7.補助輪を外す

補助輪が外れた瞬間は、今でも覚えている。
親父が知らない内に外していて、漕いでる途中に気づいた。
なくても漕げるやん!
いつも歩いてる商店街が宇宙になった気がして、グルグル走り回る。
「気をつけるんよ!」と母の声が背中に響く。

初めて、バンドで音を鳴らした瞬間も、綺麗に覚えている。
先輩と組んだバンド、何故だかアジカンのリードギターをやっていた。
家で練習してきたジャカジャーン!をドラムに合わせて一斉にやる。
その時、笑みが堪えきれなくて、同じく初心者だったベースの奴のことを見たんだ。
彼は、指板を必死に見ていたけど。

初めての酒も、初めてのセックスも、初めての運転も、そんなに覚えていない。
初めての絵、初めての文章、初めての歌、いつだったかすら分からない。
それでも覚えているんだから、
自転車とバンドは自分にとって意味があるもんなんだろう。

コロナ禍で、家に居続けて、本当に頭がどうにかなりそうな時、
もうダメだと外に飛び出し、
真夜中久しぶりに乗った自転車は、心から気持ちよかった。
空に手が届きそうだった。

そういや、喉の手術明けに久々に入ったスタジオも気持ちよかったな。
どうしようもなく笑えてしょうがなかった。
未だに、補助輪を何度も外すことができて、
そこら辺は、いい人生を送ってると思う。

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