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「メンデルスゾーンの手紙と回想」を翻訳してみる!
忘れもしない、2013年のことだ。
ひょんなことから、19世紀ロマン派音楽家を題材にした乙女ゲームのシナリオを執筆することになった。
文章を書くことは好きだったし、高校生の時に始めた同人活動は、すでに10年以上続いていた。かんたんなPCゲームを作ったこともある。
ただ、ひとつ大きすぎる問題があった。
私は、音楽家がわからない。
小学生の頃から、周りの女の子たちの半分(くらい)はピアノを習っていた(気がする)。その優雅さにあこがれ、習わせてくれと母にねだったこともあったが、色々理由をつけて習わせてはもらえなかった(のちに、我が家には金がなかったからだと打ち明けられた)。
高校の芸術選択は強制的に音楽だった。普通科専門コースというちょっと中途半端な学科にいたので、そこの生徒は全員音楽を選ばされた(正直に言えば音楽よりも書道がやりたかった)。
成績は惨憺たるもので、特に実技試験のあった学期はガタ落ちした。楽器のできる子たち、楽譜の読める子たちが好成績をあげていた。音楽は好きだが、科目としての音楽は嫌いだった。
そんなわけで(?)、音楽家がわからない。それまで、慣れ親しむ機会がなかった。
それでも「書いてほしい」と頼まれたら、断ることはできなかった。つまりまあ、要するに、嬉しかった。
モノカキはいつも評価に飢えているし、「あなたの書いた小説が読みたいなあ(チラッ)」などと言われたらすぐにどこまでも舞い上がるものなので(※個人差があります)。
すでに決まっていた大まかな設定を渡された。
舞台は、1830年代のパリ。芸術区分で言うと、「初期ロマン派」にあたる時代。
メインとなる音楽家は、フレデリック・ショパン、フランツ・リスト、フェリックス・メンデルスゾーン、ロベルト・シューマン、エクトル・ベルリオーズの5人。キャラクターデザイン画と簡単な人物紹介。
以上。あとは好きにやってくれて構わない、とそう言われた。
自分の知らない街を舞台に、自分の知らない世界で活躍する、自分の知らない人たちを描くとな?
正直、青ざめた。その後むちゃくちゃ調べた。
とにかくなーんにも、少しも、1ミリも知らないので、関係がありそうな資料を片っ端から読み漁った。ネットもサーフィンしまくった。
ファンの方々には本当に本当に本当に申し訳ないのだが、最初、ショパンがどこの国の音楽家なのか知らなかったし、リストがピアニストだと知らなかったし、メンデルスゾーンはバッハと同い年くらいだと思っていたし、シューマンはシューベルトと混同していたし、ベルリオーズは名前も聞いたことがなかった。本当にすまんかった。
音楽家だけでなく、舞台となる19世紀パリの資料も読み漁った。
日本文学と中国文学が好きで長らくその二国にしか興味がなく、ヘタリアにハマるまでは「フランスの首都ってローマ?」と本気で尋ねるレベルだったのにだ。先んじてヘタリアにハマっていて本当によかった。ありがとうヘタリア。
作中に出るとなったら、チョコレートの歴史とかカフェの歴史とかパンの歴史とかガス灯の歴史とか医学史とか犯罪史とか科学史とかもうなんでも読んだ。真実よりも19世紀時点での真実が大事だった。結核の原因はミアズマ、みたいな。
参考文献は100冊以上読んだし、CDは100枚以上聞いた。いわゆるクラシックのコンサートに行ったことがなかったので、聴きに行った。
ちなみにこの期間、とても楽しかった。もともと調べ物をするのは好きなので苦ではなかった。
その後にやってくる執筆期間のほうが大変だった。……まあそれは置いておいて。
先ほど、メインとなる5人の音楽家を列挙した。
フレデリック・ショパン、フランツ・リスト、フェリックス・メンデルスゾーン、ロベルト・シューマン、エクトル・ベルリオーズ。
外国語は英語すら自信をもって「できません」と言うレベルなので、日本語で読める彼らの資料を片っ端から読んでいるうちに、あることに気付いた。
資料の量に、差がありすぎないか?
日本語で読める資料が一番多いのは、ショパンだ。ダントツで多い。なんかびっくりするほど多い。図書館の開架だけで十分な量の資料に出会える。これは読まなくていっか……拾い読みでいっか……と取捨選択できるくらいに多い(それでもベートーヴェンには段違いで負ける)。
リストは、その功績を考えるともっと資料が多くてもいいと思うが、浦久俊彦氏の名著「フランツ・リストはなぜ女たちを失神させたのか」(新潮新書)がちょうど出たばかりだった。あと、ショパンの本を読むと、リストも登場することが多かった。
シューマンとベルリオーズは、ものすごく資料が潤沢というわけではないがそれでも開架に数冊ずつはあったし、二人とも生前は音楽評論家としても活躍していたので、本人が書いた文章が読めるというのが大きかった。翻訳家のみなさまありがとう。
ここまでで一昔前のバナー広告みたいに、えっ……メンデルスゾーンの資料、少なすぎ? と思った。
特に、古い資料が見当たらない。50年以上前の資料が、ほぼない。ショパンなんか100年前まで遡れそうなのに。日本語の資料でだぞ。
別に古い資料をことさらありがたがるつもりはないが、新たな発見により歴史が書き換わっていくのが好きなので、資料は新旧読み比べたい派だった。だがメンデルスゾーンの資料は、他に比べると新旧の間が狭かった。
理由はいろいろ、デリケートなものからアホらしいものまで(あるいはデリケートかつアホらしいものまで)あると思うし、本筋ではないのでここでは触れない。
とにかくメンデルスゾーンの資料に飢えていたので、英語まで範囲を広げて調べると、ある本が検索にひっかかった。
それが、 F. Hiller著 M. E. Glehn訳「MENDELSSOHN Letters and recollections」だった。
フェルディナント・ヒラーは、先述の乙女ゲームにサブキャラとして登場が決まっていた。メンデルスゾーンの幼馴染で、パリではショパンやリストともよくつるんでいたらしい。
もともとはドイツ語で書かれたこの本。訳すと「メンデルスゾーンの手紙と回想」かな? と、私はこの本の邦訳を探した。
なかった。めちゃくちゃ探したけどなかった。信じられなかった。
どうして誰も翻訳しないんだ? 信憑性がないとか? たとえちょっとあやしくても幼馴染が書いた伝記とか読みたすぎないか??
リストが書いたショパンの伝記は、戦中に2種類も翻訳され出版されているというのに。
英語はできない。できないが、辞書は持っている。中高でもそこそこ勉強した。頑張れば読める、かもしれない。
Amazonで洋書を買った。イギリスから届いたその本は、よくあるパブリックドメインを印刷した体の、サイズの大きなペーパーバックだった。
分からない単語を辞書で引き引き、鉛筆で本に直で単語の訳を書き込み、第1章の最初のエピソードを解読しただけでその内容に興奮した。
メン様(※メンデルスゾーンの名前が長いので勝手につけている略称)かわいい!
そして再度、どうしてこの本の邦訳が出ていないのかと嘆いた。
いや分かっている、多分どのエピソードも、メンデルスゾーンの伝記に抄録されているのだろう。きっと。
でもそれは抄録だ。引用だ。
メンデルスゾーンと同じユダヤ系で、幼馴染で音楽仲間で、顔が広く共通の知り合いも多くて、仲の良い時期も仲違いした時期もある、彼の才能を認めていた、自身も才能あるヒラーが書いた回顧録が、読みたいのだ。
……いろいろ考えた結論は奇しくも、普段同人活動の中で二次創作をするときにいつも思っていることと同じだった。
「ないなら、自分が書くしかない。そのうち『まさにこれこそ自分が読みたかったやつ!』という作品が現れるまでの暇つぶし用に」
そういうわけで、翻訳エンジン諸先生方の力を借りながら、誤訳を恐れず、重訳を恥じず、自分が読みたい翻訳を始めた。
まだまだ始めたばかりで終わりが見えないのだが、敲き台だと思って人目にさらすことにした。
推敲もまだ十分でない、工場直売B級品取って出しという感じだ。いわゆる「下訳」「仮訳」。
言ってしまえば本職の翻訳家の誰かの目に触れて、「なんじゃこの翻訳は! けしからん! 俺がやる!」と言ってもらえないかなーという謎の期待を込めている。ほんとお願いします。
最後まで訳したら、改めてちゃんと推敲して本にしたい気持ちはある。一応モノカキだから。
でもそれと同じかそれ以上に、この拙訳を上回る翻訳がはやく出てきてくれることを望んでいる。
というわけで、「メンデルスゾーンの手紙と回想」の翻訳を始める。
いつか近い将来に名訳が出版されるまでの暇つぶしに、気が向いたら目を通していただければ幸いである。
追記(2020.6.14)
そういえばせっかくなのでリンクを貼っておこうと思いました。
宣伝です。ダイレクトマーケティングです。
PC用19世紀ロマン派音楽家乙女ゲーム「Romantique Salon」
【公式サイト】
https://ijinkanrs.wixsite.com/romantiquesalon
【amazon販売ページ】
https://www.amazon.co.jp/Romantique-Salon/dp/B0734S5TGG/ref=sr_1_1?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&dchild=1&keywords=Romantique+Salon&qid=1592109375&sr=8-1
【DLSite.com/体験版もあるよ】
https://www.dlsite.com/girls/work/=/product_id/RJ201863.html
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