30歳、隠居生活 その24 おまけ、坊主頭
家計を見直し始めた頃のことである。手前で作った家計簿を見ていると、床屋代が妙に気になった。
私は大体、2ヶ月に一度、町の2000円の床屋に行っていたので、年に6回とすると12000円の出費となっていた。
高々12000円程度のことと思えばそれまでだが、これをスシ算に直すと12回分である。
スシ算というのは、私が勝手に名付けた数え方で、回転寿司に行って存分に寿司を食えば大体1000円でお釣りがくる。
私は寿司が大好きで、いつでも大歓迎であったので、1000円はこの寿司の満足を買える金と見立てたのだ。
スシ算で12回は年に12回、月に1度は寿司で豪遊できる大金である。
これは、床屋で髪を整えるよりかは大事であると考えた。
元より、髪型に一切の執着もないので、仕事に出る時に寝癖だけ出さねば良いという程度のものだった。
伸びてきたら床屋に行くという、子供の頃からの習慣をただただ続けてしまっていたもので、
これは見直しが必要だ、と本腰を上げることにした。
自分で切ることも考えたが、どうにも面倒くさい。そこで思い当たったのが坊主頭である。
バリカンさえあれば、あとは技術に寄らずに全く同じ髪型に簡単に揃えられるし、奇抜でなく清潔感さえある。
私は早速、バリカンを用意して坊主頭にしてみた。
始めはやはり恐る恐ると言った体で、短くし過ぎるのも抵抗あり、7mmなど半端な長さにしていた。
しかし、2度目にして半端な長さでは満足いかずに、アタッチメント付き限界の2mm、
そして3度目にはアタッチメントも不要と、バリカン自体の限界の1mmまで剃り込み、見事な坊主が完成したのだった。
頭は軽く、さっぱりしていて、自分で触るとなんとも不思議な感触があり気持ちがいい。
更には、風呂を上がってもすぐに乾き邪魔がない。私はすっかりこの髪型が気に入ってしまった。
鏡など見て、うむ、男前だな、などと一人で言い出す始末である。
大学時代の友人からも、あまりにしっくりと来すぎており、大学の頃から坊主頭だったように感じるとまで言われる始末。
私はバリカンにて、友人の思い出まで剃り込んでしまっていたようだった。
普段は作務衣姿でいるので、これに坊主頭は確かにしっくりと来すぎている。
週一で税理士事務所へ出社をしたのは、坊主頭に剃り込んでから後である。
私を見知った所長も、この日はやや気難しい顔をしていたようだが、私の頭には堪らず笑いが漏れていた。
雇い主を笑顔にさせたとあっては、これ以上の仕事はなかろう。
その他所員からも、まるで本当のお坊さんのようだ、似合ってるなどと言われて随分からかわれた。
中々インパクトがあったようだ。
また、坊主にしたことで他にも良いことがあった。
母親からは身だしなみを整えるように散々言われても、髭剃りなど億劫がっていた私だが、頭を剃るようになってからは、
髭など半端に伸びていると気になってしょうがなく、朝一で剃るほどとなったのである。
さぱっとするとやはり気持ちが良く、面倒どころか楽しくなるほどであった。
唯一困ったことは、坊主になると髪の毛が伸びるのがあまりに早く、
1週間も経つと早く剃らねばどうにも落ち着きが悪くなってしまう点くらいのものである。
頭の刈入れは毎週の週間となった。
もっと早く坊主頭の利便性に気付いていればと悔やまれたくらいである。
こうして、5000円程度のバリカン1台で、年間費用の12000円を削減し、
同時に寝癖の撃退までできたのである。全く、問題の裏には解決があるのであった。
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