小6の事件
昔、地域のスポ小で野球をやっていたとき、こんな事件があった。
練習が終わり、いつも通りボールを片付けていた。ボールをかごに入れ、それを自分より二つ小さい子が、体育館に併設する倉庫に持っていく。倉庫の近くまで来たところで、近くにいたある親がかごからボールを一つ取って体育館の裏の方へ投げた。そして、ボールを運んでいた子に向かって「取ってこい」と言った。なぜそんなことをしたかわからない。でもしたのだ。言われた子は何が起こったかわからないといった具合で呆然としていた。近くにいたぼくも最初何が起こったかわからなかった。でも、すぐに違った感情が襲ってきた。「許せない」といった感情だ。
ぼくはその人の前に進んで、「お前が取ってこい」と言った。小学6年の少年が、40近くの大人に対して、そう言ったのだ。ぼくは言ったそばから、やっちゃいけないことをやってしまったと思って、顔が紅潮し、恥ずかしくなって、後悔した。そのあと、どうなったかは覚えていない。ボールは誰に拾われたのか、どう片付けられたのか。
父親の顔は常に浮かんでいた。あぁ怒られる。恐怖でしかなかった。父は間違いなく練習現場に来てたはずなので、その出来事は現場で知ったはずなんだけど、その場では不思議と何も言われることはなかった。もしかしたら、知られずにやり通せるとも期待した。
でも、自分が自転車で帰っている間というのは、家で怒られることしか頭になかった。家に着いて、家族みんなで夕食を食べる。みんな無言だった。子どもながらにこの空気を作り出しているのは自分だと察した。食べ終わって、自分の部屋がある二階に向かおうとしたとき、ついに「こっちに来い」と呼ばれた。
部屋に二人きりになり、父は「何があったんだ」と聞いて、ぼくが悔しさでなかなか言い出せないでいると、父はこうだったんだろとぼくの行動と気持ちを代弁してくれた。ぼくが「うん」とうなづくと「分かった」と言って、それだけだった。父は部屋を出ていった。ぼくはただ膝を抱えて泣いた。
後日、親に促されその人に謝りにいったとき、「いや、俺が悪かったんだ」とその人は言った。そこでも、なぜかうわっと涙が溢れてきて、バレるといやだから頭を下げたままでいると、「練習やろうか」と言って、そのまま背中を押して校庭の方に促してくれた。ぼくはその人のやさしさに感謝している。
ぼくはこの一件を、ことあるごとに思い出す。ぼくは愚かだったが、本当に間違っていたのかは自信がない。反省が足りないと言われたら、そのとおりかもしれない。そうして、同じことを繰り返して損ばかりしている。