アジフライは醤油派
エッセイが好きだ。
創作小説がTPOを弁えたよそ行きの服だとしたら、エッセイは部屋着という感じがして親しみやすい。
もちろんプロの方が書くのだから、計算されて統率された文章には違いないのだけど、なんだかその人自身が見える気がして好ましい。
先日「ベスト・エッセイ2023」を立ち読みした。
「ベスト・エッセイ」は毎年、新聞・雑誌などに発表された多くのエッセイの中から、秀逸な名文を選抜したアンソロジーである。
平成元年から刊行されており、編纂委員には角田光代さんや三浦しをんさんもいらっしゃる。
そんなわけで「ベスト・エッセイ2023」を立ち読みしていたのだけど、時間が無かったので「惹かれるタイトルを1つだけ読む」ことにした。
目次をパラっとめくって1ページ目。
「アジフライの正しい食べ方」
早くも満場一致で決まった。私しかいないけどとにかく満場一致。
私の中のエッセイセンサーが「こりゃおもしれえに違いねえ」と言っていた。
書き出しはこうだ。
アッ、ミスった。なんか難しそうなこと言ってる!
ページを開いて1秒、孔子の文字が飛び込んできて早くも後悔し始めた。
「どうする?もう一度目次から選び直す?」この間2秒。
私はにっこり微笑んで、どっしりと読む構えに入った。
この書き出しだけで、氏が七十歳を超えていて、博識でありながらもユーモアのある軽やかな文章を書くということが伝わってくる。
恥ずかしながら浅田次郎さんを存じ上げなかったのだけれど、「鉄道員」や「地下鉄に乗って」など数々の有名作を生み出した作家である。
タイトルの通り、実体験をもとにひたすらアジフライの食べ方について模索していく内容なのだがツルツルと読みやすい。
歴史小説も書いているんだろうなあという語り口なのに、そうめんのようにスルリと入ってくるのだ。
本を読んでいると、文章の難しさに関わらず、入ってきやすい文章とそうでない文章がある。
具体的になぜと聞かれると困ってしまうのだが、とにかく喉越しが悪い。私の喉と相性の悪い文章があるのだ。
好みの文章を書く人の本に登場する作家さんは、やっぱり面白くて読みやすい。ここ数年は、テレフォンショッキングのように紹介先を渡り歩いている。
さっそく浅田次郎さんのエッセイを注文したので、氏の本から新たな出会いがないか楽しみである。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?