受容性検証からプロジェクトを前進させるユーザビリティテストの進め方
本記事は「グッドパッチ式UXデザイナーの実践知」という連載の第3弾です。
こんにちは!グッドパッチでインターンをしている生島と申します。現在は内定者インターンとしてクライアントワークや社内勉強会、情報発信に携わっています。
先日社内で行われた「ユーザビリティテスト」に関する勉強会に参加してきました。今回の記事ではその勉強会の中で得られた学びを2つの事例と一緒にお話ししようと思います。
※適切な秘密保持契約を結んで厳密な情報管理のもと情報共有を行なっています。
皆さんはユーザビリティに関してどれくらい理解していますか?
ユーザビリティとはユーザーにとっての使いやすさを示す指標の1つで、サービスやプロダクトをデザインする上で欠かせない要素です。サービス提供者は自身のサービスのユーザビリティについての正確な評価を理解しておく必要がありますが、提供者と消費者ではプロダクトに対する理解度や評価基準も異なり、自分たちだけで評価することは難しいのが実情です。
そこでUXデザイナーは「ユーザビリティテスト」と呼ばれるプロトタイプを用いた検証を行います。どのくらい使いやすいのか、ユーザビリティ上の問題はないか、改善できる部分はないのかなど、さまざまな工夫を凝らしてユーザビリティ向上のための手がかりを集めるのです。
今回は実際のプロジェクトで実施されたユーザビリティテストの事例をもとに、使いやすさの確度の上げ方についてご紹介します。
<こんな方におすすめ>
企業内で既存のデジタルプロダクトを改善しようとしている方
プロダクトの初期段階で市場投入を控えているが、その前にユーザビリティを担保したい方
多様なステークホルダーで成るプロダクトチームの中で共通の改善指針が欲しい方
「UXデザイナーの実践知」過去の記事はこちらから!
ユーザビリティテストとは
ユーザビリティテストとは、ユーザーにそのユーザーが達成しなくてはならないタスクを提示し、実際にサービスを使ってもらう過程や結果を分析しながら、ユーザビリティ上の問題点を発見・測定する手法です。
検証する項目はさまざまですが、一例として有効さ(ユーザーのタスクを正確に、完全に達成することができたか?)、効率(ユーザーはより効率よくゴールを達成できたか?)、満足度(プロダクト・サービスはユーザーの期待に答えられたか?ユーザーは満足できたか?)などが挙げられます。
ケース①:ステークホルダーにもデザインを納得いただくためのユーザビリティテスト
最初に紹介されたのは、外部開発に依頼していたシステム開発を内製化するにあたって、デザイン面での支援を実施したプロジェクトのケースです。
加えて、クライアントがデザインプロセスにまだなじみがなかったことや、デザイナーの視点も据えて今後自走できるようになってもらいたいという期待から、納得感を持ちやすい定量的な根拠と一緒にデザインを提案することにしました。そこでそのデザインの根拠となるユーザーの声を集めるため、ユーザビリティテストを実施したと言います。
このプロジェクトでは「ユーザーの体験に関する課題特定と改善」を目的に、2回のユーザビリティテストを実施しました。当検証では「ユーザビリティ」「タスク達成率」「タスク達成時間」の3観点からアンケートを作成し、ユーザーに各観点の点数とその点数をつけた理由を回答していただきました。その上で更にインタビューを行うことで、定量と定性の両観点からユーザビリティに関する評価を得ることができました。
この事例では、結果として好意的な反応が多く見られ、狙いであった1回目の検証結果を基にした改善が正しく達成されていることが分かりました。デザインが改善されたことを示す定量的な結果も添えて、デザインプロセスやUIの設計方針に関する資料を作成することで、UXになじみのない人でも納得しやすい資料を作ることができます。
このプロセスによるメリット
ユーザビリティテストは、直感的に判断しがちなユーザビリティに対して定性・定量的な評価を行うことができます。得られたデータはデザインの明確な根拠という形でUI/UXの改善に繋げられるだけでなく、クライアントや直接の関わりがない方々へ向けた説明の際にも大きな助けとなってくれます。
プロジェクト②:フィジカル的認識の考慮が必要な複雑な体験の確度を上げるプロトタイプ検証
2つ目の事例は、アナログ、つまりハードウェアが絡むユーザビリティテストです。これはスマートフォンアプリに関するプロジェクトで、アプリと接続するハードウェアが刷新されることがテスト実施の契機となりました。
新旧のハードウェアでは、スマートフォンとの接続方式や一部の機能が異なるものの、ユーザーにはどちらか1つしか手に入れられません。そこで、移行期間の措置としてユーザー自身がスマートフォンアプリ内で、自分がどちらのハードウェアを使っているのか選択してもらった上で使う形になりました。
アプリケーション内にハードウェアの選択画面を作成したものの、想定通り使ってもらえるかは分かりません。そこでユーザビリティテストを実施する運びとなりました。
ユーザビリティテストは、実際のハードウェアの使用シーンを模した状況をつくり実施されました。Figmaで作成したUIプロトタイプに加えて、実機の一部を紙に印刷して貼り付けたり、ユーザーが正しい操作をしたときに正しい操作をしたことを知らせる音(例えばボタンを押したことに対して正解音を返すなど)を準備するなど、さまざまな工夫がされました。
しかしテストの結果、選択画面を見たユーザーが「どちらかを自由に選んでよい」と勘違いしてしまい、自分が所持しているスマートフォンに対応したハードウェアを選ぶのではなく、自分が使いたいハードウェアを選択してしまうという誤操作が頻発。検証したかった要素とはまた別の落とし穴が見つかりました。
この結果から分かったのは、「ユーザーはハードウェアの種類(違い)や自身の持つスマートフォンの機能について、興味関心が高いわけではない」ということ。そこでハードウェアの差を理解しやすくするため、アプリ内の選択画面では機能の差ではなく、形や色といった視覚情報を全面に押し出して両者の違いを表現することにし、課題は改善されたそうです。
このプロセスによるメリット
サービスの開発において、関係者であればあるほどサービスと触れている時間が長くなり、自然とそのサービスに対するリテラシーが高まってしまい、一般的なユーザーの認識を見誤ってしまったり、引っかかってしまう障壁を見落としたりします。ユーザビリティテストでは、想定されるユーザーに近い人に参加してもらうことで、体験性のフィードバックが得られるだけでなく、関係者であるほど見落としがちなミスを未然に防ぐことができるでしょう。
テストの精度を高めるtips
このように、サービスやプロダクトをデザインする際にユーザビリティテストを行うことで現状の使いやすさを評価したり、より使いやすいものをデザインするための手がかりを得ることができます。ユーザビリティテストはさまざまな形態のサービス・プロダクトに対して実施できることから、方法は多岐にわたりますが、ユーザビリティテストの精度を高めるtipsがあります。
複数回の実施
ユーザビリティは1人の人間を対象に考慮しても、その人の極めて個人的な評価しか得られず、客観的なデータとしての根拠としては弱いものになってしまいます。
ユーザビリティテストは「5人に対して実施することで、3人に1人が影響を受けるユーザビリティ上の問題の85%が見つかる」と言われています、つまり一般的なユーザーが受ける可能性の高い問題は洗い出すことができるということです。
ユーザビリティテストを実施する場合には、検証シーンやペルソナを考慮した上で5人を目安に実施するよう心がけましょう。また、公共サービスのようなエクストリームユーザーも考慮する必要があるような場合には、デジタルリテラシーやドメイン理解の低い人を対象者に含めることが有効とも考えられています。
加えて、開発初期からペーパープロトタイプを用いた反復的なテスト、ユーザビリティガイドラインを用いたヒューリスティック評価を行うことも重要とされています。
検証の公平性
例えばUIの異なるデジタルサービスAとデジタルサービスBのユーザビリティについて比較を行いたいとします。この場合AとBはUIこそ異なりますが、根本的なサービスの機能は同じであるため、参加者は「2個目のサービスを体験するときには、1個目のサービスを使用する前よりこのサービスに慣れてしまっている」ことになります。そのため参加者全員にA→Bの順序で体験してもらった場合、Bの方がユーザビリティが高く評価される可能性があります。
検証時にはこういったバイアスがかからないように、参加者を2グループに分け、検証順序を異なるものにする(A→BグループとB→Aグループに分ける)といった工夫が必要になります。
状況の再現性
プロジェクト②を振り返ってみましょう。プロジェクト②では検証時に「ユーザーが正しい操作をした際には正しい操作をしたことを知らせる音を返す」工夫をしていました。
もしこの音がなければ、ユーザーは操作を間違えたのだと認識して、本来とは異なるアクションをとっていたかもしれません。これではユーザビリティテストが正しく行われているとはいえません。駅のホームや役所など、そのサービスやプロダクトが使われるシーンを適切に再現することで、実際の使用シーンでユーザーがどのようなユーザービリティ上の困難に遭遇するのかを検証できます。
さいごに
以上、2つのプロジェクト事例をもとにしたユーザビリティテストの紹介でした。ユーザビリティテストはさまざまな工夫を凝らすことで多種多様なサービス・プロダクトのユーザビリティ改善に繋げることができます。
グッドパッチには、こうしたユーザビリティテストを通したUI/UX改善以外にも様々なナレッジがあります。サービス・プロダクトの新規開発やグロースに少しでもお悩みがある方はぜひご相談ください。