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「メンデルスゾーンの手紙と回想」を翻訳してみる! 59
第5章-20.ベルリン、1838年:ライプツィヒ通り3番地での生活
例のノヴェロについては、全て君の言う通りだと僕も思います。リストについても。
僕らがまだ序曲を演奏できないのは残念ですが、初演の前に他の曲の演奏について考えたくないのもわかりますよ。次の冬ならどうですか?
あと本当に、オラトリオを四部作にする構想を持っているんですか? とっても熱心ですね。僕もこれからどんなものを書いていこうか考えるときの、いい参考になります。
君が言うには、僕はこれからの20年で、10作のオペラと10作のオラトリオを書くことになっているらしいからね。
確かに、この世界でひとりの「真の創作者」を見出すことが出来たとして、しかもそれが僕の友人だったとしたら、君のアドバイスと模範に従いたい、励みにしたいと思うでしょう。
一度にたくさんの題材を見つけるのは難しいものです。「そう出来るようにならなくてはいけない」と考える人もいます。
ドイツが求めているのはそういった人たちですね、これは非常に不幸なことです。そんな人材が見つかるまでの間は、自分自身が精進し、そうなってくれそうな人をサポートしていきます。
器楽伴奏付きの詩篇と結婚式の合唱曲を受け取った件について、もうお礼を言いましたっけ?
すでに言った気もするけれど、もしまだだったなら、僕は結婚式の合唱曲でどれほどの喜びをもらったか、そして詩篇の音符ひとつひとつでどんなに幸せな日々を思い出したか、もう一度君に伝えなくちゃいけません。
君のフェルナンド序曲は、ライプツィヒで受け取りました。定期コンサートの最初に演奏したいと考えています。詳細はまた手紙で。
書いたらすぐに(多分11月始め頃になると思うけど、大丈夫ですか?)ヘルテルとリコルディを通して君に送ります。僕の新作もいくつか一緒に送るつもりです。イタリアにいる君が、どんな印象を受けるのかなあ!
ベルリン滞在もそろそろ終わりです。4日後にはライプツィヒに戻ろうと思っています。
ライプツィヒの教会で僕の『聖パウロ』を演奏する予定で、来週からリハーサルが始まります。
ここではとても楽しい家庭生活を送っています。昨日の夕方、お茶を飲みに行ったら家族が全員集まっていたので、君の手紙を読んであげたよ。みんなとても喜んで、思い出話をたくさんせがまれました。
毎晩そんな感じで、一緒に政治の話をしたり、議論したり、音楽を楽しんだり、とても楽しく素敵な時間でした。
この滞在中、招待を受けたのは3回だけで、公の場での音楽については聴かなきゃいけない最低限のもの以外はほとんど聴きませんでした。
最高の資源があるというのに、あまりにもひどい……先週見た『オベロン』の演奏は、想像を絶するもので、一瞬たりともうまくいかなかったのではないかと思いました。
ジンクアカデミーでは僕の曲を歌ってくれたのですが、セシルがそばに座って「あなた、落ち着いて」と言い続けてくれなかったら、僕は本気で怒っていたでしょうね。
四重奏曲も何曲か演奏してくれましたが、10年前にも演奏をしくじって私を激怒させたのと全く同じパッセージを、今回も全てしくじっていました。こんなところでも「霊魂不滅説」が証明されてしまったわけです。
解説という名の蛇足(読まなくていいやつ)
前回に引き続き、ベルリンの実家に逗留中のメンデルスゾーンからの手紙を紹介している。1838年8月17日付、3回に分けたうちの2回目だ。
「ライプツィヒ通り3番地」は実家の住所である。現在は連邦議事堂になっている件は、以前の記事で。
(久々に読み返すと表記ゆれがすごい……ライプツィガー通り、ライプツィガーシュトラーセなど同じ通りの名前です。そのうち直したい)
ノヴェロ嬢(以前の記事で既出)やリスト(以前の記事でry)についてヒラーがどんな話をしていたのかは分からないが(往復書簡にしてくれぇ……)、そこについてはメンデルスゾーンとヒラーの意見は一致しているようだ。くそー気になる。
くれくれとずっと言い続けている序曲が手に入らないのは、ヒラーの何かの初演が近いからのようだ。やっぱり前回の記事に書いた、オペラ「ロミルダ」だろうか? それともほかの初演も近いんだろうか。
ほんともう往復書簡にしてくれ……(n回目)
初演の前は、メンデルスゾーンもナーバスになったりするんだろうか。するんだろうな。
メンデルスゾーンも最初のオペラなどコケた曲はたくさんあるので、初演前に他の曲のこと考えたくないのも分かる、と同情的。でもすぐに次点の締め切りを提案してくるあたり、有能なビジネスマンでもあるんだなあ。
ヒラーがオラトリオを4部作にする構想を持っていることについて、熱心だねと語るメンデルスゾーン。嫌味なのか本気なのかはよくわからない。
というのも、どうもこの後に書かれている「この世界でひとりの『真の創作者』」のあたりのくだりが、反語っぽいというか、きみはそこまでじゃないっしょ、という行間を感じるというか……。ちょっと穿ちすぎだろうか。
「一度にたくさんの題材を見つけるのは難しい」、「これからの20年でオペラ10本とオラトリオ10本を書くことになってるらしい(笑)」あたりは、この前に受け取ったヒラーからの手紙への返答であって、やんわりと断っている・否定しているようにも受け取れる……気がする。
あーもう、落ち着いたらヒラーからメンデルスゾーンの手紙も探すぞ!! 絶対にだ!
そしてさりげなくいつも通りにドイツの悪口(笑)。これは悪口でしょ。さすがに分かるぞ。
ここでヒラーが冗談半分で言ったのだろう「メンデルスゾーンはこれからの20年で10作のオペラと10作のオラトリオを作るだろう」という予言、少し切なくなってしまった。
後の時代に生きる我々には、メンデルスゾーンがこの手紙から9年後に急逝してしまうことが分かっているからだ。
残りの9年でいくつのオペラやオラトリオを作ったのか、今度数えてみようかな……。
ちなみにヒラーの方は、オラトリオ4部作構想を実現できたんだろうか? とヒラーの作品一覧(IMSLP)など漁ってみたが、オラトリオは「エルサレムの崩壊(op.24)」と「サウロ(op.80)」しか見つけられなかった。
19世紀の音楽家兼音楽ライターのマルモンテルさんは、ヒラーの作品群について「4つのオラトリオ」と語っているようなので(ピティナの連載コラム記事参照)、オラトリオとして発表されつつ現在は別のジャンルとしてカウントされている作品などがあるのかもしれない。
「器楽伴奏付きの詩篇」と「結婚式の合唱曲」については、それぞれがどれを指すのか、リストを眺めてみる。
まずは詩篇。ヒラーの詩篇はリスト内には7つあり、出版年が一番近いのは1844年初版の「2つの詩篇(op.27)」だ。
だがop番号のついていない108番と81番も年代が近くあやしい気がする。「詩篇の音符ひとつひとつでどんなに幸せな日々を思い出したか」というメンデルスゾーンの記述も、もしかしたら作曲しているときに一緒にいたり手紙をやり取りしたりしていたのかも? と思わせる。
「結婚式の合唱曲」については……どれなんだろう……op.25、26、28が歌曲のようなので、この辺のどれかなのだろうか? 調査を続けたい。
「フェルナンド序曲」は以前からちょくちょく言及があるヒラーの序曲。(以前の記事)
やっと受け取れたんだ……年単位で待っててすごいな……まあ待つしかないのだろうけども……。
この連載、記事を小分けで書いているため、自分でも以前何を書いたかとかごちゃごちゃになってしまっているので、最後まで書けたらちゃんといろんな情報を整理整頓したい。
どの曲をどっちがどれくらい待ったのかとか(笑)
この後、手紙と一緒に送る予定というメンデルスゾーンの新作も、どの作品なのか、本当に約束通り送ったのか、いまやイタリアの楽壇に所属しているヒラーのお眼鏡にかなったのかなども、特定したいものだ。
4日後、8月21日にはライプツィヒに戻る予定とのこと。
ベルリンでの生活は、実家で過ごす時間はとても楽しいけれど、音楽イベントへの招待については散々だったらしい。
来たぞ、メンデルスゾーンさんのベルリンの愚痴だ!
素材はいいのに、というなけなしのフォローを最後に、出るわ出るわ。
一瞬も上手くいった瞬間がない、ウェーバーのオペラ『オベロン』!
セシルが止めなかったらぶちギレて暴れていたぜ自作曲!
10年前と同じ場所をしくじり霊魂不滅説を悪い意味で実証した四重奏曲!
コラで使い古された〇味しんぼのコマで「ベルリンしくじり三銃士を連れてきたよ」が出来そうである。
だけどここで「霊魂不滅説」を持ち出すあたりは、さすが「お堅い哲学博士」といったところだろうか。
次回予告のようなもの
今回は画像を入れられなかった! 目で見ても楽しく読めるように、なるべく画像をさしはさめたらと思っているのだが。
毎度おなじみメンデルスゾーンのドイツ・ベルリンへの愚痴が無事炸裂したところで、次回、手紙の後半ではメンデルスゾーンの作曲活動について書かれる。
弦楽四重奏曲、オラトリオ、オペラ、ピアノ曲などなど、楽曲がたくさん出て来る……のだけど、ちゃんと同定できるか筆者は今から不安である。頑張ります……!
次回、第5章-21.作曲への熱意 の巻。
次もまた読んでくれよな!
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