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第六回笹井宏之賞応募作「GEZAN」

第六回笹井宏之賞応募作品「GEZAN」
8月の猛暑の中、短歌を作ると意気込んで入った喫茶店で、ただタバコの煙を吐き出すだけの日々。それでも「この夏に作らなきゃいけない短歌がある」という謎の創作意欲と若干の脅迫観念によってなんとか完成までは漕ぎ着けることができました。
まぁ、あの夏の”しけもく”みたいなものですが、ぜひ読んでいってください。

連作のテーマでもある”来た道から下山するとは限らない”をイメージして、宣伝用に作成した画像


「GEZAN」

追憶の底から続く山道に春の植生、初夏の植生

米を研ぐ操作を終えて出ていった背をさする音だけを残して

死ねぇーって叫んだ後に学校をサボった日に食うカップラーメン

弁当はいつも残した固まった白さをどうにも飲み込めなくって

海よりも山がいい仲直りするために海へ行こうと言うから

遡上するマウンテンピーク 間違いを反芻するのに何を祈るの?

いい人の特徴は何?ボランティア、ゴミをゴミだと認識する人

勘ぐって勘繰ってなお割を食う ピーマンが嫌いなふりする

食べかけのパンや言葉、飲み込んでつまるところ私は一人です

解体を告げるばかりの看板の陰でくつろぐ青猫の腹

あえて見落とし聞き逃し収斂した街の行かずに潰れたカレー屋

政治家達のフロントライン誰とでも寝る家の穴やら突起やら

潮騒の光の粒が燦々と漆喰壁に注ぐ蜂蜜

When I was 16爪を噛み凹凸を均す世界に慣らす

愛なぞるカーブミラーに電柱が4本写って車を止める

手招いて悪魔のように笑うからくるいくるってくるいくるった

3分の未来を確約するためのレンジで半熟卵を作る

安寧の泥濘で汚れた足裏で踏んだ白樺泥を解いた

上履きを隠されたわけではないが裸足で向かうルーフトップまで

法律は知らないけれど嫌われない程度に暮らすおててにささくれ

キッチンのトルコキキョウは枯れ始めlong-distance-call臨月

慣れてきたホームアローン閉じ込めてもらっていたから自由に飛べた

シャツにコーヒーをこぼした取り返しつかない事はたくさんしてきた

花柄のシャツを洗濯してできたジャスミンティーに溶解する修羅

生活の素描はやがて歌になり白いシーツも雪原になる

プラチナに弾けるコーンの高揚掴んで晴れて幕開けの映画

春菊のパスタをフォークで巻きとってカレンダーは8へと向かう

近似した口調や仕草笑い方 わたしがわたしたちであること

浴槽で鱗が剥がれ身体から発光してる剥き出す肋

思い出す度に忘れる顔があり記憶を辿る超ソリッドに

国道の表面積じゃ飽和するタイヤの跡は営みの数

頂に着いた時には何もかも終わる気がして言葉を吐いた

頂で言った言葉を間違えて謝るために下山を始めた

変わらないように振る舞い嘘をつく 造花は枯れるそうだ。嘘だ。

さようなら明日は今日の続きではないから今日は今日でもないな

南下する新幹線のすごい速さ今のわたしのすごい速さ

銀河へと螺旋していく階段のキャップを外しyouth雨の間

強欲に残りのギガを食う鳥が音楽家の死を運ぶ途上

戯れあって飲むジェネリックコカコーラ10年後に買う粉ミルク

カップルがお笑いの話、いつだって女の方がセンスが良い

喋らない時間の方が永くなり幸せの街中華を食べる

実家では貧困話どんどんとタバコは短く暗くなる

I remember u all草いきれコンクリートに重なる陽炎

下り道slurしていく生活はfast life?噛み付く短針

目玉焼き自分のために作ったが意外と上手に焼けたよ褒めて

怒ってる怒ってるんだよ何にって忘れることだよ世界のかたちを

全ての名詞に名をつけ直すなら、銃弾はマシュマロ、死はん

老夫婦芝生の砂丘で夢でしか会えない人の砂をほろった

早朝に山頂目指す山岳隊 ジジイになってもマック行こうな

「帰ろうか」これさえあればと手書き地図広げて北を指して笑った



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