アラサーは笑いながらメンタルを削る

やっぱりこの時期はメンタルに悪い。
冬の始めってどうしてこんなに気分が重くなるんだろう。
いや理由はわかっているけどさ。
このまま落ち込んだら本当にやばい気がするので、
週末出かけたらセントジョーンズワートのお茶でも買ってみよう。
あれ効果あるのかな。謎。

肉体的な疲れももちろんあって、
昨夜家に帰ってからはぐったりしていた。
正直に言うと、
わたしはチャラい男の子が他の若い女の子に優しくするのを見るのはあまりいい気分じゃない。
でもそれはわたしが彼のことを好きだからではなく、
わたしは若い男性に好きな人の姿を重ねて見てしまう変なクセがあるので、

好きな人が若い女の子に優しくしているのを見せられているみたいで辛いのだ。


彼もわたしより10歳くらい若い女の子が来たら、
あんなふうに手放さなかったりするんだろうか。
わたしより若い女の子。
女にとって自分より若い女は脅威でしかないのだ。
できれば絶滅してほしい。


朝起きても身体はダルいし今日も天気が悪い。
ついこの前まで3連休だったはずなのに、
今週はどうしてこんなに長いんだろう。
全然終わらない。ほんと平日なんて要らない。


わたしは母親にもチャラい男の子の話をして、


「誰でもいい人はいいよね、ああいう人のほうが絶対人生楽しいって!」


と愚痴る。
母親は食べ物しか興味のないおばさんなので、
こんな話をしてもまともな返事なんて返ってこない。
どうせ明日には忘れているだろう。
だからわたしは一方的に続ける。


「わたしなんて、
まち歩きのイベントは終わっちゃったし、
イケメンにも会えなくなっちゃったしさ!
あーあ、柳楽優弥みたいな人が入ってこないかな!」

と笑う。
わたしは笑いながら泣きそうになっていて、
やっぱりメンタルがやばいのが自分でもわかる。


「去年の11月も有給取ってあの工場行っててさ、
お疲れ様ですって言ったらすごい嫌な顔されたの。
わたし別になんにもしてないのにさ!
イケメンそのまま何も言わずに首だけブンブン振って去っていくんだから!
普通は挨拶したら誰でも返すでしょ?
あの人今年の夏にもそんなことあってさ、
そんな人他にいないじゃん、
どこに行ったってそんな人いなかったもん。」

とわたしはまた1人で笑う。
言い終わった後にだらだらと涙が流れてきた。
今日は本業も休みにして欲しいくらい暇だから、
わたしはひざ掛けを被ってソファーに横になりながら話していたので、
ひざ掛けとカーディガンで涙を拭いた。
なんかこのまま動けなくなりそうだ。やばい。


今から7年前の2017年の11月8日、
わたしは当時好きだったホテルマンが勤めるホテルに仕事で宿泊した。
着いてウキウキでフロントで精算をしていたら、
わたしの好きな人は突然、


「俺、今日で最後だから」



と言った。
彼から仕事を辞めるとか辞めたいなんて一度も聞いたことはなかったし、
いつ来ても人間関係も良さそうな職場だったから、
わたしは頭が真っ白になった。

もう二度と会えないってこと???
嘘でしょ?やめて!!!(パニック)


彼は奥さんも子供もいるから、
きっとずっとこのままこの温泉街で働くんだろう。
だからわたしも添乗員の仕事を続けてさえいれば、

このままずっと大好きな彼に会えるんだと信じ切っていた。


絶対に付き合えなくても、
たまにこんなふうにカッコいいお兄さんに会えれば、
結婚願望のないわたしはそれでいいと思っていた。
歳を重ねていくイケメンをこの目で見ていければ、
それだけで幸せじゃないかと本気で思っていたのだ。


ホテルの人達はみんな彼が結婚していることも、
わたしがそんな彼を好きなことも知っていたから、
わたしは彼とも周りの男性達とも安心して話せたし、

こんなカッコいい人に、

年に何回か会って話せるだけでわたしは幸せだったから、

それが続くだけでよかったのだ。



彼は定時の21時になると、
「今日はコード・ブルーがあるから!(時代)」
と言って急いで家に帰るような男だったし、
わたしはわたしで朝8時前にはバスが出発するので、
やましいことなんて、
したくてもとてもできるはずがなかった。

わたしは忙しそうな彼を見て、
「あーあ、イケメンあっち行っちゃった…」
と言うと彼に睨まれたり、 
彼は彼で他に若い女性添乗員が来たときに、
わざとわたしに聞こえるように「あー、かわいい」と言ってくるような、
それだけの関係だったけど、
好きな人がわたしの気持ちを知ってくれているだけでわたしは安心してふざけられて幸せだったのだ。

彼に最後だと言われた後、
わたしはショックのあまりフロントで大泣きして、
大変みっともない女になっていた。(省略)
部屋で戻っても涙が止まることはなく、
結局一睡もできないまま朝になり、
腫れ上がった顔に無理やり化粧をして、
何とか誤魔化して部屋を出た。
初めて好きな人のいないホテルのフロントを見て、
わたしはまた酷くショックを受けたけれど、
涙をこらえてそのまま仕事をこなした。
ホテルの売店で水を買ったら、
彼の同僚がなぜか必死に笑いをこらえていて、
わたしはどうしてなのか全くわからなかったけれど、
「あのときは笑えるくらい落ち込んでた」
と後からそいつに言われたので、
わたしは傍から見ても相当酷い状態だったんだと思う。(超わかりやすい女)


わたしはショックで食欲がなくなり、
身長162センチなのに体重が45キロまで落ちた。
毎晩枯れそうなくらい泣かないと眠れず、
お酒を飲んでも突然泣き出して潰れてお手洗いに籠もったりしてめちゃくちゃ荒れていた。


わたしはもう、
白石麻衣になっても石原さとみになっても、(時代)
好きな人には会えないのだ。



絶望だった。
年頃の女にとって、
どんな美人になっても絶対に手に入れられない好きな男なんて、
もうただの絶望でしかなかったのだ。 
自分が女である意味なんてもう無くなった気がした。
彼じゃないなら他の男なんか要らない。
このまま本当にあの人に会えなくなるんなら、
もう死んだほうがマシだと本気で思った。
わたしは昔からそういう女なのだ。


7年も前とはいえ、
そんなことがあった時期だから、
わたしはこの時期に会えなくなるとか辞めるとか、
いろいろ起こると精神的にかなりキツい。
雪が降り始めた寒い温泉街で、
年末に向けてみんな忙しそうな雰囲気を感じながら、
「景色も人もわたしも去年と何にも変わらないのに、
今年は彼だけがいないんだな、
一番消えてほしくなかった人が消えちゃったんだな、
彼はもう二度とこの街には戻って来ないんだろうな」
と1人で心の底から絶望していたあの頃のわたしが、今にも憑依してきそうで自分でも怖いのだ。


昨日わたしが運送会社で段ボールを運んでいたら、
わたしと同い年かもしれないドライバーさんが黙って手伝ってくれた。
一度だけ名前を名乗ったいつも優しいおじさんも、
昨日はわたしのことを名前で呼んでくれた。
わたしが名乗ったとき、
「次会ったらきっと忘れてますよぉ〜」
と笑ったので覚えていたんだと言っていた。
わたしに辞めると報告してくれた新人の男の子は、
わたしが「ここで一番話しやすかったのにぃ!」
と残念がると、
「そう言ってもらえてありがたいです」と言った。


7年前だって、

きっとわたしの周りにはこういう人達がいたはずだ。


でもあの頃の仕事のことで覚えているのは、
あの後またあのホテルに泊まったときに、
なんとなくクリスマスツリーの近くに座ったら、
わたしはツリーの陰にひっそりと映る心霊写真の霊みたいになっていて、
「ただ座っただけなのにこんなに根暗感出ちゃうのなんてわたしくらいだよな、生粋の根暗だもんな」
と1人で苦笑したことくらいだ。


今日も寒い中、
なんとか出勤して運送会社に着いた。
今日は天然おじさんのトラックに乗ってみたけれど、
天然おじさんは新人の男の子が辞めることは知らなかったようで驚いていた。
(なぜ先輩ではなくタイミーのわたしにわざわざ教えてくれたのかはわからない)


今日の男性タイミーはラップ巻きが劇的に下手で、
「ちょっと教えてあげてよ!」と言われたので、
「こんなにプロがいるのになんでわたしが?」
とわたしがドライバーさん達の顔を見て言うと、
「もうプロだから」と言ってくれる。


今日はすごく寒かったので、
いろんな人が寒い寒いと言いながら仕事をしていた。
わたしも一緒に「さむーい!」と言うと、
その後も何度も寒い寒いと言ってきたり、
「事務所で休んでたら?」と言ってくれたり、
みんないろんな反応をしてくれる。

タイミーで他の会社に行ったって、
一緒に寒いと言ってくれる社員さんなんてまずいない。


やっぱりここは貴重な現場なんだと思う。
わたしの好きな人も、
こうやってなんか一言でもボソッと言ってくれたら、
わたしはそれを拾うからそこから会話に繋げられるかもしれないのにと思ったけれど、
あの工場は機械音がすごすぎて、
たぶん聞き取れないんだった。かなしみ。


寒い寒いと言いながらいろんな人と笑うわたしは、
きっと端から見たら何の悩みも無さそうに見えるだろう。



好きな人に会えなくなって絶望してる女にはとても見えないはずだ。
こうして他の人と笑っているうちにいつのまにか好きな人のことを忘れられたらいいけれど、
たぶん7年前もわたしはドライバーさんやバスガイドさんと笑いながら仕事をしていたはずで、
この外面と内面のギャップがまた自分を殺していくのかもしれないと思った。