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それでもシンデレラは


1.-主人公-


慎ましく生きるシンデレラは、
王子様や貴族たちとパーティに行くような、華やかな世界など噂話でしか聞いたことがなかった。

テレビもスマホもないこの絶対王政の時代のフランスに、そんな世界を映像として想像しうるはずもなかった。

強欲な義姉とも違い、心優しいシンデレラは
その招待状に、好奇心こそ"そそられる"ものの、何とも形容し難い”怖さ”も感じていた。

仮にいきなり、一国のトップのいる場に投げ出されたならば
それを、真剣に考えたならば、一体どれだけの人が躊躇なく足を踏み出せるだろうか。

「確かに素敵で、魅力的だけれど、身分も何もかも違うし、どんな場所かもわからない。何を着ていいかもわからない…。正直、怖いの…。
私は、そんな喜劇の主人公のような強い心の持ち主ではないの。
 チャンスがあったら、なんでも飛び込めるような強い人じゃないの。行きたいけど...。勇気が出なくて....。」

これには魔法使いも呆れかえってしまい、義姉と継母だけが、舞踏会へ行くことになってしまった。
「私は、行かないわ…。」


2.-舞踏会は-



シンデレラのいない舞踏会では、義姉は貴族の幹部と、継母は有名な騎士と、無事結ばれたのだった。

程なくして、皆それぞれの屋敷に移り住むことになり、シンデレラは大きな屋敷に一人残ったのだった。と言いたいところだったが、働き口のないシンデレラに、こんな大屋敷に住む資金はなかった。

シンデレラは、この屋敷を売り払って残った、少しのお金を握りしめ、街に出たのだった。仕事を見つけなければならない。

普通の物語なら、ここは割愛されるが
この状況こそが一番大変なのだ。

アルバイトを探す術もない。求人広告もない。

毎日毎日、一軒一軒、ドアをノックし、住み込みで掃除をさせてくれとお願いするのだ。想像に容易いことではない。

この時シンデレラが据えていたその勇気は、
すでに舞踏会へ行く勇気を遥かに凌駕していたことだろう。

これが断たれれば、死ぬかもしれないのだ。



3.-シンデレラストーリーの形-



二週間が過ぎた日。
家庭教師をする男が、シンデレラを雇うことになった。
男は物静かで、けれどどこか温かみのある人だった。
「僕は、王族の娘に語学や算術を教えている。生活に不自由ない給与は貰えているが、なんせ家を開けることも多い。帰ってきても、次教えることの準備で三食忘れることもある。空いてる部屋があるから、そこで暮らし、家を掃除していてほしい。」

シンデレラは、贅沢こそできないが、給与と住む場所を得られた。
毎週日曜日になると、男が教会の近くの市場で、マドレーヌを二つ買って帰ってくれた。それを、静かな部屋の中で一緒に食べるのが、シンデレラの楽しみだった。
シンデレラを突き離さず、干渉し過ぎず、ただ一緒にいてくれる男に、次第にシンデレラは心惹かれ、二人は恋に落ちた。

静かで、慎ましい家。それなりに愛を育み、それなりにすれ違い、それなりに喧嘩をし、それなりに仲を戻した。普通よりも少し裕福な、暮らしだった。



ある朝、男がポストを覗くと、シンデレラ宛の郵便が一つ届いていた。



「シンデレラ、君に舞踏会への招待があるみたいだ。行ってくるかい?」



ーおしまいー

改(かい@3分で読める美味しい物語)


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