしいつものように好きな人のいる1階に行けたと仮定して、
また10時までに仕上げなきゃいけないものがあって、
好きな人がまた3号機にいたら、
わたしは自分から志願してみようと思っている。
ポジション分けは一瞬で終わるから、
前もって心の準備をしておくことが大事なのだ。
好きな人が連休を取っていないかハラハラして、
いつものように靴箱を見たら、
いつものように乱雑に外靴が置いてあった。
とりあえずよかった。
しかし今日はやばい。
なんで今日のタイミー男しかいないの!!!!!なんで男ってこういうときわたしの邪魔するの!!!
しかもまた3階にクソ女がいる。
もうこれ3階に呼ばれるの絶対わたしやん…
やだやだ帰る!!!キャンセルする!!!!
昨日「明日はだめです」って言ったの伝わってる?
泣きそうになりながら休憩室で待っていた。
やっぱりクソ女が来て、
「今日3階で」と言ってきたので、
わたしはまた「今日は無理ですごめんなさい」
と言ってみた。
こわいこわいこわい!!!!!!!!!!!!!!
クソ女は別の男性タイミーに3階に行くようにお願いし、
その人にも断られて結局別の男性タイミーにお願いしていた。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!!
わたしもうこういうのやだぁぁぁぁぁ!!!!!
なんで好きな人に会いたいだけなのに、
こんな思いをして、
いろんな人に迷惑かけなきゃいけないんだわたしは!!!!!さいあく!!!!!
クソ女は断った男性タイミーと、
「みんな1階が好きなんですね」
と話しながら階段を降りていった。
わたしが前を歩いていたら、
「他の社員さんはやったことある人?とか聞いてくれますよ」と言いたかったけれど、
わたしは罪悪感から一番後ろを歩いていたので、
とても何も言えなかった。
1階に着くと、
好きな人は断った男性タイミーをシワ伸ばしのところに入れ、
わたしは2号機に行くように指示した。
シワ伸ばしだったら好きな人と一緒に作業ができる。
あとでシーツの機械を動かしたらそっちに送れるように男性タイミーを呼んだのだろうけれど、
わたしは好きな人がわたしを近くに置いてくれなかったことにショックを受けた。
わたし、そんなに目障り…???
朝からこんなに嫌な思いをして、
いろんな人に迷惑を掛けて、
身を削ってここまで来たのに、
好きな人はわたしと一緒に作業したくないらしい。
ひ、酷い男…
なんでわたしはいつもこうやって、
わたしの好意を平気で踏みにじる男ばかり好きになってしまうんだろう。
ここ10年くらいずっとこうなのだ。
もうそういう人生なんだろうか。
ちくしょう!
いつかあの男に、
「俺がこんなに好きなのに、
どうしてあいつはいつも振り向いてくれないんだ!」
と思われるくらい見返してやりたい。絶対に。
やられたことはやり返してやりたい。
なんでわたしばっかりこんな嫌な思いばかりしなきゃいけないの!!!
添乗員時代は、
毎日客や同僚から悪口を浴びていたから、
普通は面と向かって人に言わないよねって言葉を毎日浴びせられていたから、
わたしは他人に冷たくすることができた。
あの頃は自分を守ることで精一杯で、
他人の気持ちなんてどうでもよくて、
本当に何とも思わなかった。
でも今のわたしは違う。
どこに行ってもいろんな人達に優しくしてもらえて、
「大丈夫ですか?」って声を掛けてもらえて、
「ありがとうございました」ってお礼まで言ってもらえる世界にいる。
わたしは毎日そういう環境で働いている。
やっと手に入れたあたたかい世界で、
優しい人の頼みを断るのが本当に辛い。
わたしは本当は3階に送られたっていい。
行ったら行ったで仕事はきちんと教えてもらえるし、
慣れてはいないけどできないわけじゃない。
でもわたしはせっかく来たなら、
好きな人のために自分の力を使いたい。
どうせ働くなら好きな人の力になりたいと思うことはいけないことなんだろうか。
この工場に来始めてから、
一昨年の夏は好意(下心?)丸出しで、
仕事中に延々と話しかけてくる男性タイミーをかわすのに心底疲弊して、
一昨年の秋からは、
恐怖のハイタッチ男に会ってしまう度に、
わたしの名前を呼んで話しかけてくる彼を見ないようにして震えながら帰り、
今は年下の女の子の頼み事をはっきりと断らないと好きな人に会えなくて、
わたしのメンタルはガッツリ削られている。
つらい。
せっかく優しい世界に来れたのだから、
わたしだって「いいですよ〜」と受け入れて、
どこに行っても何でもできちゃう、
いつも笑っている感じの良いお姉さんでいたい。
わたしは昔から八方美人なので、
なんでもハイハイ言って笑っているほうが楽なのだ。
でもここに来ていると、
まるでわたしに断る練習をさせるかのように、
次々と試練が降りかかってくる。
好きな人は、
わたしをこうやって鍛えるための存在なんだろうか。
わたしもう本当に辛いのでやめてください。
ひたすら2号機で作業しながら、
好きな人をチラ見する。
いつもはパートさん達がしている作業を、
今日は彼が手伝っていて、
両側からシワを伸ばす作業なのに、
明らかに人が足りていない。
後ろにはシワ伸ばしが終わっていないものが、
まだまだあるように見える。
タイミーをもっと取ればよかったのに、
予算が足りないのか、
後から余ってしまうから要らないのかわからない。
もしわたしが分裂できたら2号機もやって、
好きな人の反対側からシワも伸ばしてあげて、
後ろでシワ伸ばしだってやってあげたい。
だって大変でしょ?
きっと終わらないと帰れないんでしょ?
好きな人が1分でも早く家に帰って休めるなら、
わたしはサービス残業くらいしてあげてもいいけれど、
タイミーにそんなことをさせたら、
かえって問題になってしまいそうだ。
でもわたしの好きな人は大丈夫なんだろうか。心配。
わたしがいる2号機だって、
多動のおばちゃんが外国人に仕事を教えていて、
この工場はマジでカオスだなと思った。
好きな人は休憩時間になっても、
機械がエラーになる度に走り回っている。
わたしは彼に5号機に行くように言われて、
お昼はこちらに来たけれど、
絡まったままのシーツを入れてエラーになると、
好きな人が毎回遠くから走ってくるからかわいそうで見ていられなくて、
エラーになりそうなシーツは機械に巻き込まれる前に引っ張り出すようにした。
それでも取るのが間に合わずに機械が鳴ると、
彼は走ってやってきて、
外国人の男の子とシーツを持って笑っていた。
わたしは彼の笑顔に思わず見とれて、
切り替える前に次のシーツを入れてしまって、
隣にいた男の人達が取ってくれた。
わたしは彼が突然近くに来るとこうやってミスる。
わたしは怠け者だから、
何もしなくていいホテルが大好きだ。
本当はお正月休みだって、
ホテル暮らしをしながら毎日お惣菜を買って食べて、タイミーをやっていたい。
部屋も食事も仕事も全部使い捨ての、
洗濯も掃除も洗い物もしなくていい世界にいたい。
でもわたしがぐうたらできる世界は、
好きな人がお昼を食べる時間もなく働かされて作られるものなんだろうか。
わたしはたまに彼を見ているのが辛くなってしまう。
大変そうな彼を見ているのも辛いけど、
好きな人があんなに大変そうなのに、
わたしは何にもしてあげられないのもとても辛い。
「大丈夫?」とか「お昼食べた?」とか、
一言聞ける隙すらも忙しい彼には無いのだ。
タイミーで働いていると、
いろんなことを考えさせられる。
障害者が外国人に仕事を教えるカオスな会社で、
それをまとめる立場にいるわたしの好きな人は、
お昼休憩にも入れずに真っ赤な顔で走り回っている。
今日はタイミーは20時まで募集しているから、
彼が帰れるのはおそらくその後だろう。
朝だって下手したら始発で来ているのかもしれない。
タイミーのレビューに、
「社員さんが休憩を取れているか心配になりました」って書いてみるかと一瞬思ったけれど、
そんなことを書いてる人はいないか。
しかし繁忙期だけとは言え、
あんな働き方を何年もしていたら、
身体はどうなってしまうんだろう。
わたしの世界でいちばん好きな人が、
あんなふうに働いているのを見るのは本当に辛い。
将来ああいう働き方をしなくていいように、
大人は子供に勉強しなさいと言うんだろうか。
好きな人はサイコパスおじさんと違って、
2号機に戻る声掛けだってきちんとしてくれる。
言われなくても戻るのに、
わざわざ遠い5号機まで言いに来てくれる。
パートのおばちゃん達は、
仕事のできないサイコパスおじさんを裏で呼び捨てにしていたけれど、
好きな人がそんなふうに言われているのは見たことがない。
彼は感じは悪いけれど、
仕事はできる人だから、
彼が仕切っている日はとても働きやすい。
タイミーのわたしでもわかるくらいだから、
パートさんなら尚更だろう。
終業時間になると、
好きな人はわたしに「終わり」と言ってきた。
今日は目すら合わなかった。
彼は野生のリスみたいに走り回っているから、
ペットのハムスターみたいに鈍臭いわたしとは、
生きているスピードが全然違う。
だから目なんて合うわけがないのだ。
仕事が忙しくてよそ見をする暇もない好きな人。
彼がわたしを女として見てくれる世界で出会いたかったなと思う。
お手洗いで知り合いタイミーさんに会ったので、
「社員の男の子、
休憩取ってないみたいだったけど大丈夫かな…」
と言ってみたら、
「後から取るんじゃないですか?
今休憩室にタイミーいっぱいいるし」
と全然気にならない様子だった。
やっぱりたかだかタイミーの分際で、
社員さんのお昼まで心配するのは、
変なやつなのかもしれない。
でもでもわたしの好きな人が…!
更衣室から出ると、
クソ女がわたしに、
「3階で何かありましたか?」と声を掛けてきた。
「ごめんなさい、わたし◯さんが好きなんです。」
と言ってしまいたかったけれど、
大人だから、
「いえいえ何もないですよ!
体調の問題で…ごめんなさいね」
と返した。
同じ週でも行ける日と行けない日があって、
彼女からしたら意味がわからないだろうし、
あそこはシフトもランダムだから、
人間関係だと思ったのかもしれない。
意外とそういうところはきちんとしてる会社なんだろうか。
もしかしたら恐怖のハイタッチ男のことだって、
言えばなんとかしてくれるのかもしれないと一瞬思ったけれど、
もしブロックされたら二度と好きな人に会えなくなるかと思うと、
わたしはやっぱり面倒なことは言いたくない。
八方美人のわたしが優しい人を拒否するのもかなり辛いし、
好きな人が休憩も取らずに働いているのを目の当たりにしたのもすごく辛くて、
外に出て歩いていたら涙が出てきてしまった。