みの

MinoMafia --SideAdabana--8

「皆、今日は急な集合にも関わらず集まってくれて有難う。サンチェースが拉致されていたのは皆、既に聞いていたとは思うが、サンチェースがそこでとある情報を仕入れてきた」

狂一郎の一声から今日の集会は始まった。
”は”組織”の象徴であったが、”組織”の実質的なボスとして皆を取りまとめているのは狂一郎だった。
狂一郎の言う通り急な召集であったにも限らず、この場には100人以上の人間が集まっている。

普段集会に使われる廃工場ではなく、今回の会場は都内の雑居ビルの一室だ。建前としては、とある株式会社から一時的に借り受けている形になる。実際には”彼”とその友人である社長のつながりに依るものだと小夜は聞いていた。

小夜は皆が集まる後ろに控え、その様子をPCで文字として記録に残していた。誰に命じられた訳でもない。単なる癖のようなモノだった。

小夜の隣ではデカがワイングラスを片手に焼酎を煽っている。組み合わせに物申したいと幾度となく思ってきているものの、デカ本人がさも当然のように振る舞うため未だに指摘できたことはない。

「単刀直入に言おう。

1週間後、東京でテロが起きる」

ざわめきが部屋中を包み込んだ。
小夜はあらかじめ狂一郎から聞いていたが、初めてそれを聞いた時は同じく耳を疑わずにいられなかった。この時代に日本でテロだなんて、流石に突拍子がなさすぎる。

「念のためデータに調べさせた。データ、解説を頼む」
狂一郎の声に応えるようにプロジェクターが起動し、壁に東京の地図が投影された。併せて、港だろうか、貨物コンテナが並べられているところを鳥瞰撮影した画像が広げられている。データの姿はなかったが、スピーカーからデータの声が響いた。

「なべサンからの指示と並行して、ブツの流入を知るため、港を監視していました。そのうち、業者を装った貨物トラックの出入りを複数確認できました。そのうちの一つが、サンチェースの失踪後から、それまでの規則と外れた動きを見せています。狂一郎さん経由でキナコから聞いた、サンチェースが失踪する直前の情報を合わせてみると、別の港が犯行現場だと推測されます。そこから総当たりで監視カメラを調べたら、ビンゴ、拉致される瞬間が写っていました。あとは芋づるですね」

解説するデータの声に抑揚はなく淡々とことも無げに解説されたが、そんな簡単な話でないだろうことはその場にいる誰もが想像がついた。

「問題はここからです。サンチェースを捕らえていたのは小さな組織でしたが、裏で糸を引いているのが今回の首謀者と思われます」

壁の投影が切り替わり、東京の地図上の何箇所かに赤い点が描かれている画面が映し出された。

「まだ絞りきれていないが、この赤いポイントが標的になりうるスポットだ。前置きが長くなったが、今回のミッションはテロの阻止だ。危険が伴うため、参加は強制しない。何か質問のあるものは?」

狂一郎の問いかけに一部の武闘派はやる気を見せていたが、多くの者は戸惑いの色の方が大きかった。それも当然だろう。これまで危ない橋を渡ることは幾度もあったが、あくまで武闘派だけが請け負っていただけで、このように”組織”全体に直接知らされるようなことは無かったと言っていい。

「一ついいですか?」

集まっていたものの中から一人が手をあげた。丸メガネとヒゲが特徴的な彼は、確かスタートアップと呼ばれていた。
スタートアップは狂一郎に促され前に出ると、皆を代表するように尋ねる。

「そもそもとして、警察に投げるべき案件では? 直接あなたが出向く訳にはいかないとしても、根拠を集めて送りつければ、何かしら対策を取ってくれる可能性はあると思いますが?」

「それについては私から説明する」

会場に声が響いた。
皆の視線が声の主に集まる。
財前だった。
小夜と同じく後ろの方に控えていたが、皆の視線に応えるように前へと歩み出る。
財前を避けるように人集りが割れていく。
パトロンとして財前は”組織”に資金を提供していたが、その立場の特殊性から”組織”の中で彼を快く思わないものは少なくなかった。敵意ではないにしても異物を見るような視線を真っ向から受け止め、財前は堂々と皆の前に立った。

「よりによってあなたですか」

スタートアップもまた苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。

「スタートアップ、君が私のことを嫌っているのは知っている。だが、今回は皆の力を貸して欲しい」
「なぜですか? それこそ貴方の財力を使って政府に圧力をかけてもいいでしょう? なぜわざわざ”組織”を使うんですか?」

やや感情的なスタートアップに対して、あくまで財前は冷静だった。
一拍をおいて財前が答える。

「テロ組織に財前が関わっている疑いがある」
「は?」

「可能性の一つという段階だが、調べたところ明らかに国内から資金提供を受けている。それもかなり大規模にだ。どこが元凶までかは特定できないが、このレベルで資金提供できる所となると数も限られてくる。そして、それだけの力を持つ者に対して、この国の警察は余りに脆い」
「……じゃあ、なんですか? 貴方の身内のゴタゴタに私たちは付き合わされるってことですか!? それこそ冗談じゃないでしょう!」

「おい、スタートアップーー」
「いや、構わない」
制止しようとした狂一郎を財前が遮った。

「君のいう通りかもしれない。本来、私だけでなんとかするべきだろう。だが、私はまだ未熟だ、残念ながら一人でどうにかできる程の力がない。だから、改めてお願いしたい

ーー皆の力を貸して欲しい」

言い終えると同時に、財前は深く頭を下げた。

その姿にスタートアップのみならず会場にいたものが皆言葉を失った。
この国でも有数の財閥である財前家、その将来の家長である彼が頭を下げるということの重みが如何程のものか、分からないものは居なかった。

「……わかりましたよ、僕の負けですよ」
やれやれ、とでも言いたげにため息をつきながらスタートアップが両手の平をあげる。

「恩にきる」
「あくまで貸しですからね、きっちり返して貰いますよ」

「いいだろう、出資でも何でもしてやるさ。この国の未来に比べれば安いものだ」
財前もスタートアップも口ぶりは変わらなかったが、小夜には何処と無く彼らの表情は先ほどより柔らかく見えた。

※本作品はフィクションです。

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