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幸せを届ける甘じょっぱい少女の想い【イワシとわたし 物語vol.10】
彼女は一人、誰もいない屋上にいた。
やっと見つけた彼が好きだという甘じょっぱいチョコ。
しかし、見つけたものの彼女はそのチョコをどう渡すべきか考えあぐねていた。
彼を喜ばせたい彼女の一人作戦会議が始まる。
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彼女は誰もいない屋上にいた。
同じ外であっても、横を通っているはずの車の音は気にならない。
誰にも知られず、この空間にぽつねんといることが不思議なものであるように彼女には感じられた。
火照った頬に冷たい風が掠め、熱を攫っていく。
雨粒がパラパラと傘を鳴らす。
彼女が一人屋上にいるのには、れっきとした理由がある。
火照った体を冷まして、必死の作戦を立てるためだ。
彼女は両手で瓶を包み込んだ。
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幸運なことに、彼女は彼の好物を聞くことに成功した。
彼は甘いものが好きだという。特にチョコが好きだという。さらには甘じょっぱいチョコなら、なお良しと彼は言っていた。
甘じょっぱいチョコ、甘じょっぱいチョコ……。
頭の中で反芻させながら、いろんなお店を探し回って、そして、やっと見つけた。
港町のお店に並んでいた「港町のバタークリーム カカオバター」。
塩が入っていて、甘じょっぱいらしい。
「よし」と遠慮がちにこぶしを握った。
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これでマフィンをつくろうか。
ケーキポップも可愛いし食べやすそう。
彼が幸せそうな顔で食べる姿を想像し、彼女は口許が緩む。
彼に食べてもらうのだ。
彼に……。
彼女は一つ大切なことを忘れていたことに気づく。
どうやって彼の好物を渡すのか。
彼に真正面から渡せるのか。
大好きな甘じょっぱいチョコを使った手作りのお菓子を。
これまでにない速さで彼女の頭の中をシミュレーション映像が流れ、みるみるうちに顔は紅潮し、耳の先まで熱を持った。
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そして彼女は、屋上にぽつねんと傘を差す今に至る。
カカオバターはもう買った。
彼女の心の中には「渡さない」という選択肢は存在しない。
しかし、彼に直接渡す勇気など持ち合わせてはいない。
では、どう渡したものか。
やっと冷めてきた両頬を手で挟み、深呼吸をする。
彼女の必死の作戦が脳内で繰り広げられる。
家のドア?
駄目だ。そもそも家知らないし。
机の上?
これも駄目。大学で席なんて決まってないし。
ゼミのみんなに「差し入れだ」と言ってどさくさに紛れて彼に渡す?
駄目だ。ゼミには勘が良いいのに加えてすぐ口に出してしまうあの子がいる。
あれやこれやと考えてみるもののいい渡し方は思い浮かばない。
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渡すしかないのか。
直接、渡すしかないのか。
想像しただけで、指先が冷たくなる。
渡すために必要なもの、勇気。
持ち合わせていないもの、勇気。
シンプルにして最も手強い。
自信を持てずに行動に移す勇気を出せない。
しかし、やはり「渡さない」という選択肢は未だ彼女の中には存在しない。
カカオバターを見つめる。
彼が好きな甘じょっぱいチョコの味。
一度大きく吸ってゆっくりと口から白い息を吐く。
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彼の喜ぶ顔が見たいのならば、小さな自信をかき集めて、面と向かって渡す勇気を抱えなければ。
どうか、私に踏み出す勇気を。
カカオバターを包む手に力が入る。
先ほどまでとは違う熱が両頬を火照らせた。
model:仮屋里桜
撮影:こじょうかえで Instagram(@maple_014_official)
衣装:LIZE Instagram(@0811lize)
撮影地:イワシビル Instagram(@iwashibldg)
文章:橋口毬花 (下園薩男商店)
イワシとわたしの物語
鹿児島の海沿いにある漁師町、阿久根。
そんな場所でイワシビルというお店を開いている
下園薩男商店。
「イワシとわたし」では、このお店に関わる人と、
そこでうまれてくる商品を
かわいく、おかしく紹介します。
vol.9 彼女が始める小さくて大きな旅
地元に戻った彼女は、今日も阿久根の街を歩く。
外に出て気づき始めたふるさとのこと。
見つけるたびにもっと多くの人に知ってほしい衝動に駆られるが、彼女の胸の中で不安が渦巻いている。
葛藤の先で彼女は一歩を踏み出す。
vol.8 不安も全部取っ払って!いいも悪いも頬張る少女
最近、何をやってもうまくいかない。
落ち込む彼女は、友達にもらった阿久根土産のビスケットを手に海に来た。
ため息を吐く中、彼女は海とビスケットの間を繋ぐあるウニの話に出会う。
and more…
モデルインタビュー/オフショット
カカオバターの紹介
イワシとわたしの聴く物語
イワシとわたしのInstagramでは、noteでは見れない写真を公開しています。
登場商品
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