話せない好きな人はどんどん王子様化していく
昨日遊びの用事が終わって、
ホッとした途端に生理が来た。
今回は年末年始にドキドキしすぎたせいか、
生理前からずーっと体調が悪くて、
昨日の朝も一昨日もその前の日も、
なんか具合が悪いなと思っていたのだけど、
今日も痛み止めを飲んだのにお腹がずっと痛い。
今日は好きな人の工場で5時間立ちっぱなしだけど、
果たしてわたしは耐えられるのだろうか。
わたしは好き嫌いは顔にも態度にも出るくせに、
こういうときはたいてい誰にも気づいてもらえない。
(八方美人の弱み)
しかし今日は好きな人がいてもいなくても、
途中でお手洗いに行かせてもらわないと、
間違いなく痛み止めが切れてしまう。
しんどい。
もし彼がいなかったら本当に帰りたい。
行くだけ行って途中で早退させてもらうとか?
早退でもタイミーはペナルティとかあるのかな?
でも顔も名前もいろんな人にバレているわたしがそんなことをしたら、
次回から来づらくなってしまわないだろうか。
ブロックされたら終わりだし。
悩むより働いてしまったほうが早いような気がして、
わたしは39度の熱があった日も、
外でティッシュ配りをしていた。
バイト前に服や化粧品が見たいから、
早めに支度していたのに、
お腹は痛いしお手洗いにも時間を取られてしまって、
結局ギリギリになってしまった。
それでも15分で何とか見てきて、
来週末の遠征に向けて買ってしまおうか悩むけれど、
バイトばかりしているせいか、
家にあるスカートもほとんど穿けていないので、
やっぱりわざわざ買わなくても、
ある服で行けば良いような気がしてしまう。
「もしデートできる相手がいたら、
わたしは大学生の頃のように、
服ばかり買っていただろうな」
といつも思う。
デートなんてもう12年していないけれど。
電車の中ではお腹痛いしか考えられなかったけど、
少しお店を歩いたら気が散った。
大丈夫。今日もいける。
わたしは献血中に失神したことがあるので、
あのときのように気持ちが悪くなってきて、
耳が遠くなってきて、
目の前が白っぽくなってきたら、
その場でしゃがめば良いのだ。
早めにしゃがめば意識までは無くならないはず。
失神したときは意識が無かったので、
わたしは看護師さんに肩を叩かれた記憶が全くない。
名前を呼ばれて気がついたのだ。
もしあんな姿を好きな人に見られたら、
わたしはもうあの工場には行けない。
大丈夫。
今までだって、
生理だけで貧血を起こしたことはないのだ。
だから大丈夫。(言い聞かせている)
今日は打率の悪い日曜日だから、
好きな人は休みかもしれないと覚悟していたけれど、
過去のカレンダーを見ると、
好きな人が土日どちらも出勤していた週の次の日曜日は、
彼が出勤していたことが2回もあった。
てことは先週の土日はいたから、
今日も彼はいるかもしれない!!!
好きな人にシフトを聞くことができないため、
わたしはこうやって過去の経験から予想をしていくしかない。
もしこの法則が成り立てば、
これからわたしは作戦が立てやすくなるかもしれない。
計算計算計算!
わたしにできるのは計算と予想と行動なのだ。
でもお腹が痛くてそれどころじゃねぇよと思いながら階段を上り、
好きな人の靴箱を見ると、
黒い外靴があった。
いる!!!!!!!!
遠征前にありがたく拝ませていただきやす。
午後は朝よりも人数が多いし、
今日はみんな1階だったので、
無事に好きな人のところに行けた。
彼は今日も紺のジャージを着ている。
わたしの上靴は2〜3センチかかとがあるせいか、
彼はやっぱりわたしより下にいる気がする。
好きな人はタイミーの顔ぶれを見て、
男性はシーツのほうに、
女性はピローに分け、
わたし1人だけ2号機に送られた。わーい。
あの人絶対わたしを「2号機に送る人」だと思ってるよな…
作業しながらそんなことを考えていた。
2号機は彼から近いからチラ見には良いけれど、
安定しているしパートさんがたくさんいるので、
ここに送られたら彼と話すことはまずない。
しかも今日は機械の調子が悪いのか、
今までにないくらい強い力でピローが引っ張られて、
ちょっと作業がしづらい。
これシワになってないのかなとハラハラしながら作業していたら、
珍しく主任がこちらにやってきた。
その後に彼が1度後ろに来たような気がして、
わたしは振り返った。
好きな人はいつも足音がしないので、
突然話しかけられるとわたしは本当にビビる。
それを避けるためには、
わたしが先に気づいてあげるしかないのだ。
やっぱり彼はわたしを見ていて、
目が合うと視線と口元だけで1号機に行くように言われた。
あんな失礼な指示の出し方をする人は、
他社でもここでも他に見たことがないけれど、
彼はいつものことなのでわたしは1号機に行った。
まだ休憩には早いのにどうしたんだろう。
1号機に行くと、
わたしと年配のタイミーが交代になったようで、
年配のタイミーが2号機に入った。
たぶんナプキンの縫い目が見えなかったのだ。
わたしは納得して安心したけれど、
しばらくしてから、
「いやもしかしてわたしが入れたピローがしわくちゃだったのかもしれない」
と思うとハラハラしてきた。
どっちなんだろう。
いや絶対誰も教えてくれないけど。こえええええ。
休憩のときは5号機に入るよう好きな人に言われた。
彼からヘルメットを受け取って5号機に入ると、
彼は15分になったら1号機に戻ってと言いに来た。
やっぱりサイコパスおじさんよりわかりやすい。
15分になって交代する人が来る前に戻って良いのかわからなかったけど、
とりあえず言われた通りに動かないとできないやつだと思われてしまうと思って、
パートさんに抜けますと言って抜けようとすると、
好きな人の背中が見えた。
たぶんわたしが来るのが遅かったから、
声を掛けに来たのだ。
好きな人は忙しいのにこんな遠くまで来させてしまって申し訳なくなって、
次回からはチャイムがなったらすぐに戻ろうと思った。
よく見ると他のタイミーも呼ばれていて、
やっぱりみんなタイミングわかんないよねと思った。
その後は終わるまでずっと1号機にいた。
好きな人はいつの間にかTシャツ姿になっていて、
また袖を肩までまくっているから暑いんだろう。
わたしはニットを着ていても寒いくらいなんだけどな。
よく「美人は3日で飽きる」と言うけれど、
わたしは毎週末ここに来て好きな人に会っても、
一向に慣れることがない。
今日も1週間ぶりなのでとても緊張している。
これがもう1年7ヶ月続いていて、
年末年始に9連勤してそのうち7日も彼に会えたのに、
わたしはその後も1週間空ければまた、
吐きそうなくらい緊張している。
わたし本当はイケメン苦手なんじゃないかな。
なんか今日は緊張するから無理。
とても名前なんか呼べない。
わたしはあの人に慣れることなんか、
この先も絶対にないような気がする。
今日だって彼が17時で帰ってしまわないか、
わたしは本気でハラハラしているのだ。
途中わたしの苦手なギャルおばさんが隣に来て、
わたしに話しかけてきた。
他のタイミーの動きに不満があるらしく、
「あの人来たことある人かな?」
とわたしに聞いてきて、
やっぱり注意しに行っていた。
ついでにタイミーの話をしていたら、
「やる気のない人は要らないからさ」
とばっさり言っていて、
やっぱりこの人は怖いなと思う。
それでもよく喋る彼女は、
さっき交代させられたのは、
やっぱり年配タイミーが縫い目が見えてないから、
隣の若い人と代えてと社員に言ったらしい。
まさか理由がわかると思わなかったので驚いた。
「わたしってここではやっぱり若い人なのか」
ここは力仕事がないせいかおばさんが多いから、
やっぱりわたしは浮いているのかもしれない。
ギャルおばさんはタイミーでも覚えている人と覚えていない人がいるらしく、
わたしの目を見て、
「かわいいってイメージしかない」と言ってきた。
そうかここにいるときのわたしはかわいいのか。
それならよかった。
できれば好きな人にもそう思われていて欲しい。切実に。
ギャルおばさんとちょっと話せたついでに、
わたしは他社で受け取りをしている話をした。
彼女はわたしの好きな人ともよく喋っているし、
わたしのことも覚えているから、
「あの若いタイミー受け取りやってるって言ってた」なんて好きな人に言っておいてくれないかな。できればわたしのことを、
「あのかわいい子」と彼に言ってくれれば、
わたし的には1000点くらい差し上げたい。
わたしはこうやっていつも、
咲くかどうかわからない種をとりあえず蒔いておく。
今はまだただの土で見向きもされなくても、
芽が出てきていつか大きな花が咲いたら、
好きな人が見てくれるかもしれないから。
焦るな。
わたしは種を蒔く人なのだ。
好きな人は17時になっても帰らず、
わたしの隣にいた外国人のおとなしい女の子に、
珍しく笑って話しかけ、
「たぶん20時までだからさ、休憩入っていいよ」
と言った。
女の子は黙って休憩に入った。
今ので彼のことを好きにならないのかなと、
わたしはついハラハラしてしまう。
外国人研修生がこの工場に来たばかりの頃、
機械がエラーになって、
好きな人が外国人に呼ばれたとき、
彼は嫌そうと言うか、
すごい人見知り感を出して陰キャ全開だったけれど、
最近彼は外国人の女の子達と話すとき、
大体ニヤニヤしている。
外国人の女の子達はおそらくまだ10代で、
肌こそ黒いけれど、
みんな絵画みたいに綺麗な顔をしている。
人種は違えど、
生物学的にはやっぱり一番美しい年頃なんだなとわかる。
普通に日本語も話せるし愛嬌もあるし、
やっぱり彼もかわいいと思うのかもしれない。
わたしのほうが彼女達がここに来る前から彼を知っているけれど、
やっぱり毎日会える人には敵わないなと思う。
好きな人がメモを書いていた。
そのままそれを持ってこちらに来た。
たぶん上がる時間や休憩の時間を書いているのだ。
わたしは好きな人がどんな文字を書くのか、
いつも気になって気になって仕方がないけれど、
なかなか見ることができない。
今日こそ見るぞと思って、
後ろを通る彼をチラチラと見る。
彼がメモをこちらに向けて話していた。チャンスだ。
…え?
ちっさくて全然見えねえ。
わたしまだ老眼じゃないよ。
わたしが同じメモ帳とペンを渡されたら、
3倍くらいのサイズで書くだろう。
なんであんなちっちゃい字なんだ?
誰かに渡すとか?
でもあんな新聞みたいな文字じゃあ、
ここのおじさんやおばさん達には、
きっと見えないと文句を言うだろう。
彼の字の感じとかが見たかったのに、
あれじゃどう頑張っても見える気がしない。
難易度が高すぎる。あの人ほんと突然とんでもない陰キャ感放つときあるよな。
上がるとき、
タイミーはわたしを含めて3人いたけれど、
彼はわたしに「やめるわ」と言ってきた。
5号機に送られたときもだけど、
たぶんわたしが一番見慣れているタイミーだからだろうなと思った。
機械を止める彼に挨拶して帰れそうだったけれど、
無視されそうな気もしてわたしは行けなかった。
彼はあっという間に機械を止めて、
またどこかに行ってしまった。
好きな人が17時で帰ったら、
わたしはお手洗いに行こうと思っていたけれど、
彼はずっといたから結局お手洗いには行けなかった。
3階に上がると、
なぜかぶっきらぼうおばさんがわたしを見てニヤニヤしていた。
「なんでニヤニヤしてるんですかー!」
とわたしが笑って絡むと、
「いやー、〇〇さんいたなぁと思って」
と言ってまたニヤニヤしていた。
この社員さんとこうやって話せるようになったのも、
ここ最近のことだ。
好きな人ともこうなるにはあと何年かかるんだろう。
1月は11回来て9回好きな人に会えた。
確率にすると81%だ。
上限のことを考えると、
おそらく今月が今年最多になるだろう。
「来月来たときも好きな人に会えますように」
と思いながら、
わたしは大好きなイケメンタウンを後にした。